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境界線を越えてゆけ〜空き地で見た映画と、タイムラインと美しさの話。


落ちていた。ひどく頭痛がする。

沈んだままの気持ちは、昼過ぎのベッドの中でずっしりと重みを持ったまま、一向に浮かんでくる気配がない。

こんな日ばかりが続いている。

夏の太陽が忘れ物をとりに来たかと思えば、
突然の木枯らしと、置いてけぼりにされたような気持ちにさせる秋の匂い。
だがどうやら、夏の太陽はまだ忘れ物を残しているらしい。
懲りないやつだ。
万人にわかる正しい言語で、テレビの中の天気予報士がそんな内容を告げている。

こんな気候じゃ調子も狂う、と文句も言いたくなるが

心だっていつも、理由もないのに浮かんだり沈んだり、
この気候となんら変わりはない。


何気なくタイムラインを開く。

この世界はくだらないものばかりだけど
怒涛の勢いで流れていく波の中に、本物の言葉や、作品や、心が埋もれている。

それは、溢れかえる文字の中でキラリと光り、偶然出会うことができる
ここは宝探しのような世界だ。


毛皮のマリーズの「Mary Lou」のビデオが流れてくる

ベッドの上でうずくまる長髪の男。突き刺さる、まっすぐで妖しい視線。

その瞬間、ベッドの上の羽毛と一緒に
私の心もふわりと天井まで舞い上がった。


一向に浮かんでこない心も、本物の音楽にかかれば一瞬で浮き上がる。

音楽は魔法だし、真実だし、現実だ。



新しい小料理屋ができるという。

丁寧な仕事、洗練された空間と温かい料理。
学生時代の後輩の、生き方が見える。

自分のやりたいことをまっすぐに進めている人は
言葉にできない美しさがある。


タイムラインを見ながら、生きるということも悪くないなと思う。




「本当に何がしたいかって考えたときに、私は自分でお店をやりたいと思ったの」

7年前、正直な心を持つ古くからの親友は
そう言って都会の喧騒の中に飛び込んだ
めくるめく世界をかけ回り、私に見たことのない色の風を吹かせてくれた後

静かにぽきっと折れた。


しなやかで繊細で、まっすぐなその心の枝を
彼女は今ゆっくりと修復している。

彼女はきっと私と同じ血の色をしている。
彼女の真っ直ぐな言葉は、私の心の火に優しく薪をくべる。


さあ、次は何をしようか。

まっすぐ生きることは、難しくて、残酷で、悲しくて、
どうしようもないほどに美しい。




父は物書きになりたかった。
父は詩人になりたかった。

彼はビートルズを愛していた。
彼はただ、正直に生きたかった。
彼はただ、素直に生きただけだった。

これは私の推測でしかない。真実は、誰も知らない。




夕方、タイムラインでふと目にとまったツイートを見て
部屋着のような格好のまま、肌寒い街に繰り出した。


下北沢の空き地で、スクリーンに映された映画をみる

ライブハウスがひしめいている
劇場がすぐそこに佇んでいる

そこで起きたことが、生身の物語が、今目の前に映っている


映画と舞台
ライブと演技
歌詞とシナリオ
現実とフィクション
画面の向こう側ととこちら側


境界がゆらぐ

物語とリアルが交差する

境目が曖昧になっていく




深夜に思いの丈をしたためて送る
最近やっと分かってきた
自分の本当の心。作りたい世界。


その人は全ての境界線を軽々と飛び越えていた
その手で世界を作っていた
魔法使いのようだった
少しでも触れたいと思った



隣に座るミュージシャンは、下北沢を自分の世界にしていた
長い長い、一瞬のような物語
懐かしい響き
それでも続いていく日々

私も財布の中にはタクシー代を持つようになった



その日、そこにいる誰もが美しかった




私もそろそろ

この中途半端に続けてきた偽りの生活を

ぶっ壊してやろうか、なんて思っている。



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