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ともだち

自分は53歳で彼女は25歳。

我々は割と仲の良い友達であり、仕事仲間でもある。親友と言う言葉を使うのは性に合わないが、まぁ割と長い付き合いの友達だ。別にそれ以上もない。
自分には妻がいるし、彼女には10個上の彼氏がいる。
昔はこんな若い子と仲良くなる予想なんかしていなかったし、周りから見るとちょっと変な感じに見えるかもしれないが、びっくりするほど案外普通である。
自分はある会社の社長で、彼女は個人事業主だからお互いの立場的になんとなく分かり合えるし、彼女は80.90年代あたりの音楽が好きなようで音楽の話もそこそこ合う。
たまに彼女は僕のオフィスに遊びに来る。
彼女はおしゃべりで好奇心旺盛だからよく色々なことを聞いてくるので、自分はそれに対して思ったことを答える。


「ねぇ、25歳くらいの時って何してたの?」
彼女は昔の話を聞くのが好きだ。
「広告代理店で働いてたけど」と答えると、
「楽しかった?結構仕事できた方でしょ?
周りには嫌われてた? 好かれてた?」といつもの質問攻めがはじまる。
「楽しいとか言う感情はないかな、25歳だったら一応プロジェクトのリーダーを任された歳だけど、別に嫌われも好かれもしてないと思うけど」
「ふーん、あなたらしいね。25歳でプロジェクトのリーダーて、すごい仕事できる方だよね。稼いでた?」
「まぁまぁ、こっそり副業でもデザインの仕事してだからそこそこ稼いでたほうかもな」
「その時彼女はいた?」
「まぁいたと思うよ。」
「どんな女の人?」
「そんなのいちいち覚えてないよ」
「そう、相変わらず冷たい男ね。その会社にいた頃さ何人くらいと付き合った?」
「3.4人かな」
「やるな〜、あなたモテる男だもんね。他にもたくさんお誘いはあったでしょ」
「はは、今思えばあの時の俺はただのバカとしか思えないよ」
「きっとあなたみたいな男に惹かれる女って言うのはあなたの内面とか見た目以前に、動物的本能で引かれてると思うんだよね。あなたみたいに何考えてるか分からないような男って大体モテるのよ。」
彼女は哲学的に物事を考え、いつも必要以上に僕のことを探ってこようとする。でもそれにめんどくさい情はなく、淡白だ。彼女にとって僕は一種の観察対象にすぎず、我々の間にはこの後にも先にも発展がないことが約束されている。このような会話が淡々と繰り広げられる空気感がこの歳になると心地よくもあるのだ。


「ねぇ、もう一度恋愛してみたい?」
と彼女が聞いてきた。
「まぁ今はそこまで興味ないけど、そういうことがあれば」
「ふーん、いつまでも空気の抜けてる風船みたく喋るのね。あなたは。」
彼女は僕との会話に飽きてビリージョエルのthe longest timeをかけて、自分の仕事のスケジュールをチェックしはじめた。
その歌ができたのは1980年代。自分は18歳くらいで今の君より若かったんだぜ。なんて思いついた言葉があまりにくだらなすぎて口に出さず心の中に留めて置いた。
彼女はもうこちらには興味はなくコーヒーを淹れ直し仕事を始めている。
そろそろ18:00になるので僕はいつものように安いウイスキーをグラスに注ぎ、デスクに移動した。すると彼女は「あなたって社長でお金あるのに安いウイスキーばかり飲むのね。」と言ってきた。
返す言葉がなかった僕はグラスを持ってふざけたポーズを決めてみたら、彼女はケラケラと大笑いした。

窓の外には秋の雨が降りはじめていた。

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