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メタバースという"メディア"を促進するバーチャルアシスタント ~ 三宅陽一郎 / 岸本拓磨

2023年12月にForbes JapanでAI / メタバース時代のゲームはどうあるべきかを識者に伺うインタビューを行った。取材相手は東京大学 生産技術研究所特任教授の三宅陽一郎氏、IBM Future Design Lab. チーフプロデューサーの岸本拓磨氏。

この記事が良い形でオフラインイベントにも結びついた。2023年12月21日22日、東京・国立新美術開催されたAI / Web3界隈のキーパーソンが集結する「Web3BB」トークセッションである。

12月22日、Web3BB最終セッションで三宅、岸本両氏が扱うテーマは「AI&Web3の発展により人類はどこへ向かうのか」。当note記事では、日本IBM 入社3年目の山﨑朱夏(やまざき なつ)氏にセッションに参加してもらい彼女が興味を持った部分をピックアップしてもらった。AI / メタバースと現実の融合はすぐそこにある、そのような感想を山﨑氏はセッションに参加して感じたようだ。彼女が切り取ったセッション内容を是非以下楽しんでほしい。



グラフィックレコーディング IBM 武末真依


■ AI / メタバース / 現実世界の繋がり

昨今、生成AIを中心に話題に事欠かないAIだが、AIがゲーム空間をデザインするために使われてきたことをご存じだろうか。ゲームAIの第一人者である三宅氏は、そのAIを現実世界と重ね合わせ、有効活用する研究を進めているそうだ。

三宅:「ゲーム会社で20年ほど人工知能の研究開発をしてきました。AIには、例えば、モンスターの頭脳といったキャラクターAIや、ゲーム内の空間に訪れた人をもてなす空間AI、休息を取るタイミングを推定するなどユーザーの心理状態を分析しゲーム全体をコントールするメタAIが存在します。現在、このAIの仕組みを実際の都市に応用する研究を進めています。」

東京大学 生産技術研究所 インタースペース研究センター 特任教授も務める三宅氏は、都市の中でのロボット・ドローン等の動きにはキャラクターAIを、特定の広場や施設には空間AIを、都市の動き全体の観測にはメタAIを適用する研究を進めている。様々な役割のAIを複数連携させ、街全体が構築される「スマートシティ」の在り方を模索しているという。

AIと現実世界がどのようにリンクしていくのかは一見想像しづらい。しかし「キャラクター / 空間 / 空間内のキャラクターの相互作用」という観点で見ると、ゲームの世界と現実世界は非常によく似ている。

■メタバースが史上最速のメディアに!?

三宅氏によると、前述のスマートシティが実現した場合、現実空間の状況をリアルタイムにメタバース上へ移行することで、メタバースがいち早く情報を伝達する新たなメディアとなることが期待されるという。このメタバースを絡めたスマートシティ構想には岸本氏からも大きな関心を持っており、三宅氏に詳細を問う。

岸本:「スマートシティが実現される際に、AI / メタバースの世界がどのように現実にオーバーラップしてくるのかが非常に興味深い。web3は“JOIN“であり”価値交換”するフェーズと捉えることがあるが、その実現可能性はどのような状況にあるのか。」

三宅:「これまでのデジタルは”効率化”が重視されていたが、今や早い通信(効率化)は大前提。今、最も情報伝達速度が速いメディアは、X(=旧Twitter)だが、メタバースを使えばさらに速く、付加価値のあるメディアを作れるのではないか。例えば、メタバース上で現実世界の渋谷を再現し、事故や災害の情報がメタバース上にリアルタイムで反映されれば、既存の文字・映像ベースのSNSよりも速いメディアとなる可能性がある。」

電車の遅延が起きた際、いち早く情報を収集するために、Xを活用している人も多いだろう。情報の信ぴょう性は担保されないが、他のメディアよりも、はるかに早く「とりあえず」の情報を得ることができるので緊急性が高い情報入手には便利だからだ。
三宅氏が語るメタバース空間にリアルタイムに現実世界が映し取られた場合、信ぴょう性の高い情報を即座に得られるので、付加価値の高いメディアとして重宝される可能性は十分にあると思う。そもそもメタバースをメディアと捉える発想自体が、私にとっては新鮮で目から鱗であった。

■現実とデジタルの中立的な空間の意義
人と人とのコミュニケーションにおいて、現実世界のリアルなやり取りは、二次元的なデジタルのやり取りよりも読み取れる情報量が多く、感じ方が異なる。その点、メタバースは、現実世界とデジタルの世界の中間的な存在として、ビジネスの場など、様々な活用の可能性を秘めていると2人はさらに未来構想を進めていく。

岸本:「現在、オンラインでの平面的なコミュニケーションツールは普及しているが、現実と平面的なコミュニケーションの間に、中立・中間的な3D空間領域ができるとよいのではないか。」

三宅:「メタバースをはじめとする対面型メディアの場合、相手に近寄る・モノを取るなど、相手との距離感を感じられる。3D空間内で相手の歩幅に合わせながら一緒に歩くだけでも、仲良くなることができる。空間を通じたコミュニケーションが、人間関係の柔軟性・多様性をもたらす。

現実の物理的な空間でもなく、ゲームのように完全なエンタメでもなく、その中間の空間は、ビジネスの場や情報収集の場など何に応用してもよいと考えている。例えば、東京都の災害対策本部がメタバース上にあってもよいと思う。」

コロナ禍を経て、ビジネスの場におけるオンラインでのコミュニケーションが急加速した。一方で、リアルに人と対峙することのありがたさを痛感している人も多いのではないかと思う。今だからこそ、2次元のコミュニケーションと現実との中間的な空間の重要性を語る三宅氏、岸本氏の言葉に納得感があり、メタバースの普及を後押しするきっかけとなるのかもしれない。

■1人1人にバーチャルアシスタントが!?

AI / メタバースは私たちの生活にどのように浸透していくのだろうか。身近であたりまえな存在になることができるのか、生活の相棒になるためにはどのようなアプローチが必要なのだろうか?
三宅氏は、各自が「バーチャルアシスタント」を通じてAI / メタバースを自然と使いこなす世界を作ることが近道ではないかと語る。

岸本「今後のユーザーインターフェースはどのように変化していくのか。やはりバーチャルアシスタント的な存在が主流となるのだろうか。」

三宅「生成AIが進化していく中で、使い魔(=バーチャルアシスタント)の存在は1つのビジネスポイントになると考えている。例えば「喧嘩したから謝罪して」と使い魔にお願いすると、自分の使い魔が相手の使い魔に謝りに行く。もちろん、相手側の対応者も使い魔。リアルの空間にも、人と人の間に使い魔が何人も介在するようになり、コミュニケーションが多様化するのではないか。

今後は、スマホのアプリのようなサービスにお金を使うのではなく、自分の使い魔を賢く育てること、より賢い使い魔を手に入れることにお金を使う時代が来るかもしれない。」

岸本「スマホの中身も大きく変わるのではないか。何百とあるアプリが1匹の使い魔により操作できる世界を想像した。」

様々なアプリが統合され、人に寄り添う、頼りになるバーチャルアシスタントがいる手のひらの存在を少しだけ想像してみてほしい。愛情を持って、わくわくしながら、AI / メタバース世界を迎えることができそうである。

■現実のミラーワールドとしての仮想世界の在り方

例えば、物理世界がメタバースに反映され、メタバースから物理世界に指示を出すというように、現実とメタバースが相互に影響し合う世界は十分考えられることを両氏の話を聴きながら感じる。2つの世界が溶け合い、どちらの世界の自分も自分であるとしたら、より多層的に人生を楽しめる時代がやってきそうである。

岸本「今後、デジタルツイン的なミラーワールドは、どのように存在していくのか。」

三宅「デジタル空間と物理空間の両方が相互に作用しながら関連するというイメージ。例えば、将来的に、仮想空間上で会場の椅子の配置を決めたら、リアルの椅子が自動で指示通りに動くという可能性もある。その場合、デジタル空間は、現実空間に作用する拠点だ。」

そのような世界が訪れたとき、どちらが現実の世界なのか、いよいよその境界が曖昧になってきそうに思う。空間に限らず、人の存在に対しても三宅氏は語る。

三宅「人間の存在としてもデュアル化が進むのではないか。仮想空間のアバターも現実の自分の顔もどちらも自分の顔であり、物理空間とデジタル空間の両方を同時に生きることがあたりまえという世界が来るかもしれない。物理空間とデジタル空間の重要性は同じ重みか、せめて7対3ぐらいで、使い分けがされていく時代が来るのではないか。」

これまでも、ゲームの中のアバターに現実の自分を重ね合わせることはあった。しかし、デジタル空間が、現実世界と物理的に相互作用する世界が来れば、物理世界の人間の存在と、デジタル空間のアバターがほぼ同等の重みとなる日もそう遠くないのかもしれない。

2人の話を聞いていると、新しいメタバースの使い方やデジタル空間と物理世界との繋がり方が色鮮やかに描けるようになってきた。純粋に「こんな世界があったら便利・面白い・楽しいのではないか」とわくわくすることを出発点に、新しい世界を「妄想」していくことが、AI / メタバースを通じて人類はどこへ向かっていくべきなのか?決める原動力なのかもしれない。


イベント参加レポート:IBM 山﨑朱夏
グラフィックレコーディング:IBM 武末真依
編集・構成:西村真里子

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