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「企業の人格」「消費は投票」「007にならえ」〜2024年注目すべき激アツテーマ / IBM藤森慶太インタビュー〜

未来を語ると「鬼が笑う」という諺がある。将来のことなど誰にも分からないのに、予測できるはずのない未来を語ると、怖い鬼ですら笑ってしまうと言う説※からきている諺だ。
 
鬼を積極的に笑わすほどの未来を語ろうじゃないか、と始めたのが「オニワラ座談会(通称オニワラ)」である。これはコロナ禍真っ只中の2020年秋から計画が進められ、2022年11月まで計11回、オンライン座談会として開催された。日本IBMのFuture Design Lab.と株式会社HEART CATCHが共に「鬼が大笑いするほどの、未来について語ることができるテーマを、ゲストを呼んで語り合う」ことを目的に、有識者やアーティスト、スタートアップの代表者などを迎え、90分間語り合うものである。結論は求めない、徹底的な問いと対話だけがある。2024年現在から振り返ってみると「当たり前」になっているテーマも、まだまだ鬼が笑い続けそうな未来を考える上で語り続けなければならないものもある。当記事ではオニワラホストのIBM Future Design Lab. / 日本IBM執行役員 藤森慶太氏とHEART CATCH西村真里子が座談会を振り返りながら探る。過去を振り返る姿勢から、未来への気付きを得ようとしている姿勢を読んでもらえたら嬉しい。


■わずか2年で変化した価値観 

まず、2年前のテーマが当たり前となった例を紹介しよう。「お手元商圏」と「消費は投票(エシカルアクション)」だ。「お手元商圏」はコロナ禍で、外出できなくなった消費者行動をIBM生活者DXレポートとしてまとめたIBM高荷力氏らが提唱した言葉だ。スマホが買い物圏内になってきている変化を、大丸・松坂屋、パルコを傘下にもつJ.フロント リテイリング 林直孝氏や浜松市役所 滝本陽一氏に事例を教えてもらいつつ議論を重ねた。「消費は投票(エシカルアクション)」は、Loopという循環型ショッピングプラットフォームを展開するテラサイクル・ジャパン冨田大介氏らをゲストに、地球環境にやさしい、倫理的な購買行動について語り合った。
 
オニワラ座談会を共にホストしたIBM Future Design Lab.藤森慶太氏と私HEART CATCH西村真里子で、2024年、オニワラを共に振り返ってみると「お手元商圏」や「消費は投票」は生活者の中で当たり前になっていることに気付かされる。
 
藤森:「ほんの2,3年前に未来を語るテーマだったものが、すでに当たり前になっています。例えば「お手元商圏」。コロナ前も楽天、アマゾンなどのECサイトで消費財を購入する人はいましたが、スマホで高額商品を買うことは特別な体験でした。しかし現在では、車もスマホで購入する人たちが増えてきています。このようなお手元商圏は確かに定着してきています。また、「消費は投票」に関しても、消費者に選んでもらうための自社価値発信を行う企業が増加しました。これはコロナを経ての変化です。企業が自社のパーパスを再策定する動きは、消費者に対して自分の会社が存在する意味意義をしっかりと伝えていく動きであり、企業の人格を明確にする動きです。この企業の人格を見せないと消費者はモノを買ってくれなくなりました。逆にいうとファンを作れる企業が強くなってきました。この動きはオニワラで「消費は投票」を語った2年前と大きく変化してきています。」
 
さて、どのような企業がファンを作ることができるのだろうか?「ファンエンゲージメント」についてもオニワラでは座談会テーマとして扱っている。元日本テレビ土屋敏男氏、Shiftall岩佐琢磨らをゲストに迎えたオニワラ回では、土屋氏より組織の中で「殺しのライセンス」を持つ存在が重要であることを伝えてもらった。「007 殺しのライセンス」に出てくるフレーズで、ジェームズ・ボンドのように特別許可を持ち行動する人のことを指す。
 
藤森:「「殺しのライセンス」を有して企業の中で行動できる人とそうでない人がいます。その違いは、目的意識を持ってルールを逸脱できるかどうかがポイントです。また、自分の会社だけではなく業界全体を見て動くことができる人も「殺しのライセンス」を有している人に当てはまります。例えばゲストで来ていただいた日テレ土屋さんは「進め!電波少年」など業界のルールを変える撮影方法、番組構成を作りましたが、それは自分の保身、自分の儲けのためだけではなく、エンターテインメント業界全体を考えて動き行動したから当時のルールを外れて動けたのだと思います。その結果、土屋さんが作ったディレクター自らがカメラを持って番組を作るという構成がその後定着していきます。このように、ルールを外れたとしても、目的意識を持つこと、そして、その目的意識を伝えることができる人が「殺しのライセンス」を有して仕事ができる人となります。そのためにも組織の中でも自分のブランディングを高めていくという行為はとても重要になります。」

■即出る「答え」ではなく、議論を重ね「視点」を求める

オニワラでは他にも「人間とは何か?」「幸せの価値基準」など、企業の営利活動に直接寄与しないと思われるテーマをピックアップし、多様なゲストと話を進めてきた(当記事最下部に全リスト掲載)。ではなぜ、オニワラのような直接営利目的に繋がらないオンライン座談会をIBM Future Design Lab.は実施したのか?藤森氏はここで何を感じたのか?
 
藤森:「多岐に渡るテーマで、未来を見つめてみると自分の考えもアップデートできましたし、困難なテーマでも、そこに人生を賭けている人たちと語ることにより、胸が熱くなりました。
コロナに入り、IBM Future Design Lab.ではまずYouTubeを7本出したのですが、この7本だけに閉じてはいけないと考え、ラジオ、ポッドキャストなど情報発信の継続を考えた上での施策の一つがこのオニワラでした。
 
オニワラがビジネス座談会としてユニークなのは、未来をテーマに語るものの「答え」を出すことが目的ではなく、「議論そのもの」を行い、ピン留めすることを目的に行っているところ。なぜならば、人間はすぐに忘れる生き物だからです。
 
9.11、3.11、コロナと、私たちは大きな惨事に見舞われた最中には「このままではいけない!」と思い立ち行動をするのですが、日常が落ち着くと、その熱い思いを忘れてしまいがちです。ただ、その時行動を起こした人が行動を続けて未来につながることがあります。そのつながりへの軌跡を残し、ピン留めすることも大事だと考えているので、答えを出すことよりも、議論をすることそのものに主眼を置きました。」
 
オニワラでは「しあわせの価値基準とは何か?」、「協調のヒント」、「リアルとバーチャル」、「メタバースの価値」、「経済と社会」、「グローバルとローカル」など多くのテーマを扱ってきたのだが、このテーマの背景にコロナ前後での世界規模での変化がある。
 
藤森:「コロナ前の世界は、協調を目指していました。共に手を取り、右肩上がりの成長を目指す世界だったのですが、コロナを境に「自国のため」の保守的な国境分断がおきました。自分の国民を守るというのが大前提だったので仕方がないのですが、それにより各国の個性が出てきました。いろんな問題が噴出したコロナだったのですが、さて、各国の本性を見た上でもポストコロナ後には協調していくべきことも多い。その方法も探っていかなければいけないと考えています。サプライチェーン問題しかり、答えはないけどオニワラで扱われたテーマは改めて振り返っていきたいと考えています。」
 
企業のパーパスが重要視され、若い世代を中心にお金よりも人そのものや企業の人格が重視されるようになってきた。どの企業、どの国で生きるのか?選択肢が個人に委ねられる時代だからこそ、意見の発信と、行動が大事になると藤森氏は続ける。
 
藤森:「今まで以上に、企業の意見と行動が大事になります。企業の行動とはどのようなことかというと、ポリシーに反することをしないということです。IBMのポリシーは不公平や、バイアスを増やすテクノロジーには参画しないことを謳っています。よって、IBMはロシア・ウクライナ問題ではどの企業よりも早くロシアビジネスから撤退しました。また、顔認証についても、人種バイアスがかかることがわかるといち早く顔認証から撤退するというのを発表しています。それまでの投資があるので簡単な判断ではないのですが、ポリシーに反することは行わないということを決断し、行動することは社員にもお客様にも、社会そのものにとっても誠実な態度だと考えています。」
 
オニワラでは、あえて答えを求めない議論を行った。そして、議論を重ねるだけではなく、実際にお話を伺った地域(浜松市、茅野市)に訪問し、過疎地域の現状、起業家の挑戦、縄文からの歴史的価値を持つ地域でテクノロジー企業人が歴史を学ぶ意味などを、行動を起こすことにより身をもって学んだ。「消費は投票」が当たり前の時代に、投票者である消費者や生活者の声を実際に耳にする機会はより大事になってくるだろう。リサーチ会社に依頼したデータだけではなく、実際にその場に身に置く大切さもデジタル化が進む社会では重要視される。IBM Future Design Lab.とHEART CATCHがオニワラで示した態度とは、これからの個人にも企業にも必要な態度ではないだろうか。
また、今回の記事のように一度終了させた座談会企画を時を置いて振り返り、これからの行動を考える指標とすることも大切だと考える。あまりにも多くのことが起きる時代だからこそ、ピン留めされたアーカイブにも改めて目を向け、自分たちの行動を振り返りながら未来を見つめる丁寧さが、より優しい社会を生み出すきっかけにもなるのではないか。

そのような多くの気づきを得られたオニワラのアーカイブを以下にリストする。気になるものがあったら見てみてもらいたい。

■オニワラ全11回リスト

  1. お手元商圏/エンゲージメント商圏(商業施設パルコについて 林直孝 × 自治体浜松市 瀧本陽一)これからの消費者を考える

  2. ニューノーマル時代のファンエンゲージメント(日本テレビ 土屋敏男 × スタートアップShiftall 岩佐琢磨 )企業のtoCコミュニケーションのこれから

  3. 専有と共有のバランス(まちづくり企画・設計・運営UDS 黒田哲二 ×社会活動家 石山アンジュ)「専有と共有」再定義

  4. 地球人としての協調のヒント(製造業/音楽 ヤマハ 大村寛子 ×エコロジカルアーティスト 井口奈保)「協調」の再定義

  5. デザインマネジメント(金融スタートアップ Japan Digital Design 河合祐子× デザインマネジメントMTDO 田子學)経営✕デザイン

  6. エシカルアクション(エシカルディレクター 坂口真生× エコロジカル・スタートアップ テラサイクル・ジャパン冨田大介) 「消費は投票」である

  7. ソーシャルエンパワーメント(グラミン銀行 百田公裕 × 経済学者 井上智洋)ボトムアップ、ソーシャルパワー

  8. メタバース・デジタルツイン(静岡県 杉本直也 × NFT/VRアーティスト せきぐちあいみさん) メタバース、デジタルツイン。自治体が活用する災害対策などに使えるバーチャル空間

  9. 人間とは何か?(美容 資生堂 中西裕子× 人工生命スタートアップNeuralX 仲田真輝) テクノロジー進化の先の「人間」を改めて考える

  10. 新しい医療の価値創造〜メタバース、デジタル、アート(諏訪市 デジタル田園健康特区 須田万勢医師×ソニー戸村朝子)デジタルを活用した新たな医療、医療システムへのアクセス、メンタルケアのあり方

  11. しあわせの価値基準再考(PEACE COIN / A.D.SYSTEMS阿部嶺一×Japan Digital Design河合祐子)

※ 諺「来年のことを言うと鬼が笑う」考 花城可裕
 


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