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4月 留学報告書

 4月らしくない天気が続いていますが、もう5月になってしまうと思うとあまりにも一瞬だったのでびっくりしています。4月の前半は精神的に落ち込んでいて、体調も悪かったので学校に行けない日もありました。でも中旬には元気になって、最近は陸上も始めました。ホッケーシーズンが終わってくさくさしていましたが、ようやく1日のエネルギーを使い切ってから寝られるようになりました。
 この頃それが楽しみで学校に向かうほど大好きな授業があります。哲学のクラスです。先生のMs.Jacksonは面白くて頭がキレて気が利いて、言葉遣いが独特です。犬を教室に連れて来たり前髪カーラーを巻いていたり、行動がいちいち自由ですが、きちんと責任感があるので私の好きなタイプの先生です。その先生に染まっているように、生徒も素敵な人が多いです。
 私のグループのOliviaは、自分の気分によって視界の色が変わったり、何かみんなには見えないものが見えるそうです。とても賢くて優しくて、多くのカナディアンの生徒と比べると気配りがかなりできる人です。学校の向かいの図書館でバイトしているので、私が放課後に勉強しに行くとたまに会います。グループで話し合いをするときは必ずと言っていいほどリーダーになって物事を進めてくれます。でも決して嫌なかんじはせず、柔らかい雰囲気で、”so, Maria, what are your thoughts?”と聞いてくれたり、もし私が言いかけたことが他の人にかき消されてしまったら、”sorry, what were you saying?”と、聞き直してくれたりします。
 そのOliviaのことをいつも頼りにしていて、Ms.Jacksonのことが大好きなAnthonyも、最高に素敵な愛されキャラです。バスケをしていて、背が高くてひょろっとしていて、たまに朝練の後シャワーを浴びて髪の毛がびしょびしょのまま来ることもあります。独り言が多くて、でもその声が独り言の声量ではない上に言っている内容が「ん?!」と反応してしまうようなことばかりなので、みんなを和ませながら話に参加しています。先生が言うこと、配る資料や友達が言ったことにただただ純粋に素直な反応をするところが、同い年の他の男子生徒たちと比べて違っていて良いと思います。
 だいたいAnthonyと私の間に座っているJoshuaは、口数が少なくて物静かな先住民族系の生徒です。めったに自分から話すことはありませんが、しっかり話を聞いていて、自分の意見を持っています。先週から話し合っている”our democracy”というグループワークで、自分たちの民主主義国家を考えて創るという過程で、国の名前や国旗のデザインはJoshuaのアイデアで決定しました。なかなか考えつかないような、そのトピックから外れているように感じたけれど、ちゃんと繋がっていてJoshuaの優しさが見えるので感動しました。今まであまり先住民族系の生徒と白人の生徒が仲良くしている光景を見てこなかったので、先住民族系と開拓民系の人たちは分かり合えないのかと思っていました。でも全然そんなことはありませんでした。先住民、開拓民とまとめたとしても、それを構成するのは人間一人ひとりなので、よく考えれば全員が上手くいかない訳はないとわかります。自分の視野が狭くなっていたと思いました。
 もしOliviaや他に仕切る人がいないときは、Samanthaが話の中心になります。だるそうな喋り方で猫背気味ですが、頭がキレッキレで冴えています。着ている服や髪型、アクセサリーが私のタイプなので思わず見てしまうことが多いです。正直な第一印象は気が強そうで少し不安でしたが、私が言ったことを”that’s a good one”と真っ先に言ってくれるときもあるくらい、人当たりが良くて性格がいいです。先生とクラスメイトに恵まれて、内容も私が興味のあることなので最高です。
 今までの学校生活で好きだった授業は、小学1年生のときの黒川先生の算数と国語と、小学2年生のときの小川先生の算数と、中学3年生のときの中島先生の数学と、高校1年から3年生までの尾崎先生の生物と、高校3年生の藤本先生の倫理ですが、ここに高校4年生のジャクソン先生の哲学が加わりました。これ以外にも人として好きな先生はいましたが、授業の内容がドキドキ、ワクワクした後にすっきりするのは、たとえ先生と馬が合わなかったとしてもずっと覚えているものです。逆に授業はあまり面白くなくて好きではなかったのにもかかわらず、その先生のことが大好きだったこともありました。人として尊敬できたり気が合ったり、授業以外での関わりが多かったりした先生たちも多いです。
 2月から学期が変わってこの哲学のクラスでほぼ3ヶ月過ごしていて、どんどん居心地が良くなっていく気がします。私がどんなことを言っても全員が何があっても否定せずに最後まで聞いてくれることがわかっているし、一人ひとりがのびのびしているので、私も自然とありのままに変顔したり変な声を出したりしても、みんながあたたかい目で見てくれるからです。そして、今まで何か授業以外で関わったことがある人はほとんどいないのに、なぜかクラスメイトのことをすごく信頼できます。何か悩んだり話したいことがあったりしたら、それを相談したいと思えます。それはきっと同じ空間で、哲学という存在をばかにせずに話し合って楽しめるという体験をしてきたからだと思います。クラスメイトがそれぞれ違う考え方を持っているというのはもうわかっていて、その上で話したいと思えるのはなんだか嬉しいです。
 学校に行きたいと思えるのが、友達に会いたい以外に、あの授業に出たいからと思えるのはカナダに来てから初めてです。日本に帰ったら絶対に恋しくなります。残り約2ヶ月で、今まで出会った人たちとゆっくりじっくり過ごしたいです。4月が終わるタイミングで、お昼ごはんのときに教室をにぎやかにしてくれていたチリ人たちや他の友達も含めた12人の留学生が帰国してしまいます。寂しくなるので、いつかお金を貯めてみんなの国に私が会いに行ったり、みんなが日本に来たら案内したり再会できるようにしたいです。

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