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ある日

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1%

すこし道化の気持ち、そしてすこしすがるように、そして正直に、じぶんのことを話してみたところ、「そんなことはない」と言われる。 思ってもみなかった。 そう言われてみて、1%くらい、自分でも「たしかにそうかもな」と思ったし、そう言われることをちっとも予想していなかったわたしは、うれしい気持ちになったのだった。 じぶんの姿は、じぶん以外のひとにも見えているのだ。 たぶん、木にも鳥にも見えている。 目のいい蜘蛛にも。

まっさら

小さいときに、日中にわたしを預かってくれているお家がありました。 通っていたのは4歳くらいまでのことだったようで、記憶はとびとび。 そのとびとびたちは時々ふわっと浮かび上がるので、むかしのことなんだろうけれど、なんだかちっともむかしのことのように思いません。 その家のお姉ちゃんと、キョンシーの出てくる不気味なテレビを見るのが怖かったこと、 その家のお母さんと一緒に自転車に乗って畑に行った午前中のことや、青空の下じゃがいもの葉っぱが生い茂っていたこと、 赤いスモックを着て黄

ラップでくるむ

学生のとき、”wrap” というのが “くるむ” という意味だと知ったとき、なんだか深く腑に落ちた。くるむって、wrap という感じがする。”くるむ” と “wrap” も似ている。不思議なもので。 さてわたしは万年筆をラップでくるんだ。飛行機に乗るのに、万年筆を機内に持ち込むつもりでいて、無いとは思うがもし気圧の変化やなにかで万年筆のインクが漏れてしまうことを踏まえ。くるくる。wrap, wrap. くるみながら、くるんでいいんだものなあ・・・と思った。残ったキャベツの

ずっと見ている

歩いていたら、首に赤いバンダナを巻いたコーギーが、飼い主らしきおばあさんの準備が整うのを、家の前で待っている。うれしいのかどうかわからないけれど、傍目にはうれしそうに、白い帽子をかぶったおばあさんのまわりを行ったり来たりしている。「かわいいねえ」と言うと、舌を出したまま笑ったような顔で寄って来てくれる。「ありがとう」とおばあさんが言う。女の子なんだって。彼女のまわりを花がふわふわ舞い、桃色(どちらかというと、皮をむいたときの桃の色)の幸福感をまとっているみたい。 わたしのとこ

呪文の練習

美術館の廊下の椅子に座っていたら、小学生らしい数人の女の子男の子、それから耳の下くらいまでに切り揃えた白髪の女性が歩いてきた。 壁沿いの、棚の置いてあるところで一人の女の子が立ち止まり、 「さっきの、メモしていいですか?」 とたずねる。艶のある黒髪と羽を広げたような素敵な眉の女の子。 「ああ、さっきのね。良いわよ」 と、少し先を歩いていた白髪の女性が立ち止まって返事をする。 「”ペリクルパッチーニ” って2回言うのよ。それで、階段降りたところで、”復活” って言う