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物を動かす動かさない

商業写真の場合、見えるべきものが分かりやすく見えるように工夫をする。だから背景に画として邪魔なものがあれば、それは見えない所へと動かすこともある。逆に殺風景過ぎれば、他の場所から物を持って来る。位置が悪ければ、良いところまで動かす。これは写真を良くする演出であり、とても重要な行為である。

仕事では、依頼主のイメージに寄り添うようにすることが最も大切にすべきことだが、これとは全く逆で、私の個人的な写真の好みの一つとして、物を一切動かさないというのがある。

プライベートでは何の前触れもなく、いきなり私が撮り始めるので、周りにいる人たちが物を急いでどかしてくれたり、撮り終わるまで私の前を通らずに待っていてくれるのだが、私はむしろどれもそのままが好ましい。みんな好きに動いていてほしいのである。撮ろうとしたものが写らなくてもいいし、ブレてても良い。

これはよくあるカメラ女子が撮りそうな写真と言えば、それは本当にその通りなのであるが、説明をする。コーヒーの透明さとミルクとシロップの容れ物と、ピカピカの机に反射する照明が美しかったので撮った。店員さんに差し出されたままのストローの位置や、食べ終える直前のリゾットのお皿、使わなかったフォークとその下にあるナフキンはどれも動かしていない。これらの絶妙なバランスがとても良いと思った。

恵比寿ガーデンプレイス内にあるこの店は、女性客がほとんどで、それぞれの時間を過ごしていた。まるで外国のお店のような店内装飾と、少し良い服を着ている彼女たちが、絵としてとても良かったので思わず撮った。意識してない人々の動きが写真になって止まると、これは大昔の絵のように見えてくる。

仕事ではイメージに向かって物を動かすが意思は動かず、プライベートでは物を動かさないが意思は動くのである。これらの対比が非常に写真らしくて、私にはどちらも興味深い。写真のどこまでも柔軟な存在が、私をいつも楽しませてくれるのである。



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