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マンガ処方箋001: わくわくできる・恋愛っていいなと思えるマンガ

30代女性の方からのご相談。

これからの自分にもっとわくわくキラキラのイメージを持って
もっと自分に自信が持ちたい! 恋愛っていいなーって気持ちになりたい!

*読みたいシチュエーション
 ちょっと自信がなくなったり、不安になったとき

*読みたいモチーフ
 現実的、大人の女性、恋愛

*苦手なタイプ
 ホラー、救いがないもの

 恋愛マンガといっても、「こんな恋をしてみたい〜」「こんな人いないかな〜」とほんとうに夢の世界に浸れるものから、「こんな恋だけはしたくない……」「こんな人いたら怖い……」とガチで息が詰まるものまでいろいろありますよね。何歳ごろに読むかでも変わるし。
 今回は、読んで励まされたり癒やされたりする、なおかつ恋愛模様を楽しめる……という点で考えてみました。わたしのオススメはこちらです。

① 安藤ゆき『町田くんの世界』(1〜7巻)

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 町田くんはごくふつうの高校生。メガネな見た目に反して、勉強はもちろん家事も不器用な男子である。
 そんな町田くんには絶大なる才能があって、それは「ナチュラルボーン」に人を愛せること。どんな人にたいしても良いところやちょっとした変化を見つけ、自然に言葉にして伝えてくれる。家族やクラスメイトはもちろん、他人や自分に悪意を向けてくる人であっても、率直に優しく接する。彼に出会う人びとはすぐに、性善説全開の町田くんに毒気を抜かれメロメロになってしまう。町田くんはみんなの「陰のアイドル」なのだ。
 そんな町田くんに心を開き彼のことを好きになったのが、猪原さんという同じクラスの女子。中学時代にいじめられた経験をもつ猪原さんは、そのトラウマを抱えつつも、町田くんの純粋さに惹かれていく。しかし、どんな人にも優しい町田くんだからこそ好きなので、告白したら関係が崩れてしまうのではないかと不安に思っている。
 いっぽう町田くんも、「愛」は知っているけれども「恋」は知らない。猪原さんをかわいい、美しいと思う気持ちに気づいた町田くん、それは「愛」なのか「恋」なのか……。

 という、高校生同士の恋愛マンガです。「大人の女性」が主人公ではありませんが(サブキャラクターで出てくるけれど)、町田くん&猪原さんと周囲の人びとの愛で満たされたお話にきっと癒やされ、恋愛っていいな、と思えるようになるはず。わたしは最終話のラストを読んだとき、研究室でひとり泣き震えました……。
 町田家の両親ときょうだいたちと町田くんの関係もとても素敵。「恋」だけではない「愛」も味わえる作品です。

② 小野塚カホリ『ゆびのわものがたり』(1〜2巻)

 タイトルどおり、指輪にまつわる少し幻想的なオムニバス。大人からこどもまで、異性愛も同性同士の愛も、多様な関係のカップルが出てきます。恋愛模様も、「二人が結ばれる=幸せな結末」という意味ではハッピーエンドとはいいがたいエピソードもいくつか。
 ではなにがオススメかというと、傷つき傷つけられても、その傷自体も抱え愛していくような物語が描かれること。


 第14話(2巻の最後のエピソード)、舞台は1960年代後半の学生運動。主人公の女子大学生・井上は、運動団体の議長を務める一つ年上の男子大学生・横山の恋人である。井上は集会の場でまさにその恋人から、何度言われても長い髪を切らないのは「革命的意識」に欠けている、と吊し上げを食らっていた。
 学生たちの前で革命の正しさを主張するときは熱っぽく語り、ファッションは「プチブルの象徴」だと否定するくせに、スカートだけは「オレが許した時にははいてもいい」と言う横山の矛盾。そんな恋人をストレートに論破したのが、寡黙で冷静な山崎という男子大学生である。高圧的で一方的な横山とは対照的な山崎に、井上は惹かれていく。
 大学紛争のさなか、暴力で物事を推し進めようとする「男社会の限界」を見抜いた井上と、井上のもつ鋭い視点に気づいた山崎。しかし山崎にはすでに大事な恋人がいた……。

 このエピソードに限らず、恋愛関係というよりは「恋する気持ち」の瞬間に焦点があてられた短編集です。小野塚カホリ先生の作品のほとんどでは、リアルだからこそ常識や規範的価値観からいえばタブーとされること(不倫など)が描かれ、心をえぐられるような、読むこちら側の闇を曝け出させられてしまうようなものばかりです。でも救いはあるので大丈夫。キツいことがあるとしても恋はいいな、と思えます。“不安を相対化する”ことによって自分を認められる、共感できるポイントが多々あるのではないかと思います。

③ ヤマザキマリ『地球恋愛』(1巻、以下続刊……?)

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 こちらもタイトルのとおり、地球上のさまざまな地域を舞台に、大人の恋愛関係が描かれるオムニバス。亡くなった夫の飲み屋を継いだ女性と、そこで弾くギタリストの男性との物語を描いた「リオデジャネイロの夜」。高層マンションのコンシェルジュを務める堅物でちょっと変わっている男性と、そんな彼に娘を紹介しようとする老婦人の物語「アメリカンダンディ」。などなど、いろんな地域で展開するのが魅力です。
 大人といっても、登場する主人公たちがみな40代以上であるところがポイント! ご老人もいらっしゃいます。いい年した、人生をわかっているはずの大人同士なのに(あるいはそうだからこそ)、素直に言えなかったりすれ違ったり、自分の決めたポリシーに頑なになってしまったりするのです。そこが微笑ましくてすてき。恋は何歳になってもしたらいいですよね。このシリーズ、続きを心から待っています……。


 以上、三つの作品を処方してみました。寝る前などに読んだらきっと、明日はがんばってみようかなという気持ちになり、良い夢が見れることでしょう(とくに『地球恋愛』はぴったり)。
 キラキラしていて恋愛っていいなと思える、といえば昨今はやはりBLこそ作品が豊潤かと思いますが、問診が「大人の女性」だったので今回は入れませんでした。もしご興味があればぜひ、再診をお待ちしています。

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