エッシャーの絵

高校一年の夏休みの宿題で「エッシャーの絵」というタイトルの小説を書いた。毎朝学校に行こうとするが行けない、という女の子が主人公で、「目覚まし時計ではなく両親を止めてしまいたくなる」とか「上り電車に乗っている人の顔がみんな同じに見える」とか書いた気がする。学校の最寄り駅に降りると、生徒たちのおしゃべりがヒバリか何かの大群に見えて、その中を進むのがしんどい。頑張って頑張って校門を目指すのに、前に歩いていた子が振り返って自分を見た途端「ふりだし」に戻ってしまう。それが、美術の教科書に出てくるエッシャーの「不思議な階段の絵」みたいだ、と書いた。

当時の自分の心情を「創作」の宿題にぶち撒けた、ら、学園誌に掲載されてしまった。
「すごいね、よくあんなの書けるね」
と言う友達には適当にお礼を言っていたが、廊下で話したこともない隣のクラスの子に
「わかるよ、すごく好きだった」
と言われた。

実際は、不登校ではなかった。
でも頭の中にはパラレルワールドが存在していて、私は学校を休み、長髪のヘビメタ野郎と抱き合って一日を過ごしたり、電車のホームに溢れるサラリーマンを次々に線路へ落っことしたり、夜の街をひとり徘徊したり、死んだり、生まれ変わったり、友達を引っぱたいたり、だだっ広い空き地の真ん中で昼寝したりしていた。

ケイト・ブッシュの「魔物語」が好きだった。
今でもあのアルバムを聴くと、パラレルワールドの扉が開きそうな気がする。

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