見出し画像

「虎に翼」3週目感想

サブタイは、「女は三界に家なし」
意味は、「女は幼少の時は親に、嫁に行ってからは夫に、老いては子に従うもので、どこに行っても安住の地はない」ということだそうです。

(参考:https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E5%A5%B3%E3%81%AF%E4%B8%89%E7%95%8C%E3%81%AB%E5%AE%B6%E7%84%A1%E3%81%97/)

こんな絶望的な諺があるんですね…。
夫にしたい人が一つ下(の次元)の筆者はどうしたら良いのでしょうか。
冗談はこのくらいにして、本題に行きましょう。

寅子の、「たとえあなたの本気が勝っているからといって、誰かを貶していい訳じゃない」いい言葉ですね。
筆者も、自分と趣味が合わない人に壁を築きがちなので、肝に銘じたいと思います。

1.よねさん…

男装の同級生、よねの過去が描かれました。
どうしていつもツンケンしているのか?の理由もよくわかりました…。

よねはカフェでボーイとして働いているのですが、そこの店長がよねの過去を話そうとした時に寅子が
「よねさんの話を、よねさんのいないところで、よねさん以外の人から聞くのは違うと思う」ときっぱり。

好感度爆上がりです。
ちょっと冷たい友達ポジの過去を、おせっかいな大人が話してしまうというのは(特に朝ドラなどでは)あるあるだと思うのですが、個人的に「それは本人が嫌ではないだろうか…」と心の中でマジレスしてしまうことがあり、それを否定する脚本も、寅子というキャラクターも良いなと思いました。

この下りを聞いていたのか、よね自ら
「私が話す」と言いました。
店長は「言いにくいだろうし…」と食い下がりますが、「勝手に決めつけないでほしい」「変に勘繰られるくらいなら自分で話す」ときっぱり。

よねさんの過去は、寅子や視聴者の我々が想像していた以上に壮絶でした…。

よねさんは、百姓の次女。父親から暴力を振るわれていましたが、お姉さんはいつも庇ってくれた。
しかし、そのお姉さんも15歳になると身売りされました。
よねさんは、売られたら何をさせられるかを知っていたため賢くあろうとした。
「女をやめる。誰よりも働くから、ここに居させてほしい」と父親に訴えるものの、口答えするなと返され、15歳を待たずして売られそうになります。

そして、よねさんは逃げて東京へと向かい、今仕事をしているカフェで働くことにしたのです。女給ではなく、ボーイとして。

よねさんの男装は、「男になりたい」からではなく、「女でありたくない」からだったのですね。辛い…。

よねは、姉が体を売ったお金が置き屋に持って行かれていたことを知ります。
どうにか取り返そうとするものの、素人の付け焼き刃ではどうにもならなかった。

諦めかけていた時、一人の男が助けてくれました。男は弁護士だったのです。
「お金を持っていないから、いい」と断ろうとするよねさんでしたが、弁護士の男は「いらないよ」と辞退します。

そして、置き屋を脅してお金を取り返してきてくれました…ここまで見ればただのいい話のように思えますが、描写からしてよねさんは、この弁護士に対価として「女性」を売っているように思われました。きつい。

さらに悲しい話は続きます。
お金を取り返せたのはいいものの、姉はあらぬ噂を立てられて置き屋に居づらくなり次の仕事も決まらず、男を作って行方をくらましたそうです。
お金は、受け取られなかった。

一度お金を床にばら撒くものの、思い直したようにかき集めるよねさんが切ない。

そしてよねさんは決意しました。
自分を見くびっている人たちと戦う武器が欲しいと。それこそが法律でした。
あまりに壮絶な過去。「私は本気なんだ」…それはそうなる。

こう考えると、「私はあなたたちとは違う」という言葉がより深い意味を帯びてきます。

2.桜川の女として


 いつも素敵な着物をお召しの令嬢・涼子さんのバックグラウンドも一部明かされました。

涼子さんの実家である桜川家は、3代続けて男子が生まれず、婿を取ることで家を繋いでいました。
当然、(おそらく)一人娘の涼子さんにもその「勤め」が回ってきます。
しかし涼子さんはそれが嫌で、法学部に進んで勉学に励んでいたのでした。

しかし母親はもちろん許していません。
「桜川の女として生まれた勤めを果たしなさい」とトドメを刺します。
父親(入婿)が涼子さんをフォローしようとしても「あなたは黙っていらして」と一蹴されてしまいます。つらい…。

筆者の勝手な考察ですが、もしかしたらお母さんも同じように夢を諦めたことがあるのではないか?と思いました。

家のために夢を諦める辛さを知っているけれど、だからこそ、娘だけがいい思いをするのも嫌だというか、歪んだ愛憎があるのではないかと…。
素人の考察ですが。

3.「痛み」はその人にしかわからない

 よねの過去話を聞いて、寅子はリアクションに困ります。

案1「辛い過去を話してくれてありがとう」
→よねさんを勝手に「かわいそうな人」扱いをしていると思い、却下。

案2「よねさんが辛い過去を持っていることと、私たちに辛く当たるのは関係ない」
→喧嘩になる。却下。

この辺りで、安っぽい同情をしないのが寅子。信用できます。このままのキャラを貫いてほしいです!

寅子は悩み、しばらく黙ってしまいます。
すると、よねが
「私はあんたらとは違うんだ。お付きの者もいないし、体調が優れなくても大学に来て必死で食らいついている。もう関わるな」とぴしゃりと壁を築いてしまいます。

寅子は、恐る恐る話しかけました。
「お月のもの(月経)が来たときはどうしているの?」
これに対して、よねは(何を聞いてるんだ)という顔をして、
「特に何もしない」
と答えます。
月経が人より重く、PMSぎみの寅子は
「頭が痛くなったり、横になって休みたいとは思わないの?」
と聞きます。

実はよね、月経が軽い(生活に支障が出にくい)タイプでした。

それを聞いた寅子は
「いいなあ。私は月のものが来ると大学を休んでしまうくらいしんどくて、始まる少し前から頭が痛くて…」
と打ち明けます。

「痛みは人それぞれなんだよ」ということを押しつけがましさ無しに伝えられた寅子。
いい脚本です。
朝ドラで女性の生理事情に切り込んだのって初めてではないでしょうか?

4.「毒饅頭事件」の真相

寅子は、よねに「あなたの話に付き合ったお礼として、みんなで一緒に「毒饅頭事件」の再検証をしないかと誘います。
事件の犯人(饅頭に毒を仕組んだ女性)には本当に殺意があったのか?
そもそもお饅頭に毒を仕組むなんて現実問題ありえるのか?

を考えようというわけです。
ここで、涼子お嬢様から衝撃の事実が告げられます。

 実際の事件では、加害者は女給ではなく女医
饅頭に仕込まれたのは防虫剤ではなくチフス菌(チフスは死に至ることもある感染症です。それを饅頭に入れて送るのはバイオテロみたいなもので、強い殺意があったと考えられる)

そして、一度は婚姻予約破棄の損害賠償請求が認められていたのです。

事情を知り、唖然とする寅子たち。
つまり「女子が法律を学び、それによって女子の社会進出を促す」というものだったはずの女子部も、
実は「女性が弱い女性に同情する」という構図を作るためのものだったと。

いや…「的外れな対女性施策」の解像度が高くて震えますね。

あくまで個人の意見ですが
「女性だから、ではなくて同じ人間として尊重し、対等に接することができているか?」
もっと言えば、
「相手を男性に入れ替えても、平等が成り立つだろうか?」

を判断材料にするのが良いのではないかと思います。
(こうした手法をミラーリングといいます。よしながふみさんの「大奥」あたりが良い例ですね)

例えば、女性が重い荷物を持っている場合を考えてください。
体力に自信のある男性が、「持つよ」と言って代わるとしますよね。
これはどうでしょう?

「女性に優しい」…本当にそうでしょうか?
もしこのやりとりが、荷物の運搬などの仕事で行われていたとしたら?

女性を対等な仕事仲間として認めていない、と言われても仕方ないのではないでしょうか。

「優遇」は時に差別になりえます。
本作の主題歌を担当された米津玄師さんもインタビューで仰っていたのですが、
「神聖視すること」と「見下すこと」は表裏一体。

「女性だから」という言葉を使った時点で、それが一見ポジティブな文脈で使われていたとしても、対等な存在として扱っていないと指摘されても仕方がないのではないかと筆者は思います。

このように考察しながら聞く「さよーならまたいつか!」の破壊力がすごい。

2番の歌詞「したり顔で 触らないで」
まさにこれですね。米津さん、主題歌を引き受けてくださってありがとうございます!!

5.戦わない人たちを見下してはいけない

よねさんが、「私はあなたたちとは違う」「あなたたちもなまっちょろいが、戦いもしない人よりマシ」と冷たい発言をしたものの、
それに対して寅子は「あなたが戦っているからといって、戦わない人たちを悪くいうのは違う」と反論します。

おそらく、親友の花江や、母・はるの姿を間近で見てきているからでしょうね。

寅子は頭がよく気が強いですが、この手のヒロイン像にありがちな「人の気持ちがわからず暴走する」ということがなく、
「おかしい!」といって喚き散らすことなく「はて?」と疑問として提示し理詰めで解決する聡明さがあります。
とっても好き。

6.つらくない人なんていない

 寅子の自宅で、女子部のメンバーによって開催された再検証会。
その結果、「毒饅頭事件」は事実からかけ離れた事案に仕立てられていたことがわかりました。

「時間の無駄だった」と吐き捨てるよねさん。
そんな彼女に、寅子の母・はるが「無駄ってことはないんじゃない?」と声をかけます。

「少なくとも私は、寅子が志を同じくする人と一緒に学べているとわかって嬉しかった」とフォローします。

突然泣き出す花江。
「トラちゃんは私を兄嫁として紹介するし、お義母さまからは褒めてもらえない…」
花江も花江で、思うところがあったのでした。

よねは、「自分で選んだ道だろ」と吐き捨てながらも、
「この人(涼子さん)はいつも見張られて自由に動けない。この人(梅子さん)は家庭を持ちながら法学を勉強している。この人(香淑さん)は国を離れて言葉の壁がある。こいつ(寅子)は月のものが重くて大学を休まなくちゃいけない時があるし、人がいいから色々押し付けられる。
…あたしからしたらみんな恵まれてる。でも、弱音を吐かずに生きてる」

と言いました。
筆者は少し感動しました。よねさん…いつもの仲間をちゃんと見ていたのね。

寅子は、また「はて…」と疑問を投げかけます。
弱音を吐いても良いのではないか?と
「弱音を吐いても何にもならない」と諦めムードのよねに対して、
「うん、何にもならない。でもね、苦しみを知ることができる」と寅子は言います。

女子部の面々も、思い思いに不満を言い始めます。
「わたくしは、何をしても家のおかげだと片付けられるのが辛い」と涼子さん。
「私は姑さんがとっても苦手」と梅子さん。
「私は日本語を間違えた時に、揶揄われるのが辛い」と香淑さん。

ここで寅子の兄、直道が加勢します。
「花江ちゃん、辛かったね。母さんの味付けは甘めだからな。丸亀の味」
と、嫁姑どちらの味覚も肯定します。
「母さんも息子が取られたような気がして寂しかったんだよね」と的外れな発言をしてしまいますが、ここで、

「僕たち、この家を出て行こうと思うんだ。近くにいると嫌いになってしまうからね」と思い切った別居の提案。
「僕は花江ちゃんが一番大事だよ」ととことん妻想いの直道。

「思ったことは言おう!」とドヤ顔で場を〆ました。
いいところ持って行ったな〜笑。
そして、花江ちゃん見る目あるね!

まとめ

とまあ、濃密な1週間でした。
考えさせられることばかりで、朝ドラの中でもぶっちぎりで社会派の作品ではないでしょうか。

王道の朝ドラのようで、毎回毎回取り上げるテーマが深い。しかしシナリオが緻密なので、(個人的には)説教くささは皆無だなと思います。

このドラマが1人でも多くの人に届いて、社会のあり方、他者の接し方に気づきをもたらすものになればいいなと思います。








この記事が参加している募集

テレビドラマ感想文

私の作品紹介

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?