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宇佐八幡宮が気になる~『遺跡発掘師は笑わない 災払鬼の爪』(桑原水菜)~

「遺跡発掘師は笑わない」シリーズの第17弾です。今回の舞台は、別府及びその周辺です。

↑kindle版


温泉湧出量はアメリカのイエローストーン国立公園についで世界第二位、人が入浴する規模としては世界第一位だ。(中略)世界には十一種類の泉質があるというが、そのうちの十が別府にある。

p.27

これを読んだだけで、別府に行きたくなりました。


ストーリー展開は、相変わらず水菜さんのクセで、今巻だけのゲストキャラがてんこ盛りに出てくる上、話自体もややこしいです。でも、「このキャラは、さすがにいらないのでは」と思っていた人が、実は重要人物であることが最後に分かり、唸りました。伏線も上手に張ってあり、「おお、そうつながるのか」と感心しました。


印象的だったところ。


「八幡神というのは正体のよくわからない神様でね。謎が多いんだ」
「応神天皇だと言われてますけど、……そうじゃないんですか?」
「あれは後からくっつけたんじゃないかと思うよ。八幡神はもっと古い神だ。鍛冶の神様で金属や土器を司るとも言うから朝鮮半島から来た外来神だという説もあるが、私はもっと土俗的な神だったのではないかと思う」

p.209~210

まさか八幡神が「正体のよくわからない神様」だとは思いませんでした。気になるので、いずれ宇佐神宮に行かねば。


「人間を鬼に変えるもの、それは不平感です。手に入ると思っていたものが手に入らん時、自分にはそうなる権利があるのにそうならん時、ひとは鬼になるんです」
 それは単なる欲望以上にひとを駆り立てる。欲望など持ちあわせていなかった善男善女でさえ、そうなる権利が自分にあると自覚した時点で、鬼と化す種を宿すのだ。
 権利や平等という考えは、平和を生むと、世間一般には思われているが、本当のところは、取り扱いの危うい思想なのかもしれない。

p.245

鋭い指摘です。もちろん権利をないがしろにして良いわけでも、平等を追求しないで良いわけでもありませんが。

なお上記の鬼は一般的な鬼ですが、この話には「暴力で人を屈服させる鬼ではなく、災いを払い人に福を呼ぶ鬼になれ」(p.312)と言われた人が登場します。


その昔、宇佐神宮は神からの託宣を受ける女禰宜が「御験(ご神体)」そのものだった。その口から発せられる託宣は、皇位にまで影響を与えた。政治的影響力は絶大だったが、あまりに政治利用が過ぎることが徒となり、女禰宜による託宣は廃止され、「生きる人間がご神体」という状況をなくして、かわりに「薦枕」と呼ばれる物をご神体としうのだ(引用者注:「御神体としたのだ」あるいは「御神体とするのだ」の誤植と思われる)。その「薦枕」も、天皇家が天皇霊を引き継ぐための装置としての「坂枕」に類似して、古来の信仰の形を色濃く残している。

p.293~294

女禰宜のことも、薦枕のことも初耳でした。「生きる人間がご神体」という女禰宜は、卑弥呼に通じるものがある気がします。また天皇霊の引継ぎの儀式は、以前から気になっていることの1つです。やはり宇佐八幡宮、いずれは訪れてみなければ。


さて次巻では、無量はどこを発掘するのでしょうか。


見出し画像には「みんなのフォトギャラリー」から、無量の宿泊先があった別府の鉄輪温泉の画像を使わせていただきました。地獄蒸しなどを作って自炊して、少し長めに温泉に逗留するのも良いなぁと思いました。


↑文庫版



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