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ダンマパダとスクールバス

2018年、結婚をしてアブダビに引っ越す前に、ホノルル、シカゴ、ニューヨークを巡る旅をした時、ちょうど仕事が入って、incausa(インカウザ)というブラジル先住民の財政支援やチベット移民達のビジネスサポートをしているブルックリンをベースにしている工芸品ブランドの取材に行ってきた。元々は無一文、手作りのお香と仏教本を小さなテーブルに並べてベッドフォードの道端で売っていたのがブランドの始まりだったというヒッピーの芳ばしい香りのするお話をオーナーのビン氏から聞いたのだが、その頃に販売していたという本をお土産にもらった。小さなポケット本で、これはプロパガンダではないから!とビン氏は言っていたものの、DHAMMAPADA The Saying of the Buddaというこれまたヒッピーの芳ばしい香りのする仏教本だった。しかし、全てのチャプター、身に沁みることしか書かれていない。この本をスーツケースに入れてアブダビに向かい、なんとなく毎日読んでいた。全く無宗教な人間だけど、人の心の拠り所や救いになるものがある、というのは良きことなんじゃないかな、信仰心を持つことは(それこそ押し付けたりせず、人それぞれだという理解がある限り)なかなか素晴らしいことなんではないかな、と思ったりもした。とりあえず、今までオープンに見えて信仰やらに対して割と閉鎖的だった自分がいたことにその時気付いた。

ちなみに、そのダンマパダより好きな言葉。
your worst enemy cannot harm you
as much as your own thoughts, unguarded.
あなたの最大の敵ですら自身の軽率な思考ほどあなた自身を傷つけることはない。

また話が戻るのだが、インカウザのビン氏、サービス精神旺盛で終始盛り上がり、ボロボロのバンで色んなところに連れて行ってくれた。工芸品を生産指ている自社工房、ビン氏曰く一番美味しいお茶屋さん、キックスターターの本社など。こういう経験、昔にもしたことあるなぁと思い出したのが、私がニューヨークで働いていた時代に起きた出来事だった。

大学卒業直後のその当時、小さなギャラリーでコーディネーター駆け出しのようなことをしていて、完璧な英語でプレスリリースを書くなど、全て小さなことだけど自身の能力以上のことをしていた上に自信もなく仕事も出来ないのでボスからはいじめられ、毎日ストレスで瀕死の状態。そんな中、チェルシーにあるとあるギャラリーのオープニングに行ってこいと言われ、感性も全く失われた状態で現場へ向かった。思い入れも興味もないので早く帰ろうとしてたら、見知らぬおじいさんにこのワインを飲め、と声をかけられた。なんだか危なそうな人だなぁと思っていたら、お腹空いてるか、SUSHI食べに行こう、奢るから!と言われたので、まぁいいかとついて行ってしまった。ギャラリーを出ると、これが僕の車、と、黄色いスクールバスを指差して言ってるから、またこの人は何を言ってんだろうと思ったら、普通に鍵を開けて運転席に腰掛けて、大きい車欲しかったんだよね、とか言うから、このおじいさんほんとはただのバス運転手なんだろうなと思ったら、後部席に誰かいる。よく見るとあからさまにホームレスっぽい爺さんが座っててギョッとしたら、彼は住むところがないから、このバスの中に住まわせてあげてる、とおじいさんが言う。

このままついて行ったら何かとんでもない事件にまきこまれるかもと思ったけど、その頃は毎日が嫌で何もかもどうでもよくなってたから、えい、とバスに乗り込んでしまった。ここまでくると、おじいさんが何をしている人か聞くのも愚問かなと思い、おじいさんに何も聞かないまま高級寿司屋の前に到着した。スクールバスを駐車して、高級なお寿司をたくさんオーダーして、たわいもない話をして食事を終えた。おじいさんは、飲酒してたのでもうバスに乗せてもらうのは嫌だったので、そのまま連絡先も聞かずにタクシーに乗って帰路についた。ちなみにおじいさんは、巻き寿司か何かをスクールバスの中の住人に持ち帰りしてあげていた。

こういうランダムな出会いと冒険は割と中毒性があって、そういう出来事を数年間住んだアブダビでも他の土地でも求めていたし、今、25年ぶり生まれ故郷に帰ってきて、未だそれをぼんやりと期待している自分もいる。今は自分の正体をあやふやにして地元のスナックで働いている。肩書きを気にせぬまま飛び込む関係性は構えることもなくありのままの姿の発見の連続で面白いなと毎日感じている。今後もふらふらと色々とおもしろい発見や事件の報告をしていけたらなと思う。

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