ユニットバスにて

文字が読みたい。文字が読みたい。文字が読みたい、、、

「星の王子さま」の続きが読みたい。

散らかった部屋からは、愛蔵版「星の王子さま」のブックカバーしか見つからない。

仕方なく谷川俊太郎の詩集をつかみとってトイレにかけこんだ。

余計なものを全部だして、言葉を体に入れたかった。

開いた瞬間 154ページ

(以下、引用。)

「詩めくり」

二月二十九日 うるう年のために

知性は結局敗北するだろう

と生まれたばかりの赤ん坊が言って

二時間後に死亡したので

報道管制がしかれた


五月二十六日

生きられる 俺は生きられる!

十七歳の彼は思った

私は死ねる

六十一歳の彼は思った

(引用、おわり)

これが飛び込んできた。

ページをめくると、156ページ

(以下、引用)

「よしなしうた」

すいぞくかん


おれ さかなだったころ

あんなふうに きどっておよいだ

ちょっとおびれを うごかして

きゅうに させつしたりした

おれ さかなだったころ

あんなふうに きらきらしていた

にんげんなんか みたこともなくて

にんげんになってから おれ

わらうことを おぼえた

おかしいとき わらった

かなしいとき わらった

おこったとき わらった

さかなより ずっとへただが

およぐことさえ ならったのだ


ともだちの とびおり


ともだちが ビルの九かいからとびおりた

六かいのテラスで はずんで

三かいのひさしに はねかえり

一かいのうえこみに おっこって

ほっぺたと むこうずねを すりむいた

ともだちはエレベーターで 九かいにもどり

びんせんはんまいのかきおきを よみかえす

てにをはが三かしょ まちがっていたので

とりあえずそこを かきなおし

こんどは十六かいまで かいだんをのぼり

もういちど とびおりた

十二かいで はねがはえ

十かいで かぜをとらえ ともだちは

よぞらを ゆったりとせんかいした

(引用、おわり)

呆然としながらユニットバスを飛び出して、

言葉の力を思い知る。

詩を書きたいと思った。

心に刺さるものを残したいと思った。

いつも笑っていたいけど、

ご機嫌をとるのがすべてじゃないなといつも思う。

きらわれたくないけど、

きらわれても良いから自分を表現したいと思う。

でも、誰かを傷つけるのはこわい。

みんなが嬉しくなれば良いのに。

でも、一番自分が嬉しくなりたいんだろうなと思う。

自分勝手な私は今日も自分の何かを残したいと、もがきながら、

軽い気持ちで生きる。



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