UXデザイン手法を取り入れただけではユーザーに価値は届けられない

この記事は Goodpatch Design Advent Calendar 2021 9日目の記事です🎄

こんにちは。GoodpatchでUXデザイナーをしている村上です。
この記事ではは自分が日頃プロダクト/サービスのUXデザイン業務に携わる中で、やっぱりただUXデザインをするだけではエンドユーザーにしっかりと価値を届けることができないなと痛感することが多いので、デザイン手法だけじゃなくて土台となる関係者のマインドであったり、組織のありかたみたいなところもとても大事という話ができればと思います。

もちろんこんなこと当たり前にできているという企業さんも多く存在すると思います。ただ、これから自社にUXデザイン手法を取り入れてみたいと思っている方が、せっかくUXデザイン手法を取り入れてみても「なんだ全然効果ないじゃないか」とがっかりされたら勿体無いなと思い書いてみることしました。

なお、今回お話するのは主に営利目的でデジタルプロダクト開発を行っている現場向けのUXデザインの話です。

1. ユーザーに価値を届けたい

特にデジタルプロダクトの開発や運営においては、最近では当たり前のようにUXデザインという言葉が認知されてきていると思います。

でもUXデザインが具体的に何をしようとしているのかと聞かれると、体験設計という抽象的な話になってくるので、実はふわっとしたイメージしか持っていない方も多いのではないでしょうか。

UXデザインがなんなのかを一言で説明するのは難しいのと、簡単に説明してくれている素晴らしい記事がたくさんあるので、ここでは定義するのをやめておこうと思いますが、UXデザインが注目されるようになった理由の一つは顧客に確実に価値を届けるためにUXデザイン手法が有用だからではないかと思います。

商売的な意味でのビジネスはシンプルにいうと提供する価値に対して対価を得る活動です。しかし、モノやサービスがあふれる時代においては選べる価値の選択肢が増えすぎて、価値を確実に想定顧客に届けることが難しくなってきていると言えるのではないでしょうか。そのような状況で、自社の提供価値を顧客に選んでもらうためにはどうやらUXデザインが大事らしいぞとなっているのではないかと思われます。

確かに特にデジタルプロダクトの開発・運営を行う上ではUXデザイン手法を取り入れることは有用だと思うのですが、これまでクライアントワークを行なってきた経験からも、UXデザイン手法を取り入れるだけでは顧客に価値を届けるには十分ではないと感じています。

2. UXとは主観的で文脈や環境に左右される

その理由に入る前に、今回の話を理解するにあたって重要だと思うUXやUXデザインの要素を説明させてください。

2-1. UXとは主観的なもの

当たり前のようで意外とよく分からないUX特徴として、UXは主観的なものだということが挙げられます。例えば「甘いものを食べてリフレッシュする」と言う価値がユーザーに求められていたとして、それを実現する手段として「アイスクリーム」というプロダクトを提供したとします。

さて、それではユーザーが甘いものを食べてリフレッシュしたいと考えたときに、アイスクリームをもらったらどのような体験であると認識すると思いますか?

まぁ、わかりませんよね。

アイスを食べて結局うさぎさんがどう感じるか、どう思うかはあくまでうさぎさんの感覚に委ねられるため、厳密にいうとUXは直接は設計できません

そのため、例えどんなにUXデザイン手法に熟知した人であっても、このプロダクトでこういう価値を提供したいならこういうUXデザインをするべきだ!と断言できるような「素晴らしいUX」の答えは誰も持っていません

2-2. UXは文脈に依存する

厳密な意味ではUXは設計できないのですが、その対象者の文脈を知ることによってどのようなサービスを提供すればどのような体験と思われる可能性があるかを予測できるようになります。UXデザインにおいてはどんなユーザーがどんな環境でサービスやプロダクトと関わるのかという文脈を徹底的に理解しようとします。

うさぎさんの健康状態は?うさぎさんのライフステージは?家族はいるのか?今うさぎさんはどんな温度の部屋にいるのか?これまでのアイストの関係性は?今誰と一緒にいるのか?今何をしているのか?うさぎさんの文化圏においてアイスがどんなイメージを持たれているのか?そもそもうさぎはアイス食べるのか?

つまり、UXが文脈に依存するということは、価値を届けられるかどうかも日々の環境の変化に応じて日々変化するということです。

2-3. まとめると

顧客に価値を届けられるUXの答えは誰も持っていなくて、且つ日々変化する可能性があるものです。

3. UXデザイン以外に必要なこと

さて、前提の話が長くなってしまいましたが、ここからは実際にUXデザイン手法を取り入れたときにユーザーに価値を届ける阻害要因となりがちなことを書いていきます。

3-1. ユーザーを理解することに投資できるか

先ほども書きましたが、可能な限り良い体験であるとユーザーに思ってもらうためには、ユーザーやその人の置かれている環境、価値観などを徹底的に理解することが重要になってきます。

つまり、UXデザインをするということはユーザーを理解する工程を含めることがほぼマストなのですが、これが意外と知られていなかったりします。サービスを作る前だけじゃなく、作っている途中の検証や、リリースした後の検証もこのユーザーを理解するということに紐づきます。

「そんなことにお金や時間をかけている余裕はない。自分はもうユーザーのことは十分理解している」と言われることが意外と多いのですが、例えば私が自分の家族向けのサービスを作れと言われたとしても改めて簡易的にでもリサーチしないと分からないことが多くあると思ってしまうので、すでに十分わかると言える状況はなかなかないのではないと考えています。

ユーザーを理解することをすっ飛ばして結局誰も使わないサービスの開発に投資するよりも、少し時間と予算を投資した方が効率が良位のではないでしょうか。

3-2. 継続的にユーザー体験を向上させるための仕組みが構築できるか

例えば丁寧にユーザーリサーチをした上で体験設計を行い、その過程でユーザーテストなどの検証工程も交えながらこれはいけそうだとなっていたとしても、完成したプロダクトをリリースしただけでは良い体験をユーザーに届けられたことにはなりません。

まず、可能な限り文脈を考慮した設計や検証をリリース前に行っていたとしても、実際のユーザーが使ってみると想定していなかった改善点などが判明する可能性はおおいにあります。そのため、デジタルプロダクトを運営する場合はスピーディーに課題を把握し、対応するための仕組みが整っている必要があります。外部にお願いして専門家にUXデザインをしてもらった場合であっても、それを運営するための組織を結局は自社内で整備する必要があります。

また、前述の通りUXは文脈に依存するため、リリース時点ではユーザーに価値を届けられていたとしても、昨今は環境が目まぐるしく変わっていくためそれに合わせて変化する文脈に応じてリリース後もどんどんプロダクトをアップデートしていかないとユーザーに価値を届け続けることができなくなってしまいます。

3-3. 各種関係者間のスピーディーな連携と適切な意思決定ができる組織になっているか

一つ前の改善体制と同じく組織的な観点になりますが、ユーザーに価値を届けるための阻害要因になりやすいものとして企業の文化や組織体系も関係します。ユーザーに価値を届けるために必要なステークホルダーが連携できているのか、適切な意思決定を行える土壌が整っているのかなどが重要になってきます。

例えば、「営業部に既存の顧客のヒアリングをお願いしたいんだけど、自分の営業成績には結びつかないことだから中々対応してもらえない」、「ユーザーインタビューを反映してこの仕様にしたのに、偉い人の鶴の一声で勝手に変えられてしまって文脈がチグハグになってしまった」などといった状況がユーザーに価値を届けるための阻害要因になります。

対象となるサービスがその企業にとってどの程度重要度が高いのかにもよりますが、少なくともデジタルプロダクトを主に扱う企業であるならばそれに見合ったインセンティブ設計やKPI設計、意思決定フローなどの仕組みが適切に設計されていることが必要になります。

4. 終わりに

UXデザイナーとしてはUXデザイン手法は大事だよ!とは言いたいのですが、合わせてその力を発揮する土台づくりも並行してやっていかないと難しいなと日々感じています。

まだまだ勉強中なので色々足りない視点とか厳密にいうとちょっと違うよみたいなところも記事内にはあるかもしれませんが、一旦クライアントワークとしてUXデザイナーをやっていてぶち当たる壁としてこういうものがあるんだなーと、参考になると幸いです。

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