ホタテパウダーは農薬を除去できるのか

先日、JAcom(農業協同組合新聞)というサイトに掲載された一つの記事がSNSの農業界に嵐を呼ぶという出来事がありました。
その記事とは、、、

「ホタテのおくりもの」というホタテの貝殻をパウダー状に精製した製品が野菜や果物に残留した農薬を分解する効果があると確認された、という記事。

なぜこの記事でSNS農業界が荒れたかというと、”ホタテパウダーに農薬を除去する効果はない”というのが今までの定説だったからです。
ホタテパウダーを溶いた水で野菜や果物を洗うと水の表面にはなにやら油っぽいものが浮いてきます。それが野菜や果物に付いた農薬だ、という謳い文句なんですが、どうやらその油膜のようなものの正体は野菜や果物が自身を守るために生成する天然のワックス成分であり、ホタテパウダー自体に農薬を洗い落とすような効果はない、という説が多くの農家の意見でした。
実はホタテパウダーというのは強アルカリ性で、野菜の表面を覆っている天然のワックスを分解させてしまうそうです。

農家、とりわけ慣行栽培の農家からすると、ホタテパウダーは農薬を危険なものだと吹聴し、根拠のない安全性を謳う怪しい商品である、という位置付けでした。

ところが、JAcomが”ホタテの貝殻から作られた洗浄剤でネオニコチノイド農薬も分解できる”という記事を掲載してしまったので大荒れです

掲載されたのが農業協同組合新聞(以下農協新聞)だから尚更です。
後ろ矢を撃たれた思いだったかもしれません。

ただ、調べてみると、この農協新聞を発行している一般社団法人 農協協会というのは、農協(JA)と密接に関係はしていますが、あくまで独立した法人のようです。
どちらも「農業協同組合」という言葉を使っているので非常に紛らわしいですね。

ただ、JAの傘下ではないからと言って、この記事がなかったことになるわけでもありません。
この記事を要約すると、以下の3点。

  • このホタテパウダーの販売元は健康食品を製造・販売する健康ラボ株式会社

  • すでに有機リン系農薬を野菜表面から除去する効果は確認済みだった

  • 今回、ネオニコチノイド農薬を野菜表面から除去する効果を確認した

以前から、有機リン系農薬の分解力は試験で確認済みだったんですね。
そこにネオニコチノイド農薬が加わったことになります。

ネオニコチノイド農薬の安全性については、日本では広く利用されている農薬群ですが、個人的に危惧している部分があり、マーフィーズファームでは一切使用していません。

ネオニコチノイドに同じような印象を持っている人からすると、今回のこの記事はとても興味深いものかも知れません。が、記事に書いてあるのは”野菜表面から除去”という部分です。

ネオニコチノイド農薬の大きな特徴は、浸透移行性です。
野菜や果物に散布すると、その体内に吸収されて植物体全体に行き渡り効果を発揮させるものです。
果たして、表面に付着したままのネオニコチノイド成分というのはどれほどあるのでしょうか。
有機リン系の農薬に関しても、表面に付着したままの農薬成分はどれほどあるのでしょうか。

野菜や果物を出荷する際には、残留農薬は基準値を下回り、安全性を満たしていないと出荷出来ないことになっています。
もちろん、一農家でそんな分析は出来ないので、代わりに「定められた希釈倍率で、散布後には定められた期間を置く」ことが青果物を出荷する際の必ず守るべきルールになっています。これを守ることで、残留農薬の安全性は担保されるようになっているのです。
もちろん、農薬残留値の安全性は常に検証が重ねられていて、今後、より規制されることもあるだろうし緩和されることもあるかも知れません。
ただ、現在のルールでは安全だと言われている残留値で出荷されているはずの野菜や果物の表面に、一体どれほどの農薬が残留しているのかは気になるところです。
また、すでに青果内に浸透しているネオニコチノイドに対してこのホタテパウダーはどういう効果があるのかも気になるところです。

最後に、マーフィーズファームでは、「農薬=危険」というわけではない、という立場ですが、”自然にあるものを活かす”という観点からネオニコチノイド系に限らず、極力農薬は使いません。

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