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【鑑賞ログ数珠つなぎ】カウントダウン

ある作品を観たら、次はその脚本家や監督、役者の関わった別の作品を観たみたくなるものである。まるで数珠つなぎのように。
前回:『東京ゴッドファーザーズ』

https://note.com/marioshoten/n/n3b52a7976aed

【数珠つなぎ経緯】

今回は本である。本を読むことは「鑑賞」に入るのかどうか。少し迷ったので調べてみた。

本来の意味は「理解し味わうこと」。「鑑賞」の「鑑」には「見極める・品定めをする」という意味があり、「鑑定」や「鑑別」などの熟語で使われることもある漢字です。「よいものかどうかを見定める」というニュアンスを含む「鑑賞」は、見て考える機会を持つような芸術作品に多く使われる単語です。「作品についてよく考えたり、理解したりしながら楽しむ」ことを「鑑賞」といいます。

https://biz.trans-suite.jp/35832

本鑑賞、という言葉はないが、ニュアンスとしては問題ないと言える。作品についてよく考え、理解しながら楽しむことは、本そのものだからだ。というわけで、堂々と数珠つなぎログに組み込もう。

読んだのは、真梨幸子(まりゆきこ)著『カウントダウン』

伏線が回収される心地よさは、前回見た『東京ゴッドファーザーズ』と同じくらい得られる。無理やり数珠をつなぐとすればこの点か。

しかし、この真梨幸子さんの一番の魅力は「イヤミス」と呼ばれる「読後、イヤな気持ちになるミステリー」であるということ。 後味が悪く、裏切られた気持ちになるのに読者を惹きつける魅力があるらしい。イヤミスの女王として有名なのは『告白』の湊かなえさん、『ユリゴコロ』の沼田まほかるさん、そして真梨幸子さんだそうだ。
真梨さんのイヤミス代表作は『殺人鬼フジコの衝動』。

本屋で何を読もうか探していた時に、店内のポップに「イヤミスの女王」と書かれていて興味を持ったことが購入のキッカケである。でもすぐには読まなかった。読書の秋だとか言って買ったのにもう年の瀬。年の瀬だからこそ、今年中に買ったものは処理したいという衝動に駆られたのか。そんな感じで読み始めたが、一気に読み終わった。読みやすかった。

【あらすじ(引用)】

半年後までに、邪魔なものはみんな“片付ける”――。海老名亜希子は「お掃除コンシェルジュ」として活躍する人気エッセイスト、五十歳・独身。歩道橋から落ちて救急車で運ばれ、その時の検査がきっかけで癌が見つかった。余命は半年。潔く“死”を受け入れた亜希子は、“有終の美”を飾るべく、梅屋百貨店の外商・薬王寺涼子とともに“終活”に勤しむ。元夫から譲られた三鷹のマンションの処分。元夫と結婚した妹との決着。そして、過去から突きつけられる数々の課題。亜希子は邪魔なものを“片付けて”終活に奮闘するが、マンションのクローゼットに大きな秘密を抱えていた――。イヤミスの女王が放つ二転三転の“終活”ミステリー。

https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784299004987

【感想(ネタバレなし)】

ストーリーは各章が、冒頭に亜希子自身のエッセイ、そして現実で起きている出来事という流れで構成されている(最終章以外)。亜希子のように売れっ子でもなんでもないが、こうやって”書く”ことを生業にしている者としては、身につまされるエピソードの数々。それはやはり「身を削っている」ということ。創作において(もちろん全てではないが)自分の経験や感情がベースになっていることは間違いない。私たちは常に書き、表現し、誰かに見てもらう。だが難しいのは、時に自分の隠したい部分もさらけ出さねばならぬということ。なぜなら、大抵の場合、その隠したい部分に本質が紛れ込んでいるからである。家族や恋人との関係、会社や組織に対する抗議、世の中に対する批判、など。
亜希子は自分の家族について、そして夫との離婚について書くことで、成功と金を得た。その人生に後悔はしていない(と言い張る)。だが癌で余命を宣告され、自分を囲む人がいないことばかりか、自分を恨んでいる人やネタにしている人がいることに気付いてしまう。読めば読むほど、亜希子って…と嫌になる。プライドが高く、誰かと比較してばかり、何でも人のせいにして、自分の非を認めようとしない女…余命を宣告された悲劇の主人公なのに、感情移入どころか付き合いたくないとまで思ってしまう。しかも他の登場人物たちに対しても似たような感情を持ってしまう。なんだこれ、嫌な人しか出てこない小説なのか…。でも読めてしまうのはリズムの良さなのか、やはり私の中にも亜希子と同じような感情があるからなのか…自分との闘いであるような気持ちにもなる。
そして亜希子はついに息絶えるのだが、そこからの伏線回収の鮮やかさと言ったら!!嫌悪感を覚えていたはずの亜希子にも少しばかり同情とねぎらいの気持ちが生まれたのには驚いた。勧善懲悪でも、喧嘩両成敗でも、ハッピーエンドでもないけれど、わたし的には大変気持ちの良い終わり方だった。
だが、色んな感想を読んでいると、真梨幸子作品としてはかなりライトで、ファンの方からすると物足りないイヤミス具合らしい。最上級のイヤミスとは何なのか、興味が湧いている。確かに、人生って完全なるハッピーエンドなんてそうそうない。自分がハッピーでもどこかで誰かが泣いているなんてザラにあるし、そのハッピーは得てして続かないし、そうして生きていくうちに人生トントンだもんな、なんて諦めとか開き直りを学んでいくし。と、スッキリしない感想で終わるのもたまにはいいだろう。

【次の作品】

未定。

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