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【2021/8/2】ニラは食べるしニンニクは増すし②

韮崎あに子、40歳を前に悪あがきを始める。
①→https://note.com/marioshoten/n/n7568664c458e

その日はやけに遅かった。王将と言えば「安い、早い、うまい」がモットーのはずなのに。店内はそこまで混んでいないのに。

あに子は最近ハマっているスマホのゲームを始めた。ハンバーガーをひたすら作るゲーム。バンズと野菜とハンバーグとを注文の通りにテンポよく作っていく。”頭を使わずに没頭できるゲームにハマっている人間は病んでいる”と何かのテレビ番組で偉そうな誰かが言っていたのを聞いて「この世に病んでない人間なんていないよ」とあに子は鼻で笑った。

ハンバーガーを120個ほど作ったところで、店員さんがレバニラと餃子を持ってきた。もうあと30個ほど作りたかったが、目の前に漂う湯気と香りはくだらないゲームに一瞬で勝った。

絶対に美味い、あに子は確信した。ちょっとやりすぎかもと思うくらいに火が通ったレバーも、油で艶めいているニラとモヤシも、決して過ちは犯さない。餃子はいつもよりふくよかに見えた。増したニンニクのせいなのか、作った職人の手違いなのか、3つの餃子(ご存じジャストサイズ)は、三者三様の形状をし、それぞれ違う方向を向いていた。

レバー1に対し、1.5倍の量のニラとモヤシを掴みたい。その願いがかなったことはほとんどないがチャレンジすることに意味がある。熱で曲がったレバーのくぼみにニラとモヤシを乗せてみるが、積載量オーバーなのかするりと滑り落ちて、結局1.5倍どころか0.7くらいの量になってしまった。

しかし箸が道に迷うことはない。作り立てのレバニラはあに子の口へまっしぐら。モヤシのシャキシャキ、ニラの繊維、レバーの弾力と噛んだ時の綻びは見事なハーモニーを奏でた。

ん?

あに子は口に違和感を覚えた。

いる。ヤツがいる。

それはニンジン。

それはモヤシよりも歯ごたえがあって、まぁまぁな主張をしてくる。
まもなくミーティングが終わりますよって空気になった時、申し訳程度に、おまけ感覚で投げかけられた「何か質問ある人~?」に対して、空気を読まずに「質問いいですか!」と手をあげてくる奴くらい主張をかましてくる。そういう奴の質問はたいてい「今聞くな!」というレベルのものだ。

あに子は「鎌田の奴め」と思った。あに子にとっては後輩の鎌田恵美子(26)がレバニラの中のニンジンなのだ。しかし恵美子は不思議と嫌われておらず、むしろいじられキャラで社内で人気がある。ニンジンって子供には人気ないけど、大人になったら食べられるようになる人がほとんどだし、意外と何の料理でも入れられるし、比較的安くていつでも手に入るし、敵だと思ったら味方ってことなのかも……と思案しながら歯ごたえのいいニンジンを咀嚼していた。

そしてあに子は気付いてしまった。そのニンジンの食感が”アリ”ということに。それはつまり、恵美子も”アリ”ということを意味する。

今度、恵美子をランチに誘おう。そして王将に行こう。

あに子はそう思った。

続く。

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