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ヘアピン

日本の高校には半分しか行ってないけど、女子校に通っていた。

周りは女の子ばかりという環境な上に、私はそもそも(その当時)恋愛に疎くて、それをさらに加速させるかのように手の届かないアメリカのキラッキラしたアイドルたちに手当たり次第ファンレターを送りつけ、現実逃避ばかりしていた。私と同じ空間にフィジカルに存在する男の子と話すのが極端に苦手だった。

友達に付き合わされ合コンにも行ったことがある。まぁ見えないだろうと思い足の毛を剃らずに行った。その後知ったけど、私は男どもに裏で毛虫と呼ばれていたらしい。

気づいたら、周りは彼氏がどんどんできていた。その波に乗れない私は焦った。現実世界にいる男の子とは喋れないし好きになれないけど波に乗ってみたい欲はあった。周りの友達たちみたいに、学校帰りに駅で待ち合わせて男の子と手を繋いだりプリクラを一緒に撮ってみたいなぁと漠然と思った。そんな私に、共学に通う友達が同級生の男の子を紹介してくれると言った。そしてその友達も含め、グループデートみたいなのに出かけることになった。

グループデート当日、待ち合わせ場所に行くと友達と男の子が2人いた。1人は可愛い顔をした背の低い男の子で、もう1人は背が高くて髪の毛の色はドス黒い異様な赤色、ヘアピンをたくさんしていて化粧もしていた。島根に1人だけ存在するビジュアル系と呼ばれていた人物だった。

友達は可愛い顔の男の子を私に紹介したかったらしい。男の子たちとは音楽の話とかは楽しくできた。私やれるじゃんとちょっと安心した。可愛い顔はブリットポップが好きだと言っていた。ヘアピンはシャズナが好きだと言っていた。その時点で私は、ブリットポップ好きの可愛い顔の方がいいなと思ったけど、やっぱりふたりとも好きになれそうにないなと思い、その後はうわの空でアメリカのアイドルたちに想いを馳せていた。

そして、4人で本屋へ行った。可愛い顔が棚の上のほうにある本を取ろうと背筋と手を伸ばした時、なぜかヘアピンがその可愛い顔を後ろからぎゅっと抱き寄せ、可愛い顔の髪の毛に顔をうずめた。その瞬間、なぜかヘアピンにキュンときてしまった。あ、好き!!と思った。今思えば、その慣れないBL的シチュエーションを目の当たりにして萌えてしまっただけだったのだが、なぜか私はヘアピンのことが好きだ!!!と間違って脳内変換してしまったらしい。慣れないことは難しい。

その日はドキドキしたままみんなと別れた。すると次の日、可愛い顔から付き合ってくださいとメールが来た。ごめんねと断った。すると、なんとヘアピンからも付き合ってくださいとメールが来た。えー!!!すぐに、いいよと返信した。これで私にもついに彼氏ができた。心から嬉しかった。

数日後、ヘアピンと2人で初めてデートした。プリクラを撮りたかったので一緒に撮って、手も繋いでみたかったから手を繋いだ。そして満足して帰宅した。次の日、学校の友達たちに白飛びしまくっているプリクラを見せた。みんな、いいねと言ってくれた。これが彼氏を持つ女の気持ちか。満足した。その一方で、ヘアピンに対する気持ちは急速に冷めていった。

その頃の私にとって、映画を観たり音楽を聴いたりカルチャー雑誌を読みふけったりアメリカのアイドルたちをディグったり部屋の家具を銀色に塗りつぶしたりするのに費やす時間というのが何よりも重要だった。なので、正直、ヘアピンに会うのは面倒くさかった。ヘアピンからメールが来ても放置した。電話がかかってきても、忙しいと伝えてすぐ切ったりしていた。

ヘアピンと付き合い始めて1ヶ月。デートした回数は一度きりだった。ヘアピンの存在を忘れかけていたその頃、学校帰りに友達のなおことソニプラに寄った。化粧コーナーに行くと、アイシャドウを物色しているエキセントリックないでたちのヘアピンがいた。久しぶりーと声をかけ、なおこには私の彼氏だよとヘアピンを紹介した。WOWWOWで観たい映画があったから、じゃぁ行かなきゃと言ってヘアピンより先になおこと一緒に店を出たところで、なおこが、まり、ヤッベェ奴と付き合ってるな!!!と本心を口にしやがった。でも、あ、ヘアピンってやっぱヤバい奴かな、と素直に受け止めてしまい、その夜ヘアピンに電話して別れを告げた。ヘアピンは泣いていた。

私はもともと集団行動が苦手で、巷の人びとがなぜ足並みを揃えるように生活しているのかよく理解できなかった。でも、繊細なお年頃の私は変人とラベリングされるのは避けたくて、人並みになりたかった。周りの人の歩みを見てそれっぽくマネしてやり過ごすように生きた結果、ヘアピンは見事に私のアクセサリーとして消費されてしまった。まさに、次から次へといつの間にか無くなってしまう箱入りの大量ヘアピンのようである。大変申し訳ない。私がそれなりの女子高生っぽい経験をしたいがために、堂々とありのままの自分でいることを恐れてしまっていた結果ですね。非情である。でもヘアピンはある意味、田舎町でただ1人のビジュアル系(笑)と指さされながらも我が道を歩んでいたタフなやつだったかもしれない。その後も百貨店などの化粧コーナーに頻繁に出没していたヘアピンは、己のあるべき姿を知っていた素敵な人間だったのであろう。

その後、私はオーストラリア、アメリカへと移り住み、ありのままの姿が許される土地で大爆発した。またその話を書こうかなと思います。それでは。かしこ。


 

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