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なぜ今、若者の声が社会を救うのか。浜松·北九州で触れた、実践共同体の可能性。

①「今ないものを自分たちで0から考えるのはとても楽しい」

これはあるワークショップに参加した北九州市立高校生のコメントだ。この生徒は以下のように続ける。「誰が喜ぶのか、誰のためになるのか、環境にどう影響するのかを考えながら作業を進めていくうちに様々な視点からものを見ることの大切さを学ぶことが出来ました。」

②「地域のために企業の方が活動してくれていることを知るのは、嬉しい。大学生なので地域のために活動する企業に勤めたい、と思いました。」

これは浜松市が自治体初で主催したウェルビーイングアワードに審査員として参加した静岡芸術文化大学生のコメントだ。この学生は以下のように続ける。「企業のCSR(企業の社会的責任)だけではなく、CSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)を追求する姿勢を見ることができるのも嬉しい。」

上記二つとも私が今秋(2023年10月)触れた言葉である。高校生、そして大学生が、企業や自治体の活動に触れることにより気づきを得て行動を起こすきっかけとなっている言葉である。私たちはもっとまちづくり、社会づくりに学生たちを巻き込んでいくべきではないのか?そう思わせる取り組みを二つ紹介したい。そして、この取り組みに対して「実践共同体」という視点で考察をまとめていく。


事例1: 浜松市と協業する学生団体、実践共同体としてのワークショップ

静岡県浜松市には「学生FRESH」という学生団体が存在する。学生の「それ、やりたい!」を実現する団体でイベントの企画なども行う。浜松市では「学生FRESH」の代表 静岡文化芸術大学生 平松千佳さんを浜松市市民協働推進委員会メンバーとして委嘱し、様々な活動に意見をもらっている。浜松市が他自治体に先駆けて開催したウェルビーイングアワードでも審査員を担当したり、浜松市 中野祐介市長と共にデジタル・スマートシティ浜松 オンラインフォーラムにも登壇している。

今までであれば、企業・自治体などの社会人だけで意見をまとめてしまうところ、学生である平松千佳さんが参加することにより、新たな視点を得ることができる。例えば「はままつWell-Beingアワード 2023」の審査員としての平松千佳さんの感想は以下の通りだ。

アワードに応募してくる企業のことを知ることができたのが嬉しいです。名前だけ知っていても活動を知らない企業の活動を知ることができたのが印象に残っています。企業のCSR(企業の社会的責任)だけではなく、CSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)を追求する姿勢を見ることができたのも嬉しい。そして、何よりも浜松のために企業の方が活動してくれていることが、嬉しかったです。大学生なのでこういう企業に勤めたいな、と審査をしながら思いました。

今まで社会人だけに限定して完了させていた自治体の取組みに学生を巻き込むことにより新たな視点が得られるだけではなく、審査員という責任ある役割を学生に与え「自治体、団体、企業の活動を丁寧に学び、審査してもらう」ことにより、学生に伝えたいメッセージを自分ごと化して受け取ってもらう。これは学生にとっても自治体にとっても未来を作る上で大切な動きではないか?浜松市のような自治体だけではなく、企業のアワード審査員には必ず学生枠を用意すべきではないか?と考えさせられる一幕であった。

一番左:平松千佳さん、右から二番目:浜松市 中野祐介市長
浜松市ウェビナーの1シーン。みんな笑っています。

別の事例も紹介する。静岡県浜松市では地域DXの促進のために大学と組み、オープンデータの活用促進を行っている。静岡大学情報学部 地域連携推進室では、藤岡伸明准教授が中心となって、浜松市静岡県のオープンデータを活用し大学生や高校生が身近な生活課題に注目し、課題の分析と解決策の考案を行うアイディアソン、データソンを企画・開催している。静岡大学生だけではなく、静岡文化芸術大学生、浜松聖星高校生も巻き込み、データ活用能力の向上とグループワークに必要な能力の育成が狙いだ。そして、学生が作ったオープンデータ活用サービス案を浜松市のウェビナーで発表するというアウトプット先までデザインしている。私も同席させていただいたのだが、データソン最優秀賞受賞チームの静岡大学 最優秀賞受賞チーム 鈴木りおさん、松本芽依さんはオープンデータの存在があることにより身近な課題(駐輪場においた自転車の場所を特定したい)に対してのソリューションが考えられたと語る。

浜松市や静岡県が提供するオープンデータには防災、福祉、生活、子育て、医療、施設、消防など多岐に渡り私たちの生活を支えるデータが公開されている。高校生、大学生にデータ視点で自分たちの生活を見つめ直し、データ基点で課題解決する能力を身につけることは、これからのデータドリブン社会に必要なインフラ、デジタル公共財を生み出すためにとても重要な取り組みとなると考える。

浜松市デジタル・スマートシティ推進課長 瀧本陽一氏は、学生を巻き込む意義を以下のように語る。

子供達の世代に少しでも未来に希望を持てるバトンを渡したいという気持ちから市役所に入庁しました。 
こうしたなか、私は今、デジタルを活用したまちづくり(デジタル・スマートシティ)を担当しており、本市は、官民共創でデジタル・スマートシティの取組を進めています。
今後、次代を担う若者との連携を一層強化していきたいという考えから、大学等と連携した様々な取組を行っています。
今回、ウェルビーイングアワードの審査員を務めていただいた学生FRESH代表の平松千佳さんにオンラインフォーラムに登壇頂いたり、静岡大学等が開催したデータソンで最優秀賞を受賞したチームの鈴木りおさんや松本芽依さんとウェビナーで意見交換するなかで、官民共創やまちづくりに学生などの若者がもっと関われば、新たな視点が加わったり、関係者の新たな気付きが生まれたり、若者の地域への愛着が高まること等に繋がり、まちはもっと豊かになると手応えを感じ、ワクワクしました。

将来を担う学生や若者を市政に積極的に巻き込むことは、地域社会の未来構築への責任を果たす取り組みにつながる。若者の参加によってもたらされる新たな視点と情熱は、浜松市をより豊かで持続可能な地域へと導く重要な鍵となるだろう。デジタルを活用したまちづくりを考える上では、デジタルを駆使している若者を巻き込むことこそが、地域活性化の進展に寄与するものと考える。

事例2: 北九州で始まっている高校生、大学生、企業、自治体共創の枠組みTech for Good

福岡県北九州市でも面白い取り組みに参加させてもらった。それは、日本IBMが2022年より全国7エリアでスタートしているIBM地域DXセンターの九州DXセンターが主催する地域共創の取り組みだ。

北九州市⽴高校1,2年生を対象に、IBMが普段クライアントに対して実施しているデザイン思考ワークショップを使って、身近な社会課題の解決方法を考える力を身につけることがゴールだ。IBM社員や自治体、地元企業の社員が高校生チームに入り込み一緒に解決策を考え、アウトプットを寸劇で発表するものなのだが、最初はもじもじしていた学生達もIBMが提供するワークショッププロセスに則ってペルソナ作成、シナリオ作りを行っていくことにより身近な社会課題(ポイ捨てゴミ問題)への意識を高め、解決策を磨き上げていく。

IBM Future Design Lab武末真依氏がまとめたワークショップのグラフィックレコーディング

発表も寸劇を伴うものなので、男子生徒がかつらをかぶってお母さん役を行ったり、カンガルーのように跳ねるゴミ箱として、お腹にゴミ箱をぶら下げてピョンピョン飛ぶ女子生徒がいたり、文化祭のようなお祭りのノリで非常に満足度高い発表となっていたのだが、この発表後のアフターケアがユニークだ。大学生、自治体、企業が高校生が出してきたアイディアを実現していくことも検討していくという。

仕掛け人の一人であるIBM九州DXセンター長の古長由里子氏は未来への展望を以下のように語る。

IBM九州DXセンターは、地域の一員として企業や教育機関、自治体と連携し地域課題に取組み、 テクノロジーを活用して明るい未来を共創することを目指しています。 北九州の未来を担う高校生に、課題解決のアイディエーションの楽しさを理解し、活動の当事者となって もらいたい、そう考えて今年5月から活動を始めました。高校生の学びに、地元企業からさまざまな立場の大人も混ざって、世代を超えて平等に全員で学び合う。皆でアイデアを進化させることによって、次の行動に繋がる - 大きな実験の第一歩が踏み出せたと思っています。より広い視点で、徹底的に顧客体験を検証して、ストーリーを紡いでいく。テクノロジーの可能性を皆で探り続け、従来の先生と生徒、大人と子供の関係性を超えて、次世代の担い手から大人が学ぶ - それが日常になることで、まち(地域)はますます面白く豊かになると楽しみに信じています。

「実践共同体」として社会を見直す

上記のような浜松市、北九州市の取り組みに触れると学生は学校で学ぶだけではなく社会の課題を発見し、行動すべきであり、自治体や企業はそのような学生が参加できる実践の場をデザインする必要があるのではないか?という視点が生まれてくる。

この視点を言い表す言葉に出会った。それは「実践共同体」という言葉だ。関西学院大学の松本雄一教授の言葉を引用すると、実践共同体は地域社会におけるネットワークの結節点となり得る可能性があり、地域における学習と知識共有を促進できる存在である(松本雄一[2013]「実践共同体における学習と熟達化」『日本労働研究雑誌』No.639, pp.15-26。)。

新たな学びの形であり、学生と社会人という境界を無くす考え方である。日本語Wikipediaにおいては、"社会人"に学生が含まれれないが、学生も社会に触れている、という意味において社会人である。この「社会人」という枠組みもインクルージョンの時代には消し去るべき言葉なのかも知れない。全ての存在は社会人であると言っていくべきではないか。

さて、話を「実践共同体」に戻そう。提唱者の一人である Wenger(1998)は実践共同体の前提を以下のように紹介する。

1) われわれは社会的な存在である。疑いようもなく、この事実は学習の中心的側面である。
2) 知識はたとえばうまく歌ったり、科学的事実を探求したり、機械を修理したり、詩を書いたり、陽気であったり、少年少女として成長したりするような、価値ある企てに関する能力の問題である。
3) 知ることはこのような企て、すなわち世界への積極的関与の探求に参加することである。
4) 学習が生み出すこととは突き詰めれば意味、世界を経験し意味ある従事を行う能力である。

実践共同体概念についての一考察: E. Wenger の実践共同体論を読み解く 松本雄一[2017]

社会(世界)に積極的に関与し、意味ある従事を行う能力が求められ、あらゆることに興味を持ち朗らかに生きることための知識を賞賛するというところが私のお気に入りだ。受験のための勉強や、お金儲けのための事業には価値がなくなり、社会や人間そのものに対して働きかける行動への価値を置く考え方にワクワクする。ただ、この理想郷は確たる意思を持ち、デザインをしていかないと実現できない。

自治体・企業が主催するアワードには学生審査員を混ぜる、未来構想を考える際には学生に役割を与えて意見を出してもらうようにする、など少しずつでもできる"学生インクルージョン"を行っていくことにより、実践共同体の和が広がり地域のため、社会のため、ひいては自分や家族の幸せのために行動できる人や企業が増えてくるのではないか?

浜松や北九州で出会えた高校生大学生たちに大きく影響を受けた感動を誰かに伝えたいと思い、このnoteを書かせてもらった。少しでもどなたかの行動につながることができれば幸いであるし、もっともっと面白い学生の地域との取り組みにも今後であっていきたい。


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