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ホタテパウダーを巡って交錯する思惑

8月17日、「日本農業新聞」にて興味深い記事が掲載されました。

ホタテパウダーの農薬除去効果の検証記事です。
ホタテパウダーの残留農薬に関する記事では以前(今年の4月)「農業協同組合新聞」に残留農薬の除去効果を確認という記事が掲載されました。
こちらのnoteをご覧ください↓

※ただしリンクを張った農業協同組合(JAcom)の記事ページは現在は削除されたのか、404 File Not Found となっています。検証して実際に結果が得られているならそのまま掲載していて良いと思うのですが、色んな各方面からの思惑などが絡むのでしょうか。謎です。

今回の記事ですが、こちらはホタテパウダーに農薬除去効果はないという主旨の記事です。
農業協同組合新聞に掲載された記事に真っ向から反論しています。
そしてややこしいのが、この記事は日本農業新聞の記事であるということ。
農業協同組合新聞と日本農業新聞、何だかおんなじような響きですが、別物なんですね。
日本農業新聞のサイトの会社概要を見ると

日本農業新聞は1928年「市況通報」として発行を開始、2002年8月には、農業協同組合法に基づく「農協組織」から、オールJAを結ぶ株式会社となりました。

日本農業新聞 会社概要より

となっています。
wikipediaによると、「市況通報」を発行していたのは全国農業会という、現在のJA全農に当たる組織だったようで、農業協同組合新聞よりも日本農業新聞の方が農協(現JA)に近い組織と言えそうです。

ちなみに一方の農業協同組合新聞は、田中豊稔という方が昭和4年に「経済更生新聞」を発行したのが始まりだそうです。

一般社団法人 農協協会は戦前、農業協同組合新聞の創業者である前常任理事 田中豊稔が東京帝国大学在学中、当時世界恐慌の中で困窮にあえいでいた農村の経済更生運動に身を投じ、昭和4年帝国大学卒業と同時に「経済更生新聞」を発刊したことに始まります。
昭和23年、農業協同組合新聞と改称、協同組合協会として新聞の発行、「季刊 農政の動き」の刊行、農協機関誌全国コンクールの実施等の事業を重ね、農協運動に対する建設的な批判と農協事業の推進を通して農協運動の民主的運動の発展に資してまいりました。

JAcom 一般社団法人 農協協会とはより

このそれぞれの新聞の発行元や変遷を辿っていくと、日本農業新聞がJA寄り、農業協同組合新聞はそれより独自色が強いのかも知れません。
名前がね…紛らわしいですね…。

さて、ここからがやっと本題なのですが、今回の日本農業新聞に掲載された記事ではホタテパウダーには農薬の除去効果はない、としています。
以前のJAcomの記事で激震が走った農家界では「ほれ見たことか」という安堵の空気に満ちています。

この記事を見ていくと、実験は以下の要領で行われたようです。

  • 使ったのは市販の慣行栽培のトマト

  • 購入後にトマトの表面に農薬を改めて散布した

  • 散布したのはネオニコチノイド系と有機リン系の農薬を含む6種類の成分

  • ホタテパウダーを溶かした水と水道水にそれぞれ10分浸ける

  • 水道水で2回すすぎ自然乾燥

  • 散布後、無処理のものと合わせ3種を分析した

実験結果の数値については冒頭に張ったリンク先(日本農業新聞)をご確認ください。

実験をまとめた千葉大学の本山直樹名誉教授によると、結果的にはホタテパウダーを溶かした水と水道水は「洗浄効果に有意な差がない」という結論に至っています。

ネオニコチノイド農薬2種に関しては、ホタテパウダー、水道水の両方とも不検出となっていて、本山名誉教授によるとこれは「ネオニコチノイドは水に溶けやすいのでどちらも水に溶け出したのだろう」と推測しています。

ただ、この実験方法ではネオニコチノイドの大きな特徴である「浸透性」が全く考慮されていません。(ホタテパウダーの洗浄力実験だとしても)
また、通常であればほぼ全ての農家が用いるであろう展着剤の加用も行っていません。実態に即した実験とは言い難い印象を受けました。
実験自体はホタテパウダーの洗浄効果ですが、結果ありきの実験であり、尚且つどこかネオニコチノイドの残留安全性をミスリードさせているようにも感じたんですよね…。考えすぎでしょうか。

そして、法律で定められたトマトの出荷時の農薬残留上限値は、
有機リン酸系のマラチオンで0.5ppm
ネオニコチノイド系のクロチアニジンで3ppm
なんですが、
この実験では、買ってきたトマトに改めて農薬を散布してそのまま自然乾燥させた場合の表面の残留値が
マラチオン 0.1〜0.2ppm
クロチアニジン 0.2ppm
なんです。
農薬を散布して分析機関へ送りそこで分析されるまでに掛かった日数が不明ですが、この数字だけを鵜呑みにすれば、野菜を洗う必要すらなさそうに感じてしまいます。(実際の畑ではその他にも色んな汚れがついてるからダメですが)

ここから感じるのは、そもそも農薬の表面残留量というのは、意外に少ないんだなということと、残留値緩和の方向で進んでいるネオニコチノイドの残留値がすでにガバガバのように感じること。
繰り返しますが、実験から分析までの日数が不明なので、そこで1週間やそれ以上の日数が掛かっている可能性ももちろんあります。

さらに分析機関では120種の成分分析を行ったようですが、この実験で使用した農薬成分以外は検出されなかったということ。
それはつまり、慣行栽培でも農薬成分はほとんどが自然分解されてしまうということなのでしょうか。
もしくはこの実験で使用した成分とたまたま同じ農薬しか生産農家は使っていなかったということでしょうか。

いずれにせよ、色んな意味で興味の尽きない実験結果ではありました。

あとは、JAcomに以前掲載された「ホタテパウダーの農薬除去を確認」という実験結果は一体なんだったのか。今後続報があることを期待します。

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