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In Praise of Net Curtains

日本でいうところの「レースのカーテン」を英国では一般に'net curtain'という。そして、私の周囲の建築関係者の間で「ネットカーテン」の評判は至極低いものだった。窓という建築的にいうと「空間」を形作る重要でかつ効果的なエレメントを、その計算づくの直線できっぱりと区切られた「開口部」を、ぼやぼやふわふわとした布で覆ってしまうことに対する嫌悪がその理由だったのか。あるいは「他人の目を気にしてカーテンを引いて暮らす」という行為を「小市民的」なものとして、どこかで見下していたのもあったかもしれない。

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英国人はネットカーテンが好きだ。好きだというと語弊があるか。英国の住宅のほぼ全ての窓にはネットカーテンがかかっている。

パリ生まれパリ育ちの友人Aが笑っていった。覗かれるのが嫌なら都会に住まなければいい。覗きながら、覗かれながら生きていくのが、都市生活の醍醐味、愉悦なのだと。ヒッチコックの裏窓みたいな、と彼女はいった。ジョルジュ・ぺレックのLife A User's Manualの街から来た人だなあ、と私は思った。

英国にいた頃は、たとえそれが寝室だろうと、窓にネットカーテンをかけたことはなかった。

大阪に帰ってきて、古い団地の5階に部屋を借りて事情が変わった。大きく変わった。かつての3室をひとつにつなげた居室には南向きに大きな窓がある。北側にもある。ダブルのベッドを置いたらいっぱいの寝室は南側一面にベランダへの掃き出し窓がある。光も風もいっぱい入ってくる。隠れる場所はどこにもない。本も、家具も、観葉植物も日に焼け放題だ。

これは困ったと観念してネットカーテンを吊るした。そして目を見張った。ネットカーテンって、こんなに美しいものだったのか。カーテンを引く、開ける、南の空、北の空、早朝、夕暮れ、映る影、揺らす風、ネットカーテンという「仕掛け」のある窓はこんなにも多様で豊かだったのかと、帰国して発見したことのひとつだ。

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