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「母の手仕事」生きていたしるし

きんもくせいの香りがする季節になった。
母の部屋の窓をあけると、時折いい風がはいってきて、隣の家の庭木の中で小さく実ったみかんが陽の光をあびて黄金のメダルのように輝いている。
母は西側のこの窓を、夏は西日が暑いと嫌がっていたが、窓からみえる花や木々には季節を感じるといって、それはとても気にいっていた。

母の遺した膨大な手芸作品のほんの一部、1メートル以上ある大作のキルトを中心に30作品ほどを撮影して写真集にしてみた。母の作品も使っていけばいいのだが、たぶん、私のこれからの一生では使いきれない。何より、母が生きていた証として、何かしっかり残しておきたいという気持ちで、普通のフォトブックよりちゃんとした体裁にした。最近は、PCで簡単に作成できるのでほんとにありがたい。しかし、肝心の写真の技がイマイチなのと、撮影中、感情が入りすぎてしまい、結果的に、かっこよく仕上がったかどうかは全く自信がない。しかし、これは身近な人に母の想いでとして持ってもらうものなので、まあ、未熟な写真でも堪忍してもらおう。

8月にコロナ陽性になったりして作業が中断してしまい、やっと完成してSNSにアップしたら、なんと、母のことを覚えてくださった昔の会社の先輩が、その本はどこで入手できますか?とメッセージをくださり、もらっていただくことになった。
また、今回の制作にあたり、6月ごろに駅ビルの中で、テンポラリーに手作りの洋服を出店されている方と知り合って、「手芸作品を見ていると母を思い出します。母も手芸が得意で作品がたくさんあり、インスタや本として残そうと思っています」とお伝えしたら、「それはいいこと。お母さまもきっと喜ばれる。今日、帰ったらまずインスタのアカウントを作ってください。フォローして見せていただきます」と背中を押してくださった。

母の作品とそれをまとめたことで、こうして小さくても物語が少しづつ広がっていくことは、私にとってとても嬉しいことだ。
SNSはネガティブな面もいわれるが、こうして、誰でもがデジタルで何かを残していけるというのはとてもありがたいこと。母の物語と母のいた時間が、少しでも長く誰かしらの想いでの片隅で残っていてくれたら、ほんとうに嬉しい。

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