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読んだ本

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読んだ本の感想です。基本、ネタバレはありません。
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記事一覧

【読書】不条理さに満ちた絵本~『優雅に叱責する自転車』(エドワード・ゴーリー著、柴田元幸訳)~

柴田元幸さんの訳であること、そしてスタイリッシュなような不条理なような表紙に惹かれ、手にしました。 『優雅に叱責する自転車』という題名からして奇妙ですが、この自転車が登場人物2人を叱責しているシーンはありません。でも無言で2人と旅をすることを通じ、2人の行いを叱責しているのかもしれない、とも思えます。 原文と日本語訳を見開きで見ることができるので、英語の勉強にもなるかな。もっとも、簡単な英語ながら不条理さを含んでいるので、やはり柴田さんの日本語訳抜きでは無理ですが。 「

【読書】ネット検索は脊髄反射と同じ~勝手に応援!「ビッグイシュー日本版」(VOL.476 2024.4.1)~

「ビッグイシュー日本版」を勝手に応援する記事、第80弾です。4月15日号についての記事と逆の順番で投稿しています。そもそも「ビッグイシュー日本版とは何か」をご説明した第1弾は、以下をご覧ください。 今号の特集は「『ネガティブ・ケイパビリティ』を生きる」です。 ネガティブ・ケイパビリティとは、「不可解の中で、おや不思議だなと思う気持ちをもちながら、宙ぶらりんの状態に耐えていく」(p.10)力のことです。すぐに答えを求める今の生徒をはじめ、現在誰にでも求められる力ですね。

【読書】予想外の展開が待っている~『大力のワーニャ』(オトフリート・プロイスラー作、大塚勇三訳)~

プロイスラーファンなのに未読だったので、読んでみました。 題名のみを知っていた時、勝手に「ドイツの元気な女の子の話」だと思っていました(多分、『長くつ下のピッピ』と混同している)。読み始めたら「ロシアの怠け者の男の子(というか、もはや青年)の話」で、びっくりしました。なるほど、ワーニャはイワンの愛称なのね。 その怠け者のワーニャを、父親のワシーリとおばのアクリーナが甘やかすので、いっこうに怠け癖が抜けないわけです。ワーニャの兄2人にしてみれば、たまらないですよね。でもおば

【読書】嵐のただなかにおける心の安定~『人生の短さについて 他2篇』(セネカ著、中澤務訳)~

アマゾンのプライム・リーディングを利用して読んだ9冊目にあたります。8冊目のレビューより前に、こちらをアップしてしまいます。 ↑kindle版 世界史の教員として、もちろんセネカの名前は知っていましたが、マンガ『プリニウス』にも登場したことで、その著作を読んでみたいと思った次第です。 以下、備忘録代わりに心に残った箇所をまとめておきます。 訳者の中澤務さんによる、「人生の短さについて」の前書きです。セネカの言いたいことはすでにここに集約されていますが、実際のセネカの言

【読書】ガザのことがよく分かる~勝手に応援!「ビッグイシュー日本版」(VOL.477 2024.4.15)~

「ビッグイシュー日本版」を勝手に応援する記事、第79弾です。4月1日号より先にこちらを読んだため、先に投稿します。そもそも「ビッグイシュー日本版とは何か」をご説明した第1弾は、以下をご覧ください。 今号のスペシャル企画は「ガザ76年」です。 この特集、本当によくまとまっているので、ぜひ読んでいただきたいです。『ガザとは何か――パレスチナを知るための緊急講義』の岡真理さんへのインタビューをメインに、パレスチナ問題の期限や関連年表、現在何が起きているかについて書かれています。

【読書】循環型経済に向けて~勝手に応援!「ビッグイシュー日本版」(VOL.475 2024.3.15)~

「ビッグイシュー日本版」を勝手に応援する記事、第78弾です。そもそも「ビッグイシュー日本版とは何か」をご説明した第1弾は、以下をご覧ください。 今号のスペシャル企画は「生きのびるデザイン」です。 そこからの転換を模索するのが「生きのびるデザイン」なわけです。 これは良いことですが、取り組みの開始のことは知らなかったので、まだ目に見える形になっていないということでしょうか。まぁ、私が知らないだけという面もあるようですが。 日本中が、そして世界中が、こうなるべきですよね。

【読書】読んで良かったが……~『椿ノ恋文』(小川糸)~

「ツバキ文具店」シリーズの第3作です。 読み始めてすぐ、「あぁ、こういう世界だったなぁ」と懐かしくなりました。鳩子はすっかりお母さんになっています。 本当に、その通りですよね。 懐かしくなったと言いつつ、どうも最初は波に乗れませんでした。結婚したら案外ミツローさんがふわふわした性格だったことが分かったこととか、QPちゃんが反抗期に突入、お隣さんは騒音に敏感、といった、鳩子を取り巻く様々な問題に、中途半端な現実味を感じたからです。そのくせ、下の子どもたちの「年子だけど同学

【読書】読ませる力はある~『Blue』(川野芽生)~

第170回(2024上半期)芥川賞候補作の1つのです。 ↑kindle版 文化祭でオリジナル脚本の「人魚姫」を演じようとする高校生の演劇部員4人と、脚本を書いた友人の話です。主人公の真砂の生き方と人魚姫のあり方とがリンクし、物語が展開されていきます。冒頭でまず、内容が頭に入って来ず、混乱しました。3度くらい読み返した末、諦めて読み進めたら、「どこまでト書き?」という水無瀬のツッコミがあり、安心しました。わざと、あまりうまくない書き出しにしていたのね。 自分の性に違和感を

【読書】お仕事百景~『おつとめ<仕事>時代小説傑作選』(細谷正充編)~

「仕事」をキーワードにした時代小説のアンソロジーです。 ・「ひのえうまの女」(永井紗耶子) 主人公の利久(りく)は丙午の日の生まれなため(ということにされている)、気が強く、それが災いして縁談が破談になり、大奥に行くことになります。まぁ破談になって良かったような縁談ですが。 大奥を描いた時代劇や時代小説にあまり触れてこなかったので、これらのことは初耳でした。ちなみに「汚れた方」というのは、御手付き中臈のこと。 これも初耳でしたが、祐筆は代書の仕事もしていたということで

【読書】宇江佐真理の「紫陽花」が良い~『吉原花魁』(縄田一男・編)~

*この記事は2019年6月のブログの記事を再掲したものです。 以前ご紹介した吉原遊郭跡の街歩きツアーでは、案内人の方が経営されているカストリ書房さんで使える、500円分のチケットを頂けます。 何にしようか迷ったものの、時代小説のアンソロジー集である『吉原花魁』にしました。街歩きをしたので、背景とかが理解しやすいかと思ったのですが、まさにその通りでした。隆慶一郎の「張りの吉原」という作品から始まるのですが、これを筆頭にどの作品でも、吉原とその周辺に生きる男女の張りが描かれて

【読書】導入としては悪くない~『15歳の少女が見た紛争地「パレスチナ」の未来』(Connection of the Children)~

2024年1月23日付の『東京新聞』朝刊の横浜神奈川欄で紹介されていて興味を持ち、読んでみました。 中学を卒業したばかりの女の子のパレスチナ訪問記ということで、かなり期待していたのですが、残念ながら、期待したレベルには達していませんでした。もちろん、「15歳の少女」こと浅沼貴子さんは悪くありません。彼女は5日間の滞在から多くのものを吸収し、いろいろ考えたことを自分の言葉で率直に記しています。 まず良くないのは、地図です。使っている地図がほぼすべて転載された英語のもので、せ

【読書】自分を理解するのに役立った~『【HSPチェックリスト付き】鈍感な世界に生きる 敏感な人たち(心理療法士イルセ・サンのセラピー・シリーズ)』(イルセ・サン著、枇谷玲子訳)~

アマゾンのPrime Readingを利用して読んだ7冊目にあたります。生徒をはじめ、周囲にHSP的な人が増えているなーと思い、読んでみました。なおこの記事は、読み終わってから数ヶ月経ってから書いております(^-^; ↑kindle版 冒頭の「HSPチェックリスト」をやって、驚きました。60以上でHSPである可能性があるのですが、私は88点でした。「数字が大きければ大きいほど、敏感」(p.7)ということでなので、私自身がHSPの可能性ありですね。まぁ最大の数字は140とい

【読書】この世に自分に関係のないことはない~勝手に応援!「ビッグイシュー日本版」(VOL.474 2024.3.1)~

「ビッグイシュー日本版」を勝手に応援する記事、第77弾です。そもそも「ビッグイシュー日本版とは何か」をご説明した第1弾は、以下をご覧ください。 今号のスペシャル企画は「ふくしまの13年」です。 福島の人たちのメンタルダメージは、想像以上なのだと、改めて認識しました。能登半島地震でも、1.5次避難や2次避難が話題となっていますが、それ自体はもちろん必要なものではあるものの、避難者の方々の受けるダメージが心配です。 なお「蟻塚さん」とは、相馬市の精神科医の蟻塚亮二さんのことで

【読書】「知らなかった」では許されない~『ガザとは何か パレスチナを知るための緊急講義』(岡真理)~

同僚に紹介されて読んだ本です。 ↑kindle版 2023年10月20日の京都大学での講演と、10月23日の早稲田大学での講演を収録したもので、当然ながら内容に重複があります。でも2度語られるからこそ、事態の深刻さが心に染みてきます。 「はじめに」にあった、現在のガザについての報道は「出来事を報道しながら、その報道によってむしろ真実を歪曲、隠蔽するという、エドワード・サイードが『カヴァリング・イスラーム』と呼んで批判した『イスラーム報道』の典型」(p.4)という指摘に、