_第16節_アイキャッチ

【データで見るマリノスレビュー】今季最低の走行距離で勝ち切ったJ1・第16節松本戦


はじめまして。りょー(@YFMsupo)といいます。
私は大学4年生、マリサポ16年目です。
大学ではスポーツマーケティングを専攻しており、卒論でもサッカー、特にマリノスを題材にする予定です。
そこで今節から、卒論制作の助走(?)も兼ねて、念願だった試合のレビューをしてみます。
ただ、あくまで「データから試合を明らかにする」という視点でレビューしていきます。
戦術ボードを用いた分析は、OJさんhiro121720_yfmさんカモメの赤大砲さん
といった方々の素晴らしいレビューを見ていただければと!
優しく見守っていただけると幸いです!

さて、前置きが長くなりました。
今節のマリノスはというと、松本に1-0で勝利
勝ったとはいえ苦しい試合でしたが、その苦しさの原因をデータを用いて見ていきましょう。

1.基本データ

まずは、基本データの振り返りです。

■スタメン

マリノス
・清水戦の退場でマルコスジュニオール出場停止
・代役として今季リーグ戦初出場の山田を起用
・それに伴いフォーメーションは4-1-2-3
松本山雅
・コパアメリカ出場のため前田大然不在。
・仙台戦で負傷交代した橋内に代わり、その橋内との交代で入ったエドゥアルドが今節は先発。
フォーメーションは3-5-2。「マリノス対策」として今節限りの布陣。


■基本スタッツ(前後半)

左がマリノス、右が松本山雅。(Sportsnaviより)

2.前後半比較に見る松本戦


前後半スタッツ比較

前半の方がボール支配率が高く、シュート数も多かったです。
ポスト直撃の惜しいシーンもあり、チャンスの数は前半の方がありました。
しかし、パス本数があまりにも多く、松本の守備に攻めあぐねて後ろで回すだけのシーンも多かった印象です。
この試合唯一の松本の決定機(記録上)も前半にありました。パクとチアゴが交錯し、バー直撃のシュートを放たれた場面でしょう。

後半に入ると、ボール支配率とシュート本数は減り、だいぶ落ち着いた展開になりました。
また、パス本数自体は大きく減りましたが、ロングパスを増やしたことがわかります。

■前後半プレーエリア比較(マリノス)

 前半のプレーエリア(マリノス)

 後半のプレーエリア(マリノス)

(Football LABより抜粋)

両者を比較すればわかりますが、前半は自陣でのプレーが多く、後ろが重くなりました。
原因は、天野・山田らが前へ前へと行こうとし、特に天野が前目にポジションを取ったことで、良パスの出し手が不足し、前線に効果的な縦パスが入らなかったことにあります。

翻って後半は、フォーメーションを4-2-3-1へと変更し、天野が後ろ目にポジションを取ったことで、パスルートが開通。
決勝点のシーンもそうでしたが、ティーラトン、遠藤、天野が絡み左サイドを中心にチャンスを作り出しました。

「監督に『もっとボールに絡め』と怒られました。前半はあえて前(敵陣ゴール前)に残りながら味方からの縦パスを引き出そうとしたんですけど、『(後半から)ボランチに入れ』と監督に言われたので、後方からビルドアップを助けて、ゲームをコントロールする役割に重点を置いてやりました。その結果1-0で勝てたので良かったと思います。相手が3ボランチ気味([5-3-2]の布陣)で、そのまま2シャドーで俺と(山田)康太が前で並んでいてもうまくボールが回らなかったので、後半は俺とキーボー(喜田拓也)がボランチで横並びになって相手の3ボランチを引き出そうとしました。後半は相手の3ボランチを引き出しながらギャップを突くことができていたと思います」(天野)

天野のコメントからも、相手のフォーメーションとの噛み合わせを考えて変更したことがわかります。
その変更が、プレーエリアにもしっかり表れた、実を結んだ形です。


3.今季平均スタッツ比較に見る松本戦

以下は、第16節・松本戦のスタッツと今季平均スタッツとを比較したものです。
(データはsofascore、Football LABより作成・引用)

■攻撃スタッツ比較

まずは、攻撃スタッツの比較です。
今季平均と大きな差があり、注目すべき指標に色を付しました。

赤:今季最高の数字(オレンジは今季2番目に高い数字)
青:今季最低の数字(水色は今季2番目に低い数字)

それぞれの数値について、見ていきましょう。

■今季最高のボール支配率とパス本数

まず、ボール支配率に関してです。
支配率の高さは戦前から予想できました。松本としても、意図してボールを持たせてきた形です。
ただ、今季のマリノスにおいては、上の表を見ると、ボール支配率と勝敗に明確な相関はなく、むしろボールを持たされる展開は得意としてさえいます。

次に、パス本数に関してです。
ボール支配率が高ければパス本数が多くなることはイメージがつきやすいでしょう。
勝ち試合は、引分・負け試合に比べ、パス本数が50本以上多いです。
ただ、同じ勝ち試合でも、パス本数が700本近くの試合(仙台戦、鹿島戦)があれば、パス本数が600本近くの試合(G大阪戦、磐田戦、湘南戦)もあり、パス本数が明確に勝敗を規定しているとは言えません

先ほど挙げた仙台戦と鹿島戦は、ボール支配率が高くパス本数も多かった試合で、今節とスタッツが非常に似ているだけでなく、ホームで1点差で勝ちきった点も共通しており、「引いてくる相手に徹底的につないで勝つ」という、ある意味一つの''勝ちパターン''と言えるのかもしれません。

■今季最低のドリブル成功率と響いた三好、マルコスの不在

松本戦では、今季最低のドリブル成功率で、その回数も非常に少なかったです。
松本に守備を固められる中で、中央でのドリブル、サイドでのドリブルともにうまく使うことができませんでした。

少し見にくいですが、上の表は「今季ドリブルでチャンスを作った合計ポイント」のランキングです。今節は、ランキング3位の三好、4位のマルコス、両者の不在が大きかったです

代役として先発した山田は、今節この数字が0.00であり、求められた役割は発揮できませんでした。
中央で前を向いて相手をかわすドリブルがないと、引いた相手を崩すのは難しいです。
中央をうまく崩せないことで、サイドの仲川や遠藤にフリーでボールが渡る機会も少なく、両者がスピードに乗ってドリブルで仕掛けていく回数も少なかったです。

■生かせなかったセットプレー

攻撃スタッツ比較を見ると、松本戦ではコーナーキックの回数が今季2番目に多かったことがわかります。
しかし、それらを生かすことはできませんでした。
松本戦のような膠着した展開でこそ、セットプレーの重要度は増します。
キッカーの天野とティーラトンに加え、チーム全体としてクオリティを上げていく必要があるでしょう。

ただ、上の表に見られるように、リーグ全体の中でマリノスはセットプレーの指数やシュート率は比較的良いです
畠中は、磐田戦ではポスト直撃のヘッドを放ち、直近の松本戦でも頭で合わせるシーンが見られました。
感覚が合ってきているのは間違いないので、今度こそゴールに期待したいです。
また、フリーキックは天野がバー直撃のシュートを放ちましたが、こちらも今度はネットに突き刺すシーンを期待しましょう。

■守備スタッツ比較

次に、守備スタッツの比較です。
今季平均と大きな差があり、注目すべき指標に色を付しました。

赤:今季最高の数字
青:今季最低の数字

それぞれの数値について、見ていきましょう。

■今季最低のデュエル回数と"勝ちパターン"

松本戦では、デュエル回数が今季最低を記録。

上の表を見ると、今季のマリノスは、勝ち試合は引分・負け試合に比べてデュエル回数が15回、デュエル勝利数が7回ほども少ないことがわかります。

周知の通り、マリノスはショートパス主体のスタイルであり、接近戦を得意とはしていません。
メンバー構成を見ても、中盤でのボールの奪い合いや激しい応酬という展開を得意としていないことは明らかです。

勝利した浦和戦や鹿島戦といった試合も、同じくデュエル回数はかなり少なかったです。
3チームとも明確にハイプレスを仕掛けてきたわけではなく、余裕を持ってボールを回すことができました。
そのため、中盤でデュエルを挑まれる回数は少なく、悪い形でボールを失う回数も少なかったのです

一方、今季敗戦した4試合ではいずれもデュエル回数が多かったです。
相手のハイプレスで苦しい形で中盤にボールが入り、中盤でデュエルを挑まれ悪い形でボールを失い、早い展開でゴールに迫られる
今季の負けパターンが、データから示されます。

一般に、相手が自陣深くに引いてくる試合は「崩すのが大変」とのイメージがありますが、マリノスにとってはむしろ都合がいいように思われます。
相手が深く引いてくることで、マリノスも中盤で無理につなごうとせず、中盤でのデュエル回数が少なくなる。
デュエル回数が少ない試合は"勝ちパターン"です。
その意味で、今節は''勝ちパターン"の試合でした。

■番外編:データが示す松本戦の好レフェリング

試合後、Twitter上ではこの試合を裁いた木村主審のジャッジを賞賛するコメントが相次ぎました。
確かに、執拗な主審の笛でプレーが切れたり、疑問の残るような判定は全くなかったです。

その甲斐(?)あってか、DAZNの「Jリーグジャッジリプレイ」でも、好レフェリングという形で取り上げられています(マリサポの影響力は恐ろしい)。

木村主審のナイスジャッジは、データにも表れました。
松本戦では、フリーキック・被フリーキックともに回数が非常に少なかったです
木村主審は、接触プレーに対してもうまく笛を吹いていました。
レフェリーに対して批判的な目が注がれる中で、主審のナイスジャッジが取り上げられるのは喜ばしいことです。
私もデータという側面から、その流れを補強できれば嬉しいです。


4.走行距離比較に見る松本戦

3.で今季平均スタッツとの比較をしましたが、走行距離に関して、もう少し詳しく触れていきます。

走行距離から見える試合展開

今節のマリノスと松本山雅の走行距離。
マリノス:110.44km
松本山雅:114.26km

マリノスは、これまで走行距離が最も短かった試合が、0-3で敗れた第11節のC大阪戦。C大阪戦では、112.97kmを記録していました(下の図①を参照)。
今節は、その数字を2km以上も下回り、ダントツで今季最低の数字です。

図①:今季のマリノスの「走行距離」一覧(Football LABより)


やはり、松本に守備を固められる中で、効果的な動き出しは少なかったです。
特に天野は、後方で組み立てに多く関与していたため、走行距離を大きく減らしました(今節は11.1km、前節は12.3km。1km以上の減少)。

ただ、以下の図②のように、夏場になると気温や湿度の影響でそもそも走行距離が短くなるのも事実です。

図②:J1の1試合あたりの走行距離(km)とスプリント回数
(出典:Football LAB、http://www.football-lab.jp/column/entry/706/)

松本戦、気温は20℃と比較的涼しかったですが、日中は雨が降り、湿度は87%と高かったです。
いずれにせよ、単に走行距離が短いというだけで相手に主導権を握られていたことにはならないでしょう。

■走行距離差から見える試合展開

そこで、以下の図③を見てみましょう。
図③では、今季のマリノスの「走行距離差」を一覧にしています。
以下に、「走行距離差」の説明を載せています。

走行距離差=マリノスの走行距離ー相手チームの走行距離 
〈図③の見方〉
相手より走行距離が短い時…-○km
相手より走行距離が長い時…+○km と表される。
また、白色…勝ち グレー色…引き分け 黒色…負け といった具合。
図③:今季のマリノスの「走行距離差」一覧(Football LABより)

さて、今節の走行距離差は、
110.44km(マリノス)ー 114.26km(松本)= -3.82km
これは、-2.91kmだった第14節・湘南戦を下回り、ダントツで今季最低の数字です。

①松本が守備で相当ハードワークしてきた
②マリノスがスペースを効果的に使えなかった
これらが原因でしょう。上手くいかなかったことが数字にも表れました。

■エジガルの決勝点と大津の動き出し

エジガルの決勝点は大津のハーフスペースへのランニングから生まれました。
スペースを効果的に使えたシーンで点が取れたことは興味深いです。
ティーラトンが大外で幅を取り、遠藤からハーフスペースにランニングした大津へスルーパス。折り返しをエジガルが反転から振り向きざまに見事なシュート。

「前半ベンチで試合を見ていて、選手の特長の問題かもしれませんけど、足下へのパスが多いかなと。自分が出場した時には背後に出ていこうと考えていました。(アシストの場面は)先に体を当てて相手(今井)のバランスを崩したんですけど、中を見る余裕もありましたし、エジガルも難しい体勢だったと思うんですけど、しっかり決めてくれて良かったです」(大津)

試合後の大津のコメントです。背後のスペースを効果的に使えてないことをピッチの外から感じていました。ピッチの外から見て気づいた問題をピッチ内で解決。なんとも素晴らしい実行力です。

ピッチの横幅を広く使いながら相手の最終ラインを広げ、そのスペースに2列目から飛び出していく
試合中に、この動きをもっと繰り出せていれば、走行距離も伸びたでしょうし、なによりもっと早く決勝点が決まっていたはずです。


(余談)走行距離差と今季の勝敗

また、余談にはなりますが、もう一度図③を見返すと、ひとつ興味深いことがわかります。お気づきの方もいるかもしれません。

実は今季のマリノスは、対戦相手より走行距離が長い試合では、一度も負けていません(!)
ということは、試合中にトラッキングデータを確認して相手より走行距離が上回っていれば、我々はひとまず安心してできる(?)

ただ、これでは分析でもなんでもない(笑)ので、
もう少し論理的に整理します。

走行距離が上回る試合では、①②が両立できていると考えられます。
①攻撃時、スペースへの効果的なランニング→走行距離増加、チャンス増加
②被カウンター時、敵陣での即時回収→相手の走行距離減少、ピンチ減少

まさに、攻撃でも守備でも上手くいっている状態。そう考えると負けないのもあながち不思議ではありません。


5.次回予告

今回は、J1第16節・松本戦のレビューを書いてみました。
非常に冗長になってしまったので、もう少し端的にまとめます!
次回は、【データで見るマリノスプレビュー】J1第17節・FC東京戦(仮)を、アップしようと思います。
いよいよ、首位攻防戦。気持ちが高ぶりますね。
データを見つつ、FC東京のウィークポイントを探っていけるような記事にしていければ、と思います。

最後までご覧くださり、ありがとうございました!
次回もぜひよろしくお願いします。

最後までお読み頂きありがとうございます! Twitterでコメントを添えてご投稿頂けると嬉しいです。大変励みになります。よろしくお願いします!