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【SCP並走記録】SCP-CN-590「既生仍生、將死未死?」を読みながら書いた記事

私は怖いものが嫌いです。ですが、「SCP Foundation」は好きときている。矛盾です。あれは「怪奇創作コミュニティサイト」であり、そうした「シェアード・ワールド」なのですから。

私はまた、SCPに関しては完全な読み手です。そして、怖いのが苦手。これらの属性から、本家よりも「アニヲタWiki」を経由して読むことが多くなっています。概ね"怖いものに蓋をしてくれる"ので。よって、俗称「アニヲタ支部」の所属と言えるかもしれません。

ところが、そこにはいくつかの問題があります。本家からの二次的な解説記事になるので、読みたいものがそろっていないケースが出てくるのです。とりわけ気になるのが「SCP-CN-590『既生仍生、將死未死?』」でした。

このSCP-CN-590、「おそらく現在全てのSCPの中で最長の記事。その長さたるや22万文字、当Wiki的に言ったら『440分で読めます』レベル」と(アニヲタWikiには)概要のみが説明されており、強い興味を持ちました。
(もっとも、2023年6月下旬現在、こやつを超える大長編がきっちり生まれたそうですが)

ツイッターによれば、2019年のうちに翻訳およびその大幅な修正を行った方がいらっしゃる様子。すばらしいですね。

であれば、その"成果"に触れてみたい。「それもう立派な華流SFやろ」な逸品に触れてみたい。かくのごとく思い立ち、せっかくなので「"銀の弾丸"代わりの読破ログ」を残していくものです。

https://twitter.com/mariyatsu

本原稿につきまして何かありましたら、上記ツイッターアカウントまでご連絡ください。

性質上、多大なネタバレを含むとともに、「解説」なんて言えるようなものもない手記的な流れになるでしょう。他方、それは翻訳版を含むオリジナルの価値を毀損しないものと期待し、確信するものです。魅力がなければ、この原稿は公開されないはずですから。


■読み終わってから遡及的に記した項目(20230626 20:32)

ハ、ハ、ハ。3万字を超えてしもうた! いやあ、よく読みましたね。よく書きましたね。本記事の末尾に、「CC BY-SA 3.0に基づく表示」を載せました。

すごかった。ちょっと不満だ。すごかった!

面白いもんだ。人類は……"理知"は、"信仰"は!

■Wikidotのアカウント作成

さて、このSCP-CN-590。超大作な報告書であるうえ、"Wikidotへのログインを必要とするギミック"まで備えています。よって、アカウント作成から始めました。

これは問題なく完了。2023年6月26日(月)5:58、旅を始めましょう。

■SCP-CN-590の報告書へ

さあ、中国支部の大長編への旅を始めます。オブジェクトクラスはSafeに取り消し線、Neutralizedですか。「なぜ無力化されたのか」が謎の起点となりますね。

さらに、特別収容プロトコルの重ねての追記により、「Anomalous」への再分類が可能性として浮上。処理優先度も最下位になったとのこと。それにしても、「内部の衝突」なるものが想定されるオブジェクトとは……?

正体は「木製品のセット」。"木製円盤"と"木製立方体群"だそうです。なんじゃそら。なんか勝手にぶつかりあい始めるらしいです。

と思っていたら、報告書が文字化けへ突入! コワイ!

そして、やべぇSCP名物、"ミーム殺害エージェント"が起動。「第95回読み込みを開始」の文言とともに、「対抗ミーム"堕落せし神の双子(クリフォト=タウミエル)"α-1プロトタイプの第3回運用は計画通り実施されました」なる"不穏の宝石箱や!"なディスプレイが表示されます。「タウミエル(Thaumiel)」って時点でやはりヤバい。

しかも、「SCP財団でないサイトに飛ばされた感覚」!

自分は何やら機動部隊の隊長となり、加えて「財団より上位の"キテレツな団体"」に見られているようです。そこから、Wikidotに登録した編集者として、どういう編集者資格の登録&抹消があったかが表示。そもそも、「O5評議会は抹殺するぜよ」みたいなメッセージが先の画面で出てたので、ヤバヤバのヤバです。語彙が足りねぇ。

編集者資格は、アクセスしている自分以外にO5-9伍玖博士なる人物が承認されたものの、この2人はサーバーエラーで資格を喪失。その後、何度も申請しては拒否され、ついに「マルウェア入りの申請端末からアクセスしようとしとるやんけ」と排撃されているような扱いからの、「オヌシは侵入者なりや?」的なマッポーめいた申請拒否理由が。

そうしてこうして、何やら前と違うSCP-CN-590の報告書にやってきます。見慣れた特別収容プロトコル。オブジェクトクラスはEuclidSafeでもNeutralizedでもAnomalousでもないやんけ!

加えて、特別収容プロトコル「サイト-CN-59を中心とする半径1kmの範囲内には~」という始まり。開幕の報告書とまるで違う内容になっていますね。さては世界リセットしたなオメー……という予断が通り過ぎていきます。

でも、ほかの可能性もあるのが財団世界。「滅亡の多彩さに定評がある」のは伊達ではありません。

■我は何者なるぞ

特別収容プロトコルは、最上級の機密体制で封印されています。そこには監視体制の構築や記憶処理の実施が含まれ、このような内容で結ばれることに。

長期間にわたって実施される項目:
● O5-13に対する暗殺を阻止し、同氏の安全を確保する
● 各国支部における管理権限移譲を全力で阻止する

http://scp-jp.wikidot.com/scp-cn-590/

これ、読み進めることそのものがトリガータイプなのでは? 緋色の鳥ちゃん、助けて! 助からんか、そうか! あ、さすがにリンクはやめました。認識災害だからね!

そうして、なんかこの財団世界は明らかに滅んだか……少なくとも「SCP-CN-590-1はSCP-CN-590の住民であり、人類と特徴が完全に同一な生物です」という本文からは、「それは人類なはずだが、これを記載しているのは人類ちゃうんけ?」な謎が生まれます。支配シフトでもしたんか。

しかも、この住民たち。20世紀以降の著名な指導者たちで構成されており、時代を超越した知識を保有していることが明かされます。『ドリフターズ』的なサムシングかしら。

記憶や性格もほぼ同一なことから、複製体とオリジナルを区別するため、カギカッコ表記がされる旨が宣言されます。ユーザーフレンドリーやね。

O5-9→オリジナル体
「O5-9」→複製体

こんな感じですね。報告書を作成している財団サイドがオリジナル。謎多き観察対象が複製体です。

謎だけで引っ張ることはありません。SCP-CN-590-2は高さ548mの建造物であり、「意識復活装置」と称呼されていることが共有されます。これは報告書の作成者によって、「SCP-CN-590-2は人類を復活/転送させる機能を備えていると考えられています」と説明されます。ははーん、この報告書、ぜってぇ難解になるな?

ほいで、住人たちの会話を盗聴したことで、意識復活装置の機能が判明。水・ビタミン・アミノ酸・脂質・ヌクレオチドなどを投入すれば、人物を任意に復活させられるとのこと。人体やDNAの部品ばっかやんけ!

なお奇妙なことに、いわゆる毛髪などのDNA情報を記録した物品を必要とせず、「歴史の記載だけで複製体の特徴を本体と完全に同一なものにすることができる」とのこと。理由は現時点では不明。きな臭いひみつ道具ですわ。

で、これはサイト-CN-59の地下部分建設の際に偶然発見されたものの、インシデントが発生して黒塗りで隠された複数のThaumielオブジェクトが一時的に故障し、スクラントン現実錨2台も機能を喪失したそう。いきなり世界が終わりそうです。

実際、支部に関する歴史の記載について、数百文字の偏差が生じたそうです。えーと、中国語の数百字って結構な情報量なはず……。

太陽系の相対位置が変化し、デジタル式の時計表示がすべて3848年1月1日00:00:00になる異常現象が発生。カバーストーリー「サイバー攻撃」が流布されたみたいですが、こりゃ改変したか転移したか、「超速で滅亡したか」までありますね。

かくて、住人たちの会話から、現況が明らかになっていきます。彼らの出身地は「母球(マザー)」であり、地球を「子球(チャイルド)」と呼称している。惑星および近隣恒星系の物理構造や歴史等はいずれも地球ならびに地球近傍と告示している。当該惑星は「元地球」と命名されている。その惑星の実在性を証明できる観測的証拠は現時点でない……。

会話から得られた情報は続きます。元地球は「世界連邦」なる政権が支配しており、住人たちが同連邦の「指導者議会」の議員をやっている様子。発見された空間は、世界連邦初代大統領の命令によって、指導者議会の本拠地として建設されたそうです。ガンダムの地球連邦よりは盤石やね。

ここで、議会は「保守派」「急進派」「中立派」の3つの派閥に分けられていることが説明され、保守派が絶対多数を占めており、その指導者はそれぞれ「O5-13」「O5-9」「O5-7」である旨が説明。元地球にはすでにアノマリーが存在しないそうです。

えーと……"Why(どうして)?"

と、SCP-CN-2000みたいに、SCP-5000の世界観に連なるやつかしらと思ったら、「元地球におけるSCP財団は統制力を失っており、存在が危ぶまれている」と続くんですよ。O5評議会くん、もしや財団を売ったんか、きみィ。

さて、盗聴ベースであってインタビューベースではないので、謎はまだまだたっぷりです。アノマリーはないはずなのに、「元地球では深刻な収容違反が発生した」そう。人類かな。

いや、ちゃうっすね。「前述の収容違反はすでに世界終焉シナリオを引き起こしており」だそうです。イエローストーン国立公園は何度消滅したのだろう……。

この流れで重要な一節。「O5-9の協力により、ほぼすべてのアノマリーの情報にアクセスし、分析した結果、前述のシナリオを引き起こせるアノマリーは存在しないとの結論がなされました」。急進派のO5-9が協力してくれている。しかし、編集者権限の項目で、O5-9はその権限を奪われ、監視や記憶処理などの対象になっている。おーん?

ここから、わずかな事前情報として「独自用語が多いよ」と聞いていたとおり、それらしいワードが出てきました。「歴史分岐器」「時間分岐器」「『ソレ』」「行政解禁令」「四星共栄組織」。中国支部の場合は"演繹部門"もあるものの、これはまた違った独自のヘッドカノンでバチゴリやってきますね。

用語の波はまだまだ押し寄せます。「命樟」「李然」「天命教(ハトとも呼称される)」「衆生教」。おやおや、終末的な匂いが高まってござるよ。

かくて、「盗聴だけじゃでけん。きみが隊長になって、オペレーション『弑祖』を遂行してたもれ」となりました。がんばるぞい!

■接触・凝集

さあ、複製体たる「O-13」への接触で、いよいよ「なんか同じ人間があべこべになって、わけわからん」ことになりそうな気配がしてきました。気分はもう「圧倒的曇天(Overcast and Overwhelming)」ですね。

オリジナルの伍玖博士は、複製体の世界……つまりあちらの「伍玖博士」は「秘書長」なるものをやってるそうな。ふむん。

おっと、リンク付きの用語まで出てきました。中国支部に遷移します。日本語名は「権力臨界症」で、簡体字だと「权力临界点」。「権力が人間を恐ろしいものに変える」という、人間の命題に触れるような感じのものが、「権力の臨界点」でもって説明されています。

一般に、ロシア文学はよくそういった"社会階層の隔絶"に触れられることが多いですが、よくぞ中国でこの内容を……「フィクションで本当に監獄に連れて行かれかねない」中国で、よくぞ!

報告書はさらなる補遺。伍玖博士がO5-9に連絡へ。それはO5-9を至高の存在と崇める内容。すでにこの報告書の財団、元地球の財団も怪しさマキシマムですね。「我々の、あるいは私の仕事は、貴方がO5として永遠に君臨するように」という文言にも、それが表れています。権力臨界症、これかしらん。

O5-9の返信は、そんな伍玖博士をたしなめる内容。ただ、O5-9はすでに「数百年間その職務にあること」が示唆されます。家族はすでに数百年前に自然死したとのこと。おやおや! この世界の人類は、限りなくハチャメチャな状況のようで。

かくて、20世紀の指導者の複製体、すなわち「レーニン」や「ルーズベルト(Fのほう)」まで登場。しかし、ここにカギカッコのない鎌井綾雄という人物も。どんどん読み進めて把握したほうが良さそうですね。

天命教。報道機関はとっくの昔に消えている。瞬間移動の使用を拒否し、毎日15分の遠出。思考監視。日例祈祷。概念の運用。

濃厚なディストピアワードがパレードしてやがらぁ。

何しろ議会はすべて権力者、保守派の巨魁である「O5-13」の意向で進んでいることが露骨に描写されています。議長を務める「レーニン」は、まさしく彼のために働いているかのよう。しかも、謎のハンドサインや目配せなどで、異論を押さえ込もうとしているようで。

む、「レーニン」が興味深い発言をしています。「メンシェヴィキの解党派」「我々ボリシェヴィキや召還派」というものです。しかも、どうやら彼らは分岐したらしい。してみると、ここは1917年の十月革命前後、または18年……メンシェヴィキのマルトフがまだ残っていたころのソヴィエト(評議会)が明示されているのかもしれません。

「鎌井くんよ、数の暴力がその存在しない社会をひとつでも見つけてきてくれれば、今この場で君の無罪を宣言しても構わん。よく考えることだ。本当にあるのかい、こんな社会が? 大多数の自由選択による集団的意思は、いつも人類の集団に存在する。そのなかにひとりだけ集団の合意に反する者がいるとして、それも数の暴力と呼べるのかい?」

http://scp-jp.wikidot.com/scp-cn-590/

独裁者然とした「O5-13」が、対立派閥である急進派に属するらしい鎌井綾雄を追い立てます。ふ、ふ、ふ。中国支部で、こいつを書いちゃうのかあ!

この議会の場面も凝っていて、多くの有名人の名前や言葉が引用されます。さらには、「上の如く、下も然り」も。SCP-2747の項目名("As below, so above")にもなっていますね。あ、逆か。「下の如く、上も然り」だわ。

補遺のなかでは、読者たる自分のメモも挟まれていきます。しかも、権力に溺れたO5-9ではなく、複製体で急進派の長である「O5-9」に忠誠を誓っている様子。この世界はいったいどうなっているのか? 元地球は皇帝教皇制を採用していると推察されていますが、それにしては権威主義の方向性があまりにも……。

さあ、補遺は進みます。なんとO5-9と「O5-9」、この2人が対話するとのこと。ただし、「O5-9」の通話風景から始まりました。「進むべき道が予定から外れ、辿るべき歴史を辿らなかったともなれば、色々と変更を加えなければならない」という意味深長な言葉に加え。「前に話をつけていた子球の財団の9との面会が入っているんだ」と思わぬ遭遇ではなく予定された会談であることが示されます。

しかも、子球のO5-9について、「過去の自分との面会」と表現。ふーむ、歴史分岐、子球の発展を待つという言動。何やら大いなるズレが起きたようで。

そこで、「O5-9」がO5-9に射殺される! あれ!? 「O5-9」は未来の私とO5-9に告げていたのに……撃った!?

なお、読者たる自分は「致死性ミーム搭載や内容隠蔽の専門家」であることが、O5-9から伍玖博士への隠蔽命令で明らかにされます。

うわあ、撃たれた「O5-9」がよみがえった! ホラーだ! SCPってホラーだったわ。ほーら、言わんこっちゃない。ああ、トマトが飛んできそうですね。

会談は一気に形勢逆転。下手に出ていたように見えた「O5-9」は見事に形勢をひっくり返し、逆に居丈高だったO5-9がへりくだる始末。ただ、O5-9に要求を飲ませて追い返したあと、へへへと笑っていた「O5-9」は突然に英雄のような表情を見せます。すごいエンタメしてるわ。参考にせねば。

そして、「O5-9」は祈るように衆生教の者たちに詫び、「『計画』を成し遂げる」と語り、「我は人の子なり。我信じ、我愛す。これまでは。我悟り、我超越せん。いつまでも」なる言葉を読み上げます。おそらくは、この報告書の鍵になるでしょう。

O5-9の企みは、「O5-9」によって次々に看破。「未来の存在」からすれば、元地球の技術などは赤子の手をひねるようなものの様子。インシデントが発生し、中国支部のセキュリティは蹂躙されました。

続けて、繰り返されるO5-9と伍玖博士のやりとり。なんとこの世界では、「『世界オカルト連合』は財団から分派した組織であり、アノマリーの破壊もO5-9が意図的に演出したものだった」。つまり、GOCもO5-9の子飼いであることが示唆されます。財団がえげつない力を持った世界や。

ただ。SCP-CN-2000がそうだったように、カオス・インサージェンシーまでは掌握しきれていないようで、「寝返った老いぼれ」は記憶処理をしそこねたようです。こっちでも鍵になるのかしらん。

そのやり取りのあいだに、報告書を読む自分は「O5-9」を先生と呼び、救えなかったことを後悔する。どうやら、O5-9と伍玖博士が企んだ「向死」なる作戦は、未来において複製体たちに甚大な被害を与えちまうようでさぁ。

■既生仍生

かくて、自分がまとめたファイルは6つ。いずれも「O5-9」の端末から手に入れたものを復元し、かつて「O5-9」が経験した歴史を追体験していけるようになっています。

ファイル1・既生 - 既に、生くれど
ファイル2・仍生 - 猶も、生くれば
ファイル3・錦繍江山 - あゝ、美しき国土(オプション)
ファイル4・将死 - 将に、死なめど
ファイル5・未死 - 未だ、死なずや
ファイル6・空谷幽蘭 - いと、有り難き哉(オプション)

http://scp-jp.wikidot.com/scp-cn-590/

おお、表題回収!

ファイル3とファイル6は本筋との関連性が薄いため、閲覧をオプションとする旨が、自分と自分の部隊員に向けて書き残される。

「文明民族主義万歳!世界公民万歳!人類価値万歳!
 万歳!!
 万歳!!!」

http://scp-jp.wikidot.com/scp-cn-590/

極めつけは、この熱狂的な書き込みによって終わる。なんだこの狂騒は、たまげたなあ……。

「最後の最後で踏み間違えると、また2026年のように、とっくに知られてしまった杜撰で稚拙な簒奪計画で囚人服を着せられ、法壇に座るあの12人に断罪され、屈辱的にも手に入れた全てを失うことになりかねない」

http://scp-jp.wikidot.com/scp-cn-590/

このようにあるので、どうやら「O5-9」はその陰謀を見抜かれ、ほかのO5に処断された様子。2026年とは、タイムラインがまただいぶ現代に近くなりました。

しかも、「貴方が保身のために色々と画策していた時から、数百年後の21世紀初頭までの間」とあるので、どうやら21世紀以前からO5評議会の面々は変わらない事実。なんだこの世界!?

なお、「O5-9」も「伍玖博士」も、100年間の懲役をつとめたのち、保険的に残しておいた措置で臥薪嘗胆の思いで権力を取り戻したようです。イカれてるぜ。

発される「O5-9」の告知。世界各国政府に向けたそれは、「本日より、SCP財団は『独立条約』を破棄するものとする」と端的に記されていました。ヴェールを自分から剥ぎ取ったぞこれ。しかも、Keterオブジェクト使用を命令し、第三次世界大戦を1週間以内に終わらせることを宣言するという。

その結果、どうやら「O5-9」は戦争に勝利。「新秩序条約」なるものを世界各国と締結し、SCP財団は財団同盟に深化。条約の最終解釈権を持ち、あらゆる国家は財団の意図するように連邦を形成し、その属国としてかしずくようになったのです。財団は狂った。世界は終わった。

誕生した傀儡連邦、ここでは"二級連邦"と呼ばれる彼らが、地球一級連邦を正式名称とする世界連邦を創建。世界連邦政府は「SCP財団(SCPCN財団)」が兼任することが宣言されます。南極さえも世界連邦の"天領"となり、GOCは解散して財団に合流。二級連邦は反物質兵器や核兵器を財団に上納し、研究することが禁じられました。

また、上記にもあるとおり、SCP財団は「SCPCN財団」と改称。「O5-9」が統括する中国支部が全権を握る……「すべての権力をCNへ」が実現したことを示しています。続くメールでは、「伍玖博士」も「伍玖秘書長」に昇格していました。

対して、なんと自分は精神が参って自殺してしまったとメールにあり。

おやおや! それが偽装自殺なのか、はたまた……この先を読むのは「復活」した自分なのか?

ともあれ、倫理委員会も「O5-9」の意向によって解散させられました。ほかのO5に屈辱を味わわせたいという理由から、「O5-9」は彼らを生かしています。ただし、管理者の権限をすべて取り上げて。

そこまでがファイル3。「O5-9」と「伍玖秘書長」による権力奪取でござぁましたが、本筋ともいえるファイル4は急転直下。「『SCP-001』の収容違反」というえげつない開幕。ただ、この世界では「どの『SCP-001』なのか」?

■将死

驚きは続きます。なんと「神」カインアベルも休眠状態に入り、あのアイドルトカゲも弱体化。彫刻は「見てたのに首を折ってきたあとに静止した」と、なんか全部おかしなことに。

そして、なんとこの世界のSCP-001は陰陽(☯)の色味になった円盤。これが地球上空にやってきたところ、スクラントン現実錨がすべて故障し、カント計数機も一時的に機能を喪失・現実改変回避用の試みもすべて失敗。というか、そもそもカント計数機の数値はすべて1で、ヒューム値に異常はないことを示していたそうです。

すべての対抗手段が無力化されたうえで、「O5-9」の本名を呼び、「太極(飛行物体)」に来るよう促しました。えげつない上位存在が来たわね。

「O5-9」は「伍玖秘書長」を代わりに円盤に行かせ、彼は円盤内で「ソレ」と対面します。いよいよ複製体たちが恐れていた「ソレ」と呼ばれるものの登場です。「ソレ」との対話は中国語によって実施されました。

「ソレ」はヒト科生物とウシ科生物に類似した2つの実体で、一方的な宣告を条文のように読み上げました。惑星に存在するすべての信仰および信念の放棄、ならびに「ソレ」の採用している宗教に告示した「天命教」に帰依すること。これは、「O5-9」が「典籍」なるものに記された4つの極罪のうち3つ目に該当したためといいます。

ひいては、「ソレ」が求めるのは神降ろしに必要な儀式の力("極罪")であり、それは「O5-9」が権力濫用によって蓄えた力であると。「権力臨界症」と密接にリンクしてそうな概念が出ましたホイ。

って、実際に要求のなかで出てきた! 曰く、「O5-9」が服従した後も、祭事やその準備のために「権力臨界症」を保てと指示してきました。しかも、財団が言うところの「異常存在をすべて除去せよ」と。彼らの神が宇宙を創ったときにこぼれ落ちたかけらの多くが、地球に散財しているというのです。そのための除去に役立つ「道具」を授けてやるとも。

これらの活動の監査および管理を実施する機関として、「四星共栄」を設立するように命令してきました。

このファイルでは自分が過去の出来事をまとめているので、それぞれの相関図がダイナミックに埋まっていきますね。

それにしても、「ソレ」はかなり厳密に期限を切ってきており、「今から81日以内に履行しろよ。ちゃんとしてたら、アノマリーを除去する道具をくれてるから、そこから61年以内に全部駆除しろや。具体的な日時は60年目に通達するから忘れんなよ」ときたもんで。

地球に半分根づいているような超大型SCPもいるんですが、それはどうするんすかね……。なお、最後の項目では「SCPCN財団は解散させっからな」と、結構な一撃を加えていきました。「O5-9」くんの野望はもう終わりだぁ!

しかも、「『O5-9』めっちゃ疲弊しとるわ。おう、『伍玖』。お前、『O5-9』に言われて自分が『O5-9』を名乗って宇宙船に乗り込んできたけど、その希望を叶えてやってもええで。お前こそが『O5-9』や」のおまけつき。

円盤内部に合成音声が響きます。

「人類文明の立ち会いを検知しました。面会用の条文の読込、人類の言語を使用します。自動設定により、『服従宣告』を完了」

なお不思議なことに、「ソレ」はつぶやくように言い捨てるのです。

「ハア、全クダ。偉大ナル神ト、神ト再ビ逢ウ為ノ契約ノ縛メガ無ケレバ、我々ハ愛ト信仰デ総テヲ支配デキタト言ウノニ」

帝国主義の権化みたいな「ソレ」も、彼らが信仰する神との契約に縛られている……?

ともあれ、「ソレ」は絶望的な勧告を叩きつけます。

「より強き抑圧の前では、人類の反抗する可能性は皆無になるゆえ、我々の違法の統治は永久に続くことになる。違法の統治が永久に続くということは、すなわち合法の統治である。それこそが合法性である」と来たもんで。

覇道をよりやべー覇道が叩き潰しにきた。まさに、これ。

「O5-9」は狂乱し、「天罰だ! これは天罰だ! 知っていた、知っていたのだ! 報いがやってくる! ハハハハッ! 報いがやってくる!」と叫び申した。どぎゃんされましたん。

報告書の末尾に、このような文言が踊ります。「またこの件以降、頻繁に動悸を訴えるようになり、左腕にはパーキンソン病のような振戦症状が現れ、外出時には帽子を被るようになった」と。ご存じの方も多いでしょうが、史実にもパーキンソン病の疑いが濃い超有名な独裁者がおりました。アドルフ・ヒトラーです。

以上の内容は、財団内部メールアドレスで送信されており、ミーム措置も暗号化措置もなされていなかったとのこと。編集者注記として、「『ソレ』の情報探知能力を、余分の情報を大量に追加することにより撹乱させるのが目的だったと思われる」という考察がついています。

また、「O5-9」は「『ソレ』を番号で呼ぶな。文明も指導者も『ソレ』と呼べ」と厳命します。何しろ、相手は超絶に進んだ科学と奇跡論の使い手。"名前を呼んではいけないあの人"と同じく、特定のワードですぐに陰謀を見透かされる可能性が十分にあるのです。

情緒が安定した「O5-9」は……

● 精神影響とテレパシー関連のオブジェクト研究
● あらゆる手段を用いた宗教機関の組織能力向上、および各党派の綱領の法律家
天命教の経典に対する大規模な研究の開始
● これらをほかのO5に知られないこと、「ソレ」と結託されるのを防ぐために

このような指示を「伍玖秘書長」に与えました。

その後、「O5-9」と「伍玖秘書長」は「ソレ」が期日にやってこなかったため、安心していたら……メッセージに「ソレ」の文言が現れました。彼らは満足していました。「O5-9」はそのどす黒い権力欲によって、あるいは「権力臨界症」をもって、権力濫用状態を保ち、「ソレ」が求める儀式のための力を集めるという最も重要な仕事をやり遂げたためです。

飛び始める異様なメール。送信元は「聖ハト・情報部」

「30分前の護神運動の開始とほぼ同時に、世界人口の99.8%を占める人類は、神聖で正確な天命教を信仰しなかった人間に対する異端狩りを開始」

どうやら、「ソレ」の信仰にまみれた強烈な宗教が、わずかに残った異端を駆除する活動を始めたようです。送信日はまさしく、「ソレ」がメッセージに現れた日、すなわち最初に「服従」を求めてから81日後のこと。『彼岸島』よりは待ってくれてたな……被害は雲泥だけど。

ところで、異端狩りによって、異端組織の指導者をやっていた「O5-13」も処刑されたそうで。オイオイオイ。死んだわアイツ。

一方、「ソレ」の尊称であろう「ご神恩代理人」と呼称される存在から、「神降儀式の取り決めにより、神のご意思の伝達の妨げにならない限り、異端者を多く殺めてはならない」との言葉があり、処刑された異端者はアノマリーによって復活したとのこと。「ソレ」由来の信仰力ではなくアノマリーを使用したのは、「神降総儀式の取り決めによるものだと推測されます」と文面にはあります。

しかし、キリスト教徒も狂信者じみた煽動のメールを送信。イスラム教、ユダヤ教、無神論者、学問専攻もバラバラな同志と連絡をとったことを宣言します。そのメールによれば、正気を保っている人間はまだ400万人ほどいるとのこと。ただし、この世界は「えげつないくらいの戦争によって、人口が激減している」事実が数回明かされていました。

「聖ペトロよ! 聖アンドレよ! 聖パウロよ! この俺を十字架刑(はりつけ)にできる異端者はいないのか!!?」

http://scp-jp.wikidot.com/scp-cn-590/

彼はそう叫び、異端狩りに来た天命教の信者たちに自爆突撃を行った様子。このセリフ、ビザンツ帝国の最期、「コンスタンティノス11世(計数によっては12世等)」が、「誰か我が首を刎ねるキリスト教徒はいないのか」とオスマン軍に死の突撃を行った逸話を思い起こさせますね。とりわけ、聖アンデレは東方正教会においても重要な聖人です。彼はビザンティウムにおける最初の司教であると伝わり、ゆえに初代総主教として認定されているので……。

おやっ、陰謀を見透かされた「O5-9」が隠し通路で脱出した旨のメッセージを送ります。権力濫用パワーは十分に使わせてもらったので、「ソレ」にとっては用済みになったようですね。彼以外、事務棟にいた人間は全員やられたそう。ですが、南極にある大規模破壊兵器の保管基地へ向かい、起死回生を図るようです。

他方、「伍玖秘書長」は悲惨な状況。天命教の狂信者たちは、撃っても死なない体になっている。「代理人に授かった篤き信仰の褒美」と。SCP-5000を思い出しちゃうよネー。それでも修羅場を無数に経験してきた胆力か、「範囲麻酔か催眠でなんとかしてみます」と返信。さすがに、禁錮100年やKeterオブジェクト使用の世界大戦を生き抜いてきただけあるわ。

ただ、ここで彼らに協力していたらしき人々が、実は天命教徒だったようで、「こいつら観念してないから、権力濫用の力が残ってるぞ! 儀式に使えるやん!」とウキウキで拘束。処刑前提で大喝采。拍手に太鼓に爆竹の音が鳴り響き……って旧正月みたいやね、爆竹まであると。

今まさに斬りつけられんとした「O5-9」。ところが、不明の音源がそれを押し留め、「我は簒奪者にあらず。合法的な支配者である。貴方は我が部下、権力は我が掌握。だから、私は貴方を地球文明の総祭司に任命する。許可の範囲内なら、地球のすべての事務を決定していいよ」と語りかけます。ただし、天命教の信仰だけは絶対であり、守らねばならない。不可侵であるとも。

「伍玖秘書長」が「収容なんて無理っすよ」と泣き言をいうと、声は「時間めっちゃ無駄にしたわ。これから神との儀式の取り決めどおりに、俺たちは2,000年間の修行に入るかんね」と押しつけ。

「勝手ニ治メルガ善イ」

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まさにこの言葉が天啓となり、「O5-9」と「伍玖秘書長」を襲撃していた教徒たちは立ち上がり、ふたりを傷つけることなく現地解散。絶体絶命の状況で、九死に一生を得たのです。なんやこの侵略者!?

■未死

ところが、これで終わったファイル4。「O5-9」はニッコリと笑んで終わって、さあファイル5ではまた独裁の開始かと思いきや、「世界政府連合病院・特別医療部門」の報告書から始まります。それは「O5-9」の本名(黒塗りだけど)が記載された"聖断"の診断書。

「神が言う。病人を救えと」

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と赤字で記されたその診断書には、「O5-9」が「権力臨界症」に罹患していたが、最高決定権の移譲以降は精神状態が回復しつつある事実が記されています。ただし、精神疾患の早期症状が見られるとも。

なお、権力臨界症についても簡単な説明が付記されており、「長期に渡って集中的な権力を有し、かつ最高決定権を持たない場合、後者に対する非合理的な欲求や、最高決定権を持つ場合、それを保持しようとする非常に強い執着が表れる」と説明。史実でも見られる"狂った独裁者のメカニズム"を、架空の病理的に説明した感触ですね。

いやあ、これ、O5評議会が全員感染してもおかしくない要件だわ……。

そして、「O5-9」は「伍玖」に対して、10年ぶりのメールを送ります。一瞬で時が過ぎた。「ソレ」が自動メッセージで宗教的接触を図ってきたことで、なんとも劇的な変換が訪れたもよう。「ここの景色は美しい」とか「連絡は10年ぶりだが、君と残りの12人がうまくやっているのかい?」とか、漂白された感を醸し出します。

でも、ここにいたるまでの道筋を考えると、それは漂白というよりもっと別の何かなのでしょう。

うっとりとした悟りの文章が続いたかと思いきや、突然に文面が冷静になり、「ソレ」の文明についての推測を語り始めます。なるほど、先ほどの診断書のとおり、精神的な病理によって不安定さが出ている表現なのかもしれません。

なぜスクラントン現実錨は作動せず、カント計数機も「1」を記録したのか?

なぜなら、それは現実改変ではなく、"現実置換"だからである。「ソレ」の意志がもたらしたのは現実改変ではなく、現実そのものだ。「ソレ」は全能のように見えるが、いやいや、あくまで「"遍在"の法則を特定の対象に限定させた」点に注目すべきなのだと。「ソレ」らはこの法則をもたらす信仰を"信仰力"と規定した。

こうした法則を「ソレ」らが獲得したのは、人類でいう蒸気機関の時代だったそうな。ただ、ここで神の威光を知り、信仰の力を知り、神降ろしができる「典籍」に出会った。本当にそんなことができるかどうかはともかく。うん、SCPにもそういうのはいっぱいありますね。

人類はまだ存続できる可能性があり、早急に対策を取るべきと考える。

「これは……こんなことは望んでいなかったが、私は向き合わなければならない」

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そのように、「O5-9」は語ります。「権力臨界症」で狂っていた己の記憶をたどりながら。そして、ハハハと高笑い。

「今からやるべきことに、それを指導する原則に、そしてその目的と意義に、完全にクソッタレな理性の存在を排除することができる!」

「理性とはなんぞや? それの言い分はこうだ。私は私のしたことの責任を負う必要はない、と。なぜならば、責任を負わなくても咎められない地位についているのだ。それは、時間の浪費であり、骨折り損にしかならない」

「だが、権力臨界症が去った今、私は人なのだ。健常な倫理観を持つ人間なのだ。これが私、O5-9の責任だと良心が囁いている! ハハハハハッ! 理性なんてクソくらえだ。私はもう自由なのだ! 自分の気のままに、自分の責任を取ることができる!」

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それは自らの責任を背負い、支配する「ソレ」に対する戦いを挑むという、どこか新たな狂気を感じさせる償いの咆哮。挿入される、「ソレ」が来たときの言葉。

「もう8月4日です。予定日より7日超過しています」
「儀式ガ予定ヨリ6日モ長引イタニ過ギナカッタモノヲ」

そう、「O5-9」たちのアノマリーを通じた試みは、「ソレ」の知覚を1日分だけ鈍らせていました。彼らは、2,000年は帰ってこない。

最後に、君に伝えたいことがある。この十年の間、私は色々な物を捨て去り、そしてまた色々な物を取り戻せた。これからは、なるべく達観に、温和に、楽観的に生きていくつもりだ。例え、それが不本意だとしても、達観の仮面は付けてみることにする。過去の自分と決別するためだけでなく、何より私の中には既に希望があったのだ。その希望とは――

この後すぐに、君が見ることになるだろうファイルだ。
これが、全てのはじまりになる。

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そして、編集者注記は心を躍らせます。何しろ、そのメールは自分が知る「O5-9」そのものだったから。「『ベアトリス』計画実施要綱(前半期)」とされたその文書は、「O5-9」が計画を発案し、母球の「伍玖」が計画総参謀を務めた旨が記されています。

これは、あの10年の後半の6年間に策定した物だ。これが全ての始まりになるとも言った。
そう、我々は、新生を迎える。

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「O5-9」のこのような注記から始まる文書は、「ソレ」がもたらした道具を研究し、信仰力をも解明してThaumielの研究も進め、皇帝教皇主義に最適化した政府改革を行い……。

基準宇宙の1,500年が指定空間の55~70億年になるような装置を開発する。同装置の名は「時間分岐器」。

真のランダム事象の傾向を恣意的に操作可能な装置の研究および開発を実施。文明におけるランダム事象の操作と、それによる歴史決定が最低条件となる。この装置の名は「歴史分岐器」。

■ベアトリス計画

あらゆる面で、反逆のための準備が宣言される内容でした。もちろん、それらの準備段階を経て、いかなる実行段階を踏むのかも克明に記されています。端的にまとめてみましょう。

【「ベアトリス」計画実施要綱(前半期)の概要】

  1. 準備した成果物の精査

  2. 太陽系の初期状態と完全に同一な物理パラメータを有する新系統構築

  3. 2で構築した新しい太陽系に従属する地球を「子球」、もとの地球を「母球」とする

  4. 歴史分岐器を使用することで、子球の属する太陽系の歴史を完全に同一のものとする

  5. 時間分岐器を使用することで、子球の属する太陽系の時間を加速させる

  6. これにより、「ソレ」の2,000年の修行期間中に、新太陽系は46億年以上を経過可能

  7. O5-7は当時珍しく権力臨界症の影響を受けなかったため、彼女に異常現象を発見させてSCP-001としてナンバリングさせる(歴史分岐器を使用すれば操作できる)

  8. 子球の指導的地位につくものが、速やかに元文明の存在と置かれる状況を認識する必要がある

  9. したがって、子球の文明レベルと技術水準は西暦3294年(計画発案が西暦2294年で、1000年先がベストと判断)が望ましく、誤差を200年以内とする

  10. 子球が恒星間航行を可能にすると、歴史分岐器の制御機能が損なわれるため、天体位置は望む技術水準を満たすまで偽装する

  11. 偽装解除によって、天体位置の変動という異常現象が財団に収容されるように歴史分岐器を設定する

  12. 「ソレ」の儀式的な要求を完了し、母球のアノマリーはすべて子球に移転する

  13. 子球のアノマリーとの接触は、過去の母球と同様のものとなるよう設定する

  14. 物理的な移転が不可能な場合、「ソレ」が残した「道具」によって破壊し、子球で同様のアノマリーを製造する

  15. これらのアノマリー関連の事項は50年以内に完了しなければならない

  16. 子球が「ソレ」への反撃に参加するのを拒否しないよう、適した段階で母球との連帯を訴えかける

  17. 権力構造を改革し、行政権、司法権、および立法権も暫時は同一人物に属し、これを世界政府「大統領」とし、宗教上は「総祭司」と呼ぶ

  18. これらは名義上の区分であり、必ず同一人物が担当し、初代大統領兼総祭司には「O5-9」が就任する

  19. 計画の前半期が完了したのちに後半期を策定し、新たな大統領の選抜方法を確立したうえで辞任する

  20. 権力臨界症に罹患中に保身を目的として製造させた「意識復活装置」を計画に使用する

  21. 本来は「O5-9」のみを対象としていたが、必要に応じて「道具」を用いてこれを改造する

  22. 「意識復活装置」には以下の機能を追加する
    <1>すべての既知人物の意識を検索、召還、復活させる機能
    <2>意識が検索不能な場合、歴史的な情報入力によって意識を製造する機能
    <3>原材料を提供したうえで、意識をもとに肉体を製造する機能
    <4>製造した肉体の老衰を阻止する機能
    <5>意識を転送し、転送先で適合した肉体を製造する機能

  23. 子球が生成できたら、その内部に歴史分岐器と時間分岐器の効果が及ばない安全区域を設ける

  24. この安全区域は、所定の日時よりも前に子球の人類文明に発見されないよう、歴史分岐器で設定する

  25. 安全区域においては、母球の技術およびアノマリーを使用し、当該区域内における生活環境を確保する

  26. 「道具」を使用し、物理法則を無視して情報および物質を瞬時に転送することができる「行政解禁令」を作製する

  27. 行政解禁令の使用回数は1回のみに制限し、発行は限定的に収め、世界政府の関係者のみが使用できるようにする

  28. 「ソレ」と内通する者が世界政府内部に潜入する可能性を踏まえて、使用者の生命は行政解禁令と紐づけされることが望ましい

  29. ここまでに列挙した作業がすべて完了し次第、指導者議会が成立する

  30. 指導者議会の初期においては、同議会の議員に評価された歴史上の優秀な指導者を指定する

  31. 技術水準の落差を考え、この指導者は20世紀以降の人物に限定する

  32. 指定された指導者は、意識復活装置によって復活される

  33. 子球文明が相応の技術水準に達した際、議員らがすぐに関連事務に取り掛かれるよう、指導者議会は安全区域内に設置される

  34. 議会の成立後、立法権、一部の司法権、行政権は指導者議会に移譲される

  35. 同時に、母球には議会事務局を設置する

  36. 議会事務局では指導者議会関連事務の管理、および監察を実施する

  37. 指導者議会と母球間の連絡および人員の移転はすべて行政解禁令を通じて行う

  38. 指導者議会の施設展開が完了次第、議会が実質権力を持たない状態であっても、準備期間を設ける観点から、復活者議員の投入を可能とする

  39. 後半期の計画内容は、前半期の実行状況および人類文明の発展状況によって変動する

めっちゃ詳細です。なお箇条書き番号は私が読みやすいように増やしただけなので、モノホンはもっと"ちゃんとしてる"ことにご留意ください。

しかし、ベアトリスね……。SCP財団の報告書にはいくらかの「ベアトリス」が登場しますが、さて、それと関連があるのかどうか。

それでも、人類の反撃はそうそう上手くいかないようで。北米、中欧に続き、西欧と東アジアのすべての大学が自然科学関連研究を中止する事態に。これは「同盟休研」という用語で表現されています。

意識復活装置および2つの分岐器開発・展開はすでに完了しているものの、残り1割の物理的移転負荷のアノマリーがリセットされるまでは、予定より5年近い遅延が発生。"人類にはもう20年しか残されていない"と、「伍玖」は嘆きます。

皮肉な現象として、研究者たちは希望を失って天命教に帰依しつつあり、一方で天命教のなかにいるアマチュア研究者たちが自分たちの生活改善に研究活動を継続しているとか。なんというあべこべ。

ここで、「ソレ」を崇める天命教に対し、元のヒト教としての衆生教があるという対置構造が明らかになります。「人類教」とも呼ばれるものの、ここまでの歴史で"殉道者"が出た様子。天命教への帰依が絶対条件であったことからも、異端狩りは続けられているのでしょう。

実際、「伍玖」もこう続けます。「私たちの未来のために、貴方はこれから彼らを迫害することになるでしょう。彼らを野放しにすると、最悪の結果を招きかねませんから」と。人類は今なお「ソレ」と戦える態勢にないため、心情的には味方したくとも、この不穏分子を残しておけないようです。

そんななか、民間の状況は"暗黒時代に逆戻り"と表現。虚偽の信仰に洗脳され、人類の精神は塵芥。生殖的隔離がされていないくらいで、人類種族は崩壊し、「私たち元信者は、もはや彼らといかなる類似性も持ちません」とまで言わしめます。

2323年10月28日。「ベアトリス」計画の共有から39年が経っていました。

そこから直ちにファイルは「ベアトリス」計画実施要綱(後半期)を示します。計画発案は「O5-9」で変わりませんが、計画総参謀欄に変化が。計画総参謀(母球)は「伍玖」。加えて、計画総参謀(子球)として自分の名前が記名されているのです。子球西暦2016年4月17日に追加とのことでした。

子球は母球の複製人たちの試みどおり、歴史を繰り返し、そこには母球同様に自分も生まれた……。後半期の概要を見ていくほかありますまい。

【「ベアトリス」計画実施要綱(後半期)の概要】

  1. 2344年5月7日、60年期限の満了日をもってO5-9は大統領を辞任し、指導者議会に参加する

  2. 以後に適用される世界政府大統領改選の仕組みは、以下のとおりである
    <1>世界政府大統領(兼総祭司)の任期は12年で、連続での就任は認められない
    <2>着任の10年後に、次期大統領の指名権を獲得する
    <3>次期大統領に指名できるのは、任意の分野で学術的に大きく貢献した者に限られる
    <4>自然科学の貢献者が次期大統領に指名された場合、特別に次期候補者名録より哲学・社会科学の分野で大きく貢献した者を副大統領として指名する
    <5>前記については、政治学分野における実績がある者を優先する
    <6>当期大統領に指名された次期大統領候補者は、指導者議会の投票を経て大統領に任命される
    <7>選挙に先立ち、指導者議会は次期大統領候補者の資格を査定しなければならない
    <8>指導者議会の基準に満たす候補者が現れない場合、二級指名権を持つ世界政府秘書長の伍玖氏に再度の指名が行われる
    <9>伍玖秘書長による指名も指導者議会の基準に満たなかった場合、世界政府最高参謀部のO5評議会員12名から1人選抜し、大統領として任命する
    <10>指導者議会の査定基準は、状況に応じて改選ごとに変動する
    <11>大統領として任命されたO5を含む世界政府大統領が自然死を迎えた際には、すべて意識復活装置によって復活させ、指導者議会へ転送して指導者議会議員として迎える
    <12>最高参謀部のO5が大統領として任命された場合は、母球における生命継続手段の一切を放棄し、自然死を迎えなければならない
    <13>指導者議会に参加する議員は、すべて意識復活装置によってその健康維持を保証する
    <14>世界連邦公民で「ソレ」による統治を公然に支持する者は、世界政府機関・国際機関(四星共栄組織・天命教傘下組織を除く)への参加資格並びに被指名権を永遠に剥奪する
    <15>指導者議会で同様の立場を取る者は、復活者議員・O5・元世界政府大統領の別を問わず、その議員資格が剥奪され、身柄を拘束のうえで母球へ引き渡し、軟禁処分となる
    <16>上記内容は主観的基準に拠るため、判定が困難であり、現実性が乏しいことに注意せねばならない
    <17>よって、あくまで同内容は世界政府忠誠度評価を通過した元信者職員および政府関係者のための内部判定基準であり、世界政府公開通告では発表されない

  3. 60年期限の満了日をもって、SCP財団を解散し、「SCPCN財団」の呼称を廃止する

  4. 復活させた議員たちが子球創設の目的を察し始め、意見の相違によって対立を開始していることから、子球との協力反対の「保守派」、子球との協力賛成の「急進派」、その他の中立者を「中立派」に併合し、議会内部での分裂を抑制する

  5. 他方、議員たちには「『ソレ』には反撃しなければならない」という共通認識が存在していることを、信用できる報告によって確認済みである

  6. O5-9は辞任後、速やかに指導者議会へ参加し、急進派の指導者として急進派中央委員会を成立する

  7. O5-13について、「ソレ」によって復活させられた経緯、ひいては最近の行動から、「ベアトリス」計画内容の告知の一切を禁ずる

  8. ただし、忠誠度評価や諜報員の報告から、「ソレ」への徹底抗戦の姿勢は不変と判断できるため、大統領就任および指導者議会への参加を認め、(子球との協力に消極的な)保守派として取り扱う

  9. 子球の位置座標については、これを断固として漏洩しない

  10. 指定された議員でない者が子球および母球間の移動のために行政解禁令を使用した場合、相応の記憶処理を実施する

  11. 指導者議会においては、「『ソレ』への徹底抗戦」という立場を断固として維持せよ

後半期の内容もホッカホカでございますよ。ただ、ここまでにその指導者議会を見てきたわけですが、「実力者が目配せをしたら、賛成票1割で非当選だった議員が、ほぼ全会一致の賛成で"当選に再集計される"」などのどう見ても腐敗した民主主義(の形をとったヘゲモニー政党制や一党制的末路)の状況を呈していましたので、不穏にだなあ……と思っていたら、次がもうえらいこっちゃ。

■1000年後の指導者議会

「ベアトリス」計画の後半期文書は2340年10月28日の日付でしたが、次の文書は一気に時間が飛びます。「指導者議会・保守派規程 本文」と題されたそれは、なんと3411年7月12日とのこと。「O5-13主宰改訂版(機密指定)抜粋」と銘打たれていますが、情報ログとして、

「保守派メンバーにのみアクセス可能です。この文書を閲覧した急進派メンバーは特定・処分されます」
「侵入完了、特定の急進派メンバーに閲覧可能」

http://scp-jp.wikidot.com/scp-cn-590/

という2行が表示されています。上位世界の私たちである以上に、この20万字弱に及ぶ報告書の"補遺"は、急進派の「O5-9」を"先生"として崇める自分の視点というのが大きいですね。

ええ、私も忘れていましたが、これ、「SCP財団が保管する『SCP-CN-590』に関する報告書」ですから……。

さて、保守派規程における「最高目標」は、「『ソレ』による、人類の尊厳を踏みにじり、精神の自由を剥奪する統治を転覆させること」としっかり望ましい内容から始まっています。

しかしながら、子球の人類の力を借りないのが保守派の前提。したがって、そこで示される基本路線とは、「元信者の人口数増加を実施し、文明発展と信者数の比率が一定に達した段階で、『ソレ』と交渉。その弱点である信仰に訴えかけ、人類の精神的自由を勝ち取る」というもの。

柔弱(どんだけ)~~~~!

なお交渉は複数回の失敗の場合も「再度交渉するよ」「歴史分岐器や時間分岐器を使用し、『ソレ』が求めてやまない極罪たる『搾取』の文明を人工的に創造して再度交渉するよ」「全部失敗した場合に限って暴力革命を試みるよ。この段階で初めて急進派と協力関係を結ぶよ」というもの。

急進派と結ぶ場合にいたっても、あくまでも保守派の主導権を認めさせ、その協力が得られない場合は「ソレ」と四星共栄に機密情報を漏洩し、母球の安全を保証するとの内容。

めちゃめちゃ弱気に見えますが、ただ「現実的視座からの人類保全」を目指している理知的な部分も感じますよね。何しろ、「アステカ王国がスペインのコンキスタドールに勝てましたか?」「いや、大清帝国は義和団の乱にまで後乗りした結果、いったいどうなりましたか?」という、"力の論理での圧倒的実力差を考えなかった末の絶望"を考えれば、十分に首肯できる部分はあるでしょう。

しかし、天命教に屈した人類の精神は隷属を超えて崩壊し、もはや元の姿を取り戻すかどうかもわからない。まさしく「歴史」を追体験しているかのようです。というか、「搾取」の文明、きみたちが作った……作るんちゃうかいな?

そのうえで……。

● 子球との協力は断固として禁止
● 機が熟するまでは『ソレ』と四星共栄の信頼を得るため、元信者の迫害も許容
● 母球の政局安定を優先的に考慮
● 保守派の最も実践的かつ最終的な反抗手法である『李然』の闘争経験を参考にするが、盲信的態度はきつく戒める
● 李然的な暴力革命はあくまで最終手段である

このような文言が並び、保守派の人員構成が「創立メンバー代表」「信頼できる加入者代表」「部分的に信頼できる加入者代表」「現状信頼できない加入者代表」の4分類で並べられています。私も知っている有名な歴史的指導者の名前がずらりですよ。一部を見てみましょう。

創立面々:O5-13、O5-5、O5-12、フランクリン・デラノ・ルーズベルト、ムスタファ・ケマル・アタテュルク
信頼高次:ウラジーミル・イリイチ・ウリヤノフ、モーハンダース・カラムチャンド・ガーンティー
部分信頼:O5-2、O5-8、カール・リープクネヒト
信頼不可:O5-1、O5-3、O5-4、O5-6、O5-10、O5-11

ウラジーミル・イリイチ・ウリヤノフはレーニンの本名、モーハンダース・カラムチャンド・ガーンティーはマハトマ・ガンディーの本名ですね。前者のレーニンは筆名で、後者のマハトマは"偉大なる魂"という尊称です。

また、先の議会において議論を行った、オリジナルの政治指導者(この世界からすれば20世紀以降の指導者の要件を満たす、私たちの歴史から見て未来の人々)も多数名前が並び、鎌井綾雄、張致虔、朴秀珍(パク・スジン/박수진)、バベンドラ・バルーアーと、世界的な人種や文化圏を感じさせる並びとなっています。

保守派規程の直後には、今度は「指導者議会・急進派規程 本文」が掲載されていました。ただし、こちらは「3484年1月1日第十八回改訂版(機密指定)」と、先の保守派規程から73年弱の時が流れています。悠久よなあ。

そして、この規程もまた「最高目標」に「『ソレ』による、人類の尊厳を踏みにじり、精神の自由を剥奪する統治を転覆させること」と書かれています。ただ、「急進派を急進派たらしめる不動の基本路線」とする項目には、このような一文が書かれていました。

「特別な事情がない限り、O5-9の急進派中央委員会主席の身分並びに急進派に対する指導的地位は確保されなければならない。不可抗力により確保できない場合、急進派中央委員会副主席ウラジーミル・イリイチ・ウリヤノフ(レーニン)が代理を務める」

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レーニン、急進派じゃないか……たまげたなあ。しかし、つくづく「中央委員会」というのが"気が利いてる"と思いませんか。ねえ? オリジナルのレーニンは、ソ連における人民会議の初代議長でした。最高権力者ですね。

では、"中央委員会"はどこから飛んできたのか?

現在の中国共産党の最高指導機関は、「中国共産党中央委員会」です。よく党中央とも呼称されますね。そもそも「主席」の名称は、私たちの世界においては大いに中国共産党を連想せざるを得ません。ソ連は書記長第一書記(他の役職もあり)であり、北朝鮮は総書記(他の役職もあり)です。時期によって名称や権限はドンドン変わりましたが。

2023年6月現在、1982年憲法と呼ばれる中華人民共和国憲法では、「中華人民共和国主席(国家主席)」を儀礼職として再設置しています。ただし、2018年には法改正を行い、2期10年の制限規定が撤廃されました。現在の国家主席(あえて奉職されている方の人名には触れますまい)は、中国共産党中央軍事委員会主席中国共産党中央委員会総書記を兼ねています。中華人民共和国の歴史における、最大権力の集中が起きている状態であり、反体制派はこれを憂いているわけです。

しかしながら、歴史の流れとは面白いもの。かつてソクラテスはアテネの民会を否定し、民主主義はその限界から放棄されるべきと説きました。ただ、現代においては欧米式の民主主義が多くの国家で採用されています。少なくとも、それで安定しているからです。独裁的なその体制が、本当に善悪によって明示できるものなのか。

と、「絶対に結論が出ず、議論も尽きない話題」はやめましょう。ついぞ、複製人の「レーニン」の役職から、思考がバッサバッサと飛び立ってしまいました。脚を引っ張って、地面に戻さないと。

急進派はその存立理由を当然に「子球に協力を要請し、『大いなる人類連合』を達成する」ことで、「ソレ」の支配からの脱却を目指しています。また、長期的な取り組みとして、議会における派閥構造の安定化から50年(議会発足から539年後)、「急進派の主張は自ら滅亡を招く」などの理由で、見かけ上は保守派へ転向することが戦略として示されています。これもすべて保守はの中央委員会主席の信頼を得るためとのこと。

なお、ここでも李然が成したという「栄光ある行動(オペレーション・グロリアス)」によって、「ソレ」が修行を一時中止した過去について触れています。なんだその情報災害を起こす王冠を思い出させるオペレーション。

して、こちらも名簿が乗っています。「急進派中央委員会主席」「保守派潜入メンバー代表」「急進派残留メンバー代表」「実際に保守派へ転向するメンバー」「議会外急進派支持者」という並びです。

主席:O5-9
潜入:O5-1、O5-2、O5-3、O5-4、O5-6、O5-8、O5-10、O5-11、ウラジーミル・イリイチ・ウリヤノフ、カール・リープクネヒト、モーハンダース・カラムチャンド・ガーンティー
残留:李然、O5-9、ヨシップ・ブロズ・チトー、エイブラハム・リンカーン、フィデル・カストロ

議会外支持者の名前は伏せられているほか、残留メンバーの李然は「元大統領」のほかに「栄誉議員」というほかにない2つの称号がつき、枠で強調されています。この枠は注記によれば、「該当人物の死去を意味する」とのこと。しかも、この枠は議会外支持者の「信者」とされる者にもついているのです。

ところで、リンカーンおじさん、あなた20世紀以降の人じゃないよね……?

この件については、議会運営が軌道に乗ったので、19世紀以前の人物も復活対象になったとかでしょうか。

■空谷幽蘭

かくてファイル5も終わり、2つ目のオプションである空谷幽蘭へ。大統領を務める張致虔からのメッセージということで、「敬虔なる元信者――商工業者、学者、神職者、公職者、軍人、母球分議会議員各位」へ向けて発信されています。そして、張致虔は宣言します。

天命教教徒を偽りの信仰から救う計画は、すべて中止される。奇跡でも起こらなければ、彼らはもはや助けられない。

http://scp-jp.wikidot.com/scp-cn-590/

なぜなら、修行をしているはずの「ソレ」が、どうやら時限的な仕掛けによって何かを成したのです。かつて人類に「道具」をもたらしたように、信仰力に似た能力をすべての天命教教徒に授与しました。張致虔たちはそれを「有効的祈祷」と呼んでいるようです。

有効的祈祷の効果は、「ソレ」に対して何かしらを手に入れたい、何かしらの目的を達成したいと祈ると、即座にその物が手に入ったり目的が達成されたりするというもの。

ド、ドラえもん……!?

ただし、あくまでその願望は適度な範囲に限られ、元信者らに関する祈りも有効とはならないようです。

ですが、天命教の教徒たちはこれに感激し……次に怒りました。「有効的祈祷」には制限がある。なんでも叶うわけではない。自分たちはこんなに信仰を持っているのに。なぜだ。

そんな欲望が、「ご神恩代理人様は得るはずもなきものを授ける至善者である」を放棄させ、"人類無限の欲望"をむき出しにさせたのです。

天命教の教徒たちは狂乱の暴動を起こし、天命教寺院、教会、加えて四星共栄の拠点を包囲攻撃しました。加えて、「元信者を除くほとんどの人間が理知の放棄を選択したことを示す書物」である『幸福論』が、天命教の保身の策として出版されました。この書物には聖職者が持つ以上の有効的祈祷の効果が加えられ、ミーム効果も付与されているとのこと。

人類はその欲望によって人間的な理知を放棄し、したがって、張致虔は「天命教教徒を虚偽の信仰から救う機会はもう二度と来ないのです。勢い良く、幕は切り落とされ、境界線上に揺らいでいた人類は、真の堕落へと誘われます」と記述。「ソレ」が信徒を制御するために用意しておいた"予約投稿"が裏目に出た結果、堕落を余儀なくされたというのです。

「人類が前進するのに頼りにする大敵にして親友――人類の本性の一つである欲望は、そう遠くないうちに――数日以内にか、数ヶ月以内にか――完全に満たされることによって、消滅することになります」

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そう、彼らは満たされてしまう。天命教の聖職者たちは保身のために人間の歴史の原動力を失わせ、偽りの救済によって、人類種の滅亡への引き金を引いてしまった。

「人類は、意義の追求すら諦め、先験的な物を探索する激情の炎は、消えてしまったのです」

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形而上学さえも放棄された事実を、張致虔はこのように表現します。人類の大多数は自ら理知を放棄しました。それはもはや、人類と呼べるものではないのでしょう……。

「我思う故に我あり」は、崩壊したのですから。

かくて、天命教の影響から逃れ続けてきた元信者たちだけが、人類の希望となりました。「すべてを挽回しなければなりません」という固い決意が語られます。この文書は、2956年4月2日に発信されたことが、末尾に記されます。

続けて、衆生教のものと思われる文書へ。彼らは今まさに四星共栄および理知を放棄した天命教に攻撃され、その生命が燃え尽きんとしているようです。ゆえに、衆生教の代表的な存在にあるらしい書き手は、このような宛先をもって始めます。

「無限の民、神の民、第一原因の民、万物の民、不動にして動かされざる自然の民、未だ現世の迷霧に惑わされし梵我、知恵を愛す者、宇宙統一法則の追及者、超越の崇拝者、芸術的美の探求者、美しき未来に憧れる者、完全なる政治的理想の追随者――神の存在を信じるか信じないかに関係なく、敬畏と愛と信仰を胸に意義を追い求める全ての人類知恵ある生命へ」

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「人類」には取り消し線が引かれ、「知恵ある生命」と書き直されていました。今や人類のみならず、あらゆる知性体へ向けた遺言を発信しようとしているのです。

衆生教は、宗教ではない。信仰体系に対する体系、信仰規範に対する規範、信念、およびその狭義である宗教の思想理論体系にして、信仰の規準。信仰の扱い方そのものであり、信仰の扱い方自体に対する信仰である、と。

かくて、宗教とは何かという壮大なテーマが、まさしく滅びの瞬間に書かれていきます。しかも、襲来してきているのは「宗教の形をした、宗教ではなくなった何か」という皮肉な情勢。

「宗教は、生活における根本的な問題に対して闘争を起こす行動の体系である」
「宗教は、一つの完全な社会的体系を内包している」

さらに論理は深まり、「自然科学や社会科学の追求もまた、"信仰"といえる」と。

疎外(エントフレムドゥング)」という言葉が出てきます。おお、マルクスじゃないか!

やはりこの世界は、先の復活している指導者の面々を見てもわかるとおり、「社会主義とは何なのだ。共産主義とは何なのだ。宗教とは何なのだ。信仰とは何なのだ」を問いかける構造をしている。そう感じずにいられません。

むしろ、この文書を書いているのは、まさに「マルクス」なのでは?

彼は「ソレ」が襲来する前のあり方の多くを"信仰"として定義しました。もちろん、この文書のなかでのことです。「精神的日和見主義者」なる単語が出てくるのも、実にマルクスらしいではありませんか。しかも、彼は「指導者」ではなく「思想家」だから、そういう出演をしているかもしれない……。

そのうえで、「ソレ」は宗教や信仰の意味について、本質的に理解していない。彼らの神学は穴だらけであることが指摘されます。

なお、天命教の「衛道士」には"ウィンディケーター"というフリガナが振られています。Vindicator、正当性を主張する者。ゲームの『マインクラフト』などでは、斧を装備した村人として登場していますね。

「ソレ」がもたらし、かつての天命教であるプロト-天命教(文書内でそう規定される)が進んできたものは、例として挙げられた人類の思想的到達のひとつである共産主義には及ぶべくもないと話が続きます。共産主義は全人類の利益を考慮し、全人類の解放のための闘争を厭わず、個人の私利私欲による救済には陥らない。一部の共産主義者がプロト-天命教に飲み込まれず、元信者になったゆえんといえる。

「ソレ」は神が「我を思うな」と語ったにもかかわらず、神降ろしをしてまで再度会いたがっている。それは究極の私利私欲であり、「信仰の対象ではなく、都合のいい使用人として見ている」と指弾します。このあたりはまさに信仰のなんたるやであり、「困った時の神頼み」という現実の命題にも調和するものがあるとともに、思想とその体系の意味を解釈する面白みを感じますね。ここまでの補遺の展開があってこそなので、ぜひオリジナルで味わっていただきたいところ。

最大の問題点は、「哲学上の神と宗教上の神を混同していることだ。両者は共通点があるものの、この命題ではハッキリとした違いがある」というのは興味深いですね。「ソレ」が哲学も持たない存在だからこそ、神に対するクレクレ君になってしまわざるを得なかった。なまじその神が有能かつ慈悲深かったがゆえに。

いわば、「ソレ(彼)」らはただ「敬虔」という名の台本に踊らされて「欲望」を演じ、最初の信仰を以って信仰を信仰ならざる物にしているにすぎない。

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続く一文は、太字の強調によってもたらされます。

なにより、「ソレ」は未来永劫、神になることができない。それどころか、我々の反撃が成功する可能性は必ず存在する。

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さらに、「自己原因」、"カウサ・スイ(Causa Sui)"とフリガナが打たれた語が出てきました。これはスピノザの汎神論、ひいては著作『エチカ』で触れられる概念で、こちらの和訳も同等の「自己原因」が当てはめられています。万物には原因がある。しかも、それ以上の探求が不可能な、究極的な原因が。それが自己原因である。

神は必然的に存在する。なぜか?

「神は神自身の存在の原因である」

スピノザが語ったことはこれであり、ひいてはこの語句が引用されることで、「『ソレ』は全能ではなく、人類は『ソレ』を超克しうる」と主張されるわけです。

今や人類は無知を乗り越え、身の程知らずな「ソレ」を追い抜き、「だが、さも当然のように神を人の思考に、或いは知的生命体の認識構造に囚えるのは、馬鹿でもなければ、身の程知らずもいいところだ」と喝破。全能たる神は「超論理(パタロジック)」であると説きます。同時に、それもまた人類の語彙が生み出した、神の本質に近似する表現に留まると。"超論理の神の無限は、論理による文章では表現し得ない"、と認めているのです。

神は論理の「外側」にいて、神は論理の「内側」にいる。おやおやおや、SCP好きには慣れ親しんだ語句ですこと……。

2世紀のキリスト教神学者であるテルトゥリアヌスの言葉として、「不条理なるが故に我信ず」という言葉が引用されます。ただ、この世界の人々は激しい闘争の末に神秘主義を育て、そこから「不条理と不可解の原因」を明らかにした。人類の認識構造を凌駕する、窺い知れぬ無限性と超越性だというのです。「可解にして不可解、そして可解でありながら不可解」という本来は矛盾する論理こそ、超論理の深奥。

ついぞ、「不可説不可説転」まで記載された、"空港で売っていたアノマリー"を連想してしまいました。いやあ、しかし、不可説不可説転もまた、仏典たる華厳経に記載された数詞でしたね。

かくて、この文書はクライマックスへ。なぜ「神は至善にして至悪、全知にして無知、全能にして無能」という、理解もできない神なるものを信仰し続けるのか?

その説明として、衆生教が主張するという信仰に関する原則に言及されます。それはたった二言。

信者は自証のみを必要とする。
愛し方によって、神は姿形を変える。

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さらに、このように言及されます。

そう。例え私が死んでも、例え私の信仰が生きているうちに「ソレ」の卑劣な信仰力によって(私自身を含めて)誰にも認識できないほどにこの世から抹消されても、それで天命教に帰依してしまっても、「かつて信じていた」という記憶が削除されても、例え私が自身の意志で元信者を裏切っても、例え堕落を選び信仰を自ら放棄しても、「かつて信じていた」という事実自体は消えない。時空間の外側にある、その記録は決して消えることはない。神が見守った全ては決して消えることはない。

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思えば、復活のシステムは「記憶」や「記録」からでも再生可能でした。この世界におけるそれらが打ち砕かれたとしても、すべては元通りになるというのでしょうか?

人類は所詮、宇宙に遍く存在する知的生命体の一種にすぎない。信仰を持つことも、これといって特別なことではない」という力強い宣言。「ソレ」は決して特別ではないと言い切ります。「ヒト教」や「人類教」は人類の特権に基づいた高慢であるがゆえに、「衆生教」という改名を果たしたのだと。

最後に、この文書を書いたのが、先の急進派規程において死亡枠がついていた、議会外の協力者たる「信者」であることが明らかになります。

■自分の帰還

通信記録へ。この報告書を読んでいる自分、すなわち子球の自分が、「O5-9」に感謝のメールを送ります。自分は「O5-9」の理想実現のため、何より「計画」実行のため、人類共同体の解放のために戦うことを希望すると。

2つ目。子球には母球と相違点あり。最大の違いは天命教であり、子球において天命教に対応する宗教は、「道教」であると。おや、「ソレ」が乗ってきた円盤は、まさしく道家思想を体現する陰陽マークだったはずだが……?

ともあれ、天命教と道教はかなりの差異があり、歴史分岐器が許容する偏差値を遥かに逸脱しているということが、「O5-9」から語られます。天命教と道教が相似するのは、せいぜい神話体系のみであると。加えて、天命教に比べ、道教は"奥が深すぎる"と。

続けて、「O5-9」はもはや「恐ろしい」という形容詞を用いて、SCP-CN-059のことを指摘します。それは母球において、もっと未来に現れるはずだった人間が、すでに子球に現れているというのです。ほかならぬSCP-CN-059に関連する人間が。

SCP-CN-059は「神元草」と呼ばれる植物であり、食することで使用者に他人の寿命を吸収する能力を与えるというもの。「保身の策としてあれを使っていたから、私はよく知っている」と語ります。もちろん超常の存在ですが、財団世界ではマイルドなのは間違いありません。

ですが、この「神元草」を基礎として、寿命の交易が行われ、それを基礎に文明までできてしまっている。子球の地球は、いわゆる私たちの基底世界に似た財団世界と思っていましたが、相当特殊な歴史をたどっているようです。

そして、いわゆる道教のシンボル、陰陽マークの「太極図」について、「O5-9」はどうしても思い出せない様子。それも、非常に重要な場で。彼は健忘症もひどくなっていると書き残し、いずれの対処を約束しました。「ソレ」がやってきたときの記憶が抜け落ちてるんスねェ……。

3つ目の通信記録。「O5-9」は全面的に自分を信頼し、子球での計画総参謀に任命してくれることになりました。そのうえで、「先礼(ポライトネス・ファースト)」計画綱要なるものを示します。

【「先礼(ポライトネス・ファースト)」計画綱要】

※以下に言及するO5-9はすべて子球のO5-9を指す

  1. 歴史分岐器は故障しているものの、大きな変動を起こさないはず

  2. 母球の歴史を参照し、O5-9が権力臨界症に罹患して起こる惨劇を阻止せよ

  3. O5-9の権力弱体化、権力臨界症の影響弱体化、SCP-CN-590調査の阻止手段例は以下のとおり
    <1>監査体制が不十分な倫理委員会の職能拡大
    <2>O5-9の業務量削減
    <3>O5-9の側近の業務内容または地位への干渉
    <4>O5-9に気づかれない範囲で、彼の所有する権限の降格や削除の実施
    <5>O5-9ならびに伍玖がSCP-CN-590報告書を閲覧するのを阻止
    <6>それに付随し、O5-9ならびに伍玖に対する編集権限の降格または削除
    <7>O5-9に向精神薬を投与し、権力臨界症の影響を低減
    <8>CN支部職員に対し、O5-9への不満を喚起させる
    <9>CN支部職員がO5-9による非緊急命令に従う積極性を低下させる
    <10>O5-9に記憶処理を実施(困難)
    <11>O5-9の精神面を保護するアノマリーの効果を回避し、関連アノマリーを使用するなどして権力臨界症の除去または低減を実施(極めて困難)
    <12>伍玖によるSCP-CN-590関連業務の遂行を阻害

いずれも自分が臨機応変に対処し、上記のとおりにやる必要はないと付記されます。ともあれ、これで報告書序盤の「編集権限が否決され続けた謎」が解けましたね。

なお、この計画概要でもあるとおり、「四星共栄の由来は不明瞭」だが、母球の伍玖が手配した者たちなのである程度の信頼はできるだろうとのこと。それでも、正体不明なので用心するよう戒めています。

計画のほかの項目も下記へ。

  1. 十分な能力を有していると判断した際に、子球と母球は同一文明であることを子球の人類文明にほのめかすこと

  2. 自分がO5-9に十分な影響を与えていると判断した際に、かつての理想を取り戻すように誘導すること(おそらく長時間を要する)

  3. ほかのO5の政治的関与を監視するとともに、権力臨界症状態への進行を阻止すること

  4. O5-9による脅威が除去された暁には、財団の一致団結を促進し、母球から先進知識を導入して子球の発展を加速させ、同時に予想される収容違反と世界終焉シナリオを予防すること

  5. 機が熟したならば、O5-7の協力を要請すること

  6. 最終段階として、O5評議会に母球の存在を開示すること

最終目標はこう綴られます。「『ベアトリス』計画に子球を関与させ、『ソレ』による人類の尊厳を踏みにじり、精神の自由を剥奪する統治を転覆させよ」。保守派規程ならびに急進派規程に則った一文ですね。

■急転直下

「O5-13」のもとを「伍玖」が訪れ、彼はその権限に則って命令を告げます。

その……その命令により、貴方を通じて、「O5-1」「O5-2」「O5-3」「O5-4」「O5-6」「O5-7」「O5-8」(間を取って目を閉じる)O5――「O5-9」「O5-10」「O5-11」に自……自裁命令を言い渡す、復活は、不可です。(数秒の沈黙)辞任届を出します。礼儀は尽くしました。権力臨界点での生活がさぞ愉快なものになるでしょう。先生に何かがあれば(目を大きく開いて「O5-13」を見つめる)、貴方は後悔することになります。

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なんと、「O5-9」も含めての"自裁"命令! 

「ソレ」を通じて神に復活させてもらったという「O5-13」は、「自分の生き方を見直す機会があった」と勝ち誇ります。

そして、決定的な言葉が飛び出ることに。

私の計画、その名前がなんて言うか分かるか?「新生」と名付けたのだ。「新生」計画、私の新生がな。ふん、もともとは「新生」を書いたダンテの愛するベアトリーチェにちなんで、ベアトリス計画と名付けるつもりだったが、回りくどい表現はやめだ。回りくどいことは嫌いさ。O5を務めた時でも、人類を守った時でもな。

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ダンテ、ベアトリーチェ、ベアトリス計画……!

「ベアトリス」計画は、「O5-9」が立案したもののはず。「O5-13」もまた、同名の計画、「『新生』させるためのプラン」を有していたようです。

さらに、「伍玖」は顔を真っ青にして、こう返します。

(「O5-13」に背を向け、呆然と自分の両手を見つめ、凄惨に笑いながら呟く)終わった。全てが終わった。人類が、この瞬間で、終わった。(「O5-13」に顔を向け)貴方、全てを……子球の、徹底抗戦を……白状したでしょう?

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それは「伍玖」から「O5-13」へ向けての、哀れみにも似たものに見えますし、読み解けます。

次のメッセージは「O5-9」から自分にあてたもので、さらなる衝撃がやってきます。「O5-9」は死にたがっており、急進派のO5全員とO5-7は復活を拒否して死に溶け込むというのです。「O5-13」と保守派にいたO5を除いて。

思えば、この世界は母球の時点からO5評議会が長生きしていました。彼らだけは「死の終焉」ハブのような人生を送ってきた。ここまで「駆け引き」と「嘘」にまみれた記述があったものの、それでも「異様な精神の振幅」が見られた先には、「長生きするほど死が重く見える」という告白がありました。

数万字前の議会において、「O5-9」たち急進派は死刑を宣告されました。「O5-9」たちは、なんとそれを喜んで受け入れて、死ぬ気のようです。「O5-13」の策略がすべて上手くいったように見えた流れだったのに。本当に「ソレ」に内通していた「O5-13」と保守派の者たちを残して。

死刑を宣告された「O5-9」は、「死は、まるで一瞬にして私の旧友に、顔を合わせたこともない旧友に一変したのだ」と語ります。それは先の衆生教の「信者」による「信仰とは何か?」「宗教とは何か?」「とは何か?」という命題に続く、「とは何か?」「死の意義とは何か?」という命題の提示のようです。

私は私の人生について考えた。食べたことのない料理、行ったことのない場所、読んだことのない本、学んだことのない知識、君たちに教える必要のないことも、言葉を尽くしても語り尽くせないことについて考えた。君たちが知りたいかどうかに関係なく、私はそれを連れて行く。死――という明確にして曖昧な空虚なる地を探索するためにも。適度に秘密を残して、後に来る者に探索させたほうが、全てを明らかにするより遥かにマシだ――すべてが知り尽くされ、すべてが明らかになる日には、人類の活発な精神は思想の凋落期を越えて、そのまま死へと溶けこみ、人類の意義ある歴史は終わりを告げることになるのだからな。

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「O5-9」は自分、すなわち報告書を読む私を応援します。「さあ、行け」と。「先礼」計画を完遂し、子球と母球の連合を完成し、「ベアトリス」計画を完全にし、人類の最終的勝利を見届けよと。

そのうえで、「O5-9」は「伍玖」が死後に何かを、例えば後追いで殉死したり、その他の凶行に走ったりしては大変であるがゆえに、「生きて『計画』を完遂せよ」とのメッセージを託します。

「O5-9」は語ります。過去数百年をかけてわからなかったことが理解できたと。「信者」の話が真の意味でわかったと。彼はすべてを愛し、「O5-9」もまた世界を深く愛していると。「死があるこそ、世界への愛は、世界中に溢れる人々への愛は、我が愛する者への愛は、私自身への愛は、完全となるのだ」と。

ここで、「先礼」計画の失敗条件が明かされます。それは子球のO5-9が「O5-9」の死に乗じて、SCP-CN-590への調査計画を再開すること。このとき、代替計画としての「後兵(ルースレスネス・セカンド)」計画が実行されると語られます。

「堕落せし神の双子(クリフォト=タウミエル)」ミームを注入すると、保存されたO5の遺伝子情報により、ほぼすべてのアノマリーの保護を無視し、O5を抹殺できる。

子球のO5-9がSCP-CN-590の調査を再開すると、四星共栄が最後の総攻撃を開始し、その攻撃は財団ネットワークに対して数日に及ぶ。自分のクリアランスなら、そこに安全にアクセス可能。そして、実はこの報告書の最初の最初に「まさしくそういった画面」を見てきているのです。ああ!

歴史分岐器を操作し、子球のO5-9を抹殺せよ。しかる後に死因を偽造し、きみがO5-9の後任者となって、「ベアトリス」計画を続行せよ。

「君たちに、新生があらんことを」
「我は人の子なり。我信じ、我愛す。これまでは。我悟り、我超越せん。いつまでも」
「過去と未来を超越する現在に、我は空虚を抱き、死を抱き、破滅を抱こう。ただ、世界を、生命を、存在を抱擁するために」

そして、自分は報告書の長大な補遺を書き足します。ですが、O5-9はその企みを見抜き、伍玖に全面的な調査を命令。自分は「後兵」計画の実行を迫られるのです。

システムメッセージ:
「四星共栄」組織は攻撃を停止しました。

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特別収容プロトコルが破棄され、自分がO5となりました。

子球の座標は誰にも知らせず。

誰も彼もがついに目的を達せなかったようで、しかし、ついに達せられ。

「四星共栄」は「O5-13」の手駒であり、それは自分の活躍によって、とうとう滅ぼされました。もはや子球が干渉されることはありません。「ソレ」は子球を知るはずもなく。

ふーむ……消化不良かもなぁと感じ、ですが、それは私の理解の浅さと気づきました。大作です。案外にも、謎は多く残されました。最初は思いましたとも。「結末の向こう側に、もっと何かがあってほしかった」と。

いや、用意はありました。提供も成されました。SCPの報告書としては、これが正解なのです。自分は、O5になったのですから。しかも、目的は達せられた。

そう。この報告書は、「私」が閲覧することで完成する物語なのです。SCP-280-JPなどのように。ええ、これは味わい深いものです。考察が楽しい。他方で、きっと整理は思った以上に簡単でしょうね。

シンプルです、物語は。

「先礼後兵」

私は、自分は、「先に礼節をもって子球のO5-9とO5評議会に向かい、後に兵を用いてそれを略取した」のですから。この報告書そのものが救済の物語であり、権力臨界症そのものだったのかもしれません。

こうして、母球(マザー)から、子球(チャイルド)は自立しました――。そういう話です、自分にとっては。

というわけで、2023年6月26日(月)20:19、旅を終了します。体を休めながらでしたものでね。ただ、読み込みが浅く、もしかしたらギミックを拾い忘れているかも。また、ここで書いた以外の計画があることで、本当に筋のとおった流れになっているので、実際読んでいただくのが確実でしょう。

ええ。

お時間のあるときに、死に溶け込まぬように。

「ハハハハハッ!」

【CC BY-SA 3.0に基づく表示】

SCP-CN-590 - 既生仍生、將死未死?
https://scp-wiki-cn.wikidot.com/scp-cn-590
http://scp-jp.wikidot.com/scp-cn-590/(翻訳)

■最後の最後に書き足した「道」

既生仍生、將死未死?

「十分に生きたというのになお生きて、まさに死ぬのに未だに死なないのか?」

このSCPは道家思想、ひいては道教の、ひいては荘子の物語なのだと、私は感じました。皆さんは、どうあれ、私はそう感じたのです。

荘子の内篇のうち、斉物論篇から引きましょう。20万字を超える物語は、きっと、ここにひとつの帰着があるのです。

「私はどうして人間が生を喜ぶことを疑わないのかがわからない。私はどうして人間が死を憎み、心弱くさすらい、帰る場所を知らなくなるのかがわからない」

「どうして死者が死ぬ前にいたって、生を求めてあがいたことを後悔しないとわかるのだろうか」
(生と死を比べたとき、死が悪いものだと絶対的に断言できるとは限らないのに)

かくして、「O5-9」がいたった境地が見えてくるようではありませんか。理知を失った天命教の人々は、もはやそれを求めることはかなわないというのに。

まあ、ここにいる私はまだそこにいたってないので、安楽に生きたい気持ちが強いですがね。

O5になった私、自分は、さて、生死の境を越えられたのか、それとも権力臨界症へいたってしまうのか?

その問いかけは、道教のシンボルたる☯に託され、常にささやきが聴こえるのです。

既生仍生、將死未死?

ひとまずは、十分に生きるところから。

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