写真はなるべくそのまま、目に見えているように撮ったほうが良いものだと、私は長いこと思っていた。あらゆるものが明確に見えていたほうが、写真として価値のあるものだと決めつけていた。

2013年のモロッコ旅行中、買ったばかりの二眼レフを持って、とにかく思いのままに撮影をした。初めての海外一人旅で、慣れないカメラをアタフタ使って記録する。私がモロッコ人で、そんな観光客をみたら、即座にダサいと思うであろうアタフタぶりであった。

モロッコ最終日の夜のレストラン、とても良い雰囲気だと思ったので撮影したが、暗かったので、これはダメだろうなあと予想した。

これがその写真だが、ベタ焼きを見た段階では予想どおりのカット、すぐボツにした。しかし、気が変わって大きく引き伸ばしてみたところ、これがなんだかすごく気に入ってしまった。暗いところは暗くて良い。何もかも、人の目に見える通りに、明確に記録することだけが記録ではないと私は感じたのである。

私が使い慣れないカメラで、一人海外のレストランで撮った、その時の心境そのものが写っていて、これは明確かつリアリティのある、間違いなく私だけの真実の記録である。

それ以来、暗い場所でもフラッシュを焚かずに撮影することが増えた。これはうまく撮れないかもしれない、そんな不安がなくなり、あまり躊躇しなくなったのかもしれない。

自分の心に従って続けること、周りの声に流されないこと、価値を勝手に決めつけないこと、その先には必ず光があると私は確信した。