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目を閉じて

小学校3年生から、中学3年まで空手道を習っていた。安達祐実のドラマ、聖龍伝説を見て憧れたから。「安達祐実かっこいい、これって柔道?」と父に聞いたら「空手じゃねえの?」という答え。このドラマの格闘演技が、空手なのかどうか、未だによく知らないが、空手ってかっこいいと思って、始めた。私の動機はいつも単純だ。

それで今でもよく覚えているのは、最後に挨拶をするとき皆で正座して、少しのあいだ目を閉じて、精神統一というか呼吸を整えるというか、そういう時間があったこと。その後、道場訓を皆で読んで、終わり。

目を閉じているあいだ、何を考えているかというと、呼吸を数えるだけ。いち、に、さん、、、と数える。そう教えてもらったので、そうする。道場にいる皆で黙って正座するので、シーンとした時間が流れる。

「普段、生活の中で、こんなに静かな時間ってないでしょ」と先生が言った。誰かの声、車の音、風の音、その時間だけは何にも聞こえなくなって、呼吸を数える自分の心の声しか私には聞こえなかった。こんなに静かな時間って、作らないとないんだな。

暗室に入っていると、空手をしていたときのあの時間を思い出したりする。カラープリントは全暗なので、プロセッサーの機械音だけが響く。たまに先生に教えてもらったように、自分の呼吸を数えてみる。

それから蛍光灯をつけて、プリントを見る。シンプルな気持ちになって、シンプルな気持ちでプリントを見ることができる。そして次の作業に移る。

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