見出し画像

アーティスト・イン・レジデンス

小学生の頃、自分宛に手紙を書いた。小学校の先生というのは、何故かそういうことを子供にさせたがる。そして先生が世界の中心の私たちは、面倒臭がりながらもキッチリ書いてしまう。これが由緒正しき義務教育である。私はこの頃から文章を書くことが好きだったので、思い切り好きなことを書いた。そしてこの内容を覚えておいてやろうと心に誓ったのである。

25歳の同窓会で、先生から自分宛の手紙を受け取った。私は内容を忘れていなかったはず、だが、ひとつ忘れていたことがあった。小学生の頃の私は、留学をしたかったらしい。そしてまだ行っていないなら、ぜひ海外留学してほしいと書いていた。海外旅行は何度か行ったが完全なるツーリスト、留学はしたことがない。手紙の私は気軽に言うが、突然、さあどっか行くぞ!とはならない。けれども彼女の夢なら少し叶えてやりたい。だから私は、日本人であるけれど、日本に来た留学生のつもりで景色を眺め、あるいは日本以外の、どこか異国へ来たという気持ちで、撮影するという試みをしてみた。

すると、いつもと違う場所にいるように感じてしまう。環境をいきなりガラッと変えることは難しいが、受け取り方を変えれば、それは今まで見ることができなかった景色へと変わる。同じ毎日の繰り返しというのは、本当はない。何かが昨日と違い、明日には絶対、今日と同じことは起こらない。私の作品性は少しづつ変化していき、それと同時に自分自身の個性を形作る。

アーティスト・イン・レジデンスは、まだ始まったばかりである。

よろしければサポートをお願い致します。マガジン「一服」の資金に充てます。