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WTO閣僚会議、成果なく終了 漁業補助金や農業では文書採択されず

世界貿易機関(WTO)の第13回閣僚会議が2月26日~3月2日にアラブ首長国連邦(UAE)のアブダビで開かれ、ほとんど成果がないまま終了しました。優先順位が高かった漁業補助金や農業分野では、何の合意も得られず、成果文書すら採択されないという惨憺たる結果となりました。全世界から約4000人が集まり、多くのコストが投入されただけに、世界的な税金の無駄遣いとの批判が強まりそうです。
 
閣僚会議はWTOの最高意思決定機関で、ほぼ2年に1回開かれます。米国からはタイ通商代表部(USTR)代表、欧州連合(EU)からはドムブロウスキス欧州委員会上級副委員長兼貿易担当欧州委員(ラトビア)、存在感が増しているインドからはゴヤル商工相が参加しました。
 
日本は閣僚の出席は見送り、外務、経済産業、農林水産の3省から副大臣が参加しただけで、最初からやる気はありませんでした。日本にはUSTRのような貿易問題の司令塔がない現状も改めて浮き彫りとなりました。
 
漁業補助金については、2015年に国連で採択された持続可能な開発目標(SDGs)が「2020年までに、過剰漁獲能力や過剰漁獲につながる漁業補助金を禁止し、違法・無報告・無規制(IUU)漁業につながる補助金を撤廃する」と明記しています。これを受け、2022年6月に開かれた前回のWTO閣僚会議は、IUU漁業につながる補助金の撤廃で合意したものの、過剰漁獲につながる補助金の扱いでは合意できず、今回の閣僚会議に持ち越されていました。
 
しかし、前回と同様、インドの反対で今回も合意できなかったようです。インドも総論では賛成しているものの、撤廃する時期を遅らせる途上国向けの特別措置について、期間をできるだけ長くするよう求めていました。欧州委員会のドムブロウスキス氏は声明で「農業と漁業で進展がなかったのは残念だ」と表明した上で、漁業補助金について「たった1カ国が包括的な合意を阻止した」として、インドを暗に批判しました。
 
WTOのオコンジョイウェアラ事務局長は漁業補助金交渉について「未解決の溝を縮めたが、まだ少し残っている」と振り返りました。「早ければ次回の閣僚会議で決着させる準備が整った」と語り、交渉を続ける意欲を示しました。
 
WTOの決定は全会一致が原則なので、加盟する164カ国・地域の1カ国でも反対すると合意に至りません。今回の閣僚会議では、東ティモールとアフリカの島国コモロの加盟が決まり、166カ国・地域に増えるため、合意形成は一段と難しくなりそうです。
 
SDGsでは、飢餓の撲滅など多くの目標は2030年が期限となっていますが、漁業補助金は2020年と期限が早く設定され、SDGs達成の試金石とみることができます。しかし、もう期限から4年が過ぎようとしているのに、こんなにあっさりと反故にされ続けてしまうと、他の目標の達成も極めて困難だと思わずにはいられません。
 
農業分野では、合意文書案として、国内助成(補助金)や関税の削減について2年後の第14回閣僚会議までにモダリティ(大枠)を合意することや、輸出規制の強化などが盛り込まれました。食料安全保障を目的とした公的備蓄(PSH)については、ずるずると結論を先送りするのではなく、恒久的な解決策を定める案が示されました。
 
しかし、農業分野の合意文書案は採択されませんでした。国内助成や関税の削減については、日本のような農業保護国が、輸出規制の強化についてはロシアやアルゼンチンのような輸出国が難色を示したと想像されます。
 
PSHについては、インドによるコメの公的備蓄政策が念頭にあり、WTOルールに違反していても、特例措置として当面は継続を認めることになっています。コメ輸出で競合関係にある米国は、事実上の輸出促進策だとして、特例措置を早く廃止するよう主張しています。これに対し、インドは米国の批判をかわしながら特例措置を堅持しており、閣僚会議でも見直しに慎重姿勢を貫いたと思われます。

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