📗昨日の礼拝メッセージのテキスト版もここに掲載いたします⬇️

✴️礼拝メッセージ「主イエスの背を見つめながら」
新約聖書　マタイの福音書第16章21～26節　2023年9月3日

21　そのときからイエスは、ご自分がエルサレムに行って、長老たち、祭司長たち、律法学者たちから多くの苦しみを受け、殺され、三日目によみがえらなければならないことを、弟子たちに示し始められた。
22すると、ペテロはイエスをわきにお連れして、いさめ始めた。「主よ、とんでもないことです。そんなことがあなたに起こるはずがありません。」
23しかし、イエスは振り向いてペテロに言われた。「下がれ、サタン。あなたは、わたしをつまずかせるものだ。あなたは神のことを思わないで、人のことを思っている。」
24　それからイエスは弟子たちに言われた。「だれでもわたしについて来たいと思うなら、自分を捨て、自分の十字架を負って、わたしに従って来なさい。
25自分のいのちを救おうと思う者はそれを失い、わたしのためにいのちを失う者はそれを見出すのです。
26人は、たとえ全世界を手に入れても、自分のいのちを失ったら何の益があるでしょうか。そのいのちを買い戻すのに、人は何を差し出せばよいのでしょうか。

主の恵みと平安が皆さんの上に豊かにありますように。この日も皆さんとご一緒に主の日の礼拝にあずかれますことを心から感謝いたします。

　お客さんの車を意図的に破損させて修理費を水増し請求する、また保険金不正請求などで話題になりました某中古車販売の会社、と言えば皆さんすぐにお分かりになると思いますが、除草剤で、街路樹を枯らしていた、ということでも話題になりましたね。
　まぁ最近はその報道が少なくなりましたが、ブラックな社員教育をしていたようですね。色々あるようですが、ゴム手袋などをつけさせずに、ブラシなどを使わせずに素手でトイレ掃除をさせていた、という話もありました。
　実はこの素手でトイレ掃除というのは、その会社だけではなくて、他の会社や団体でも、ブラックなところでは、広くされていることなんだそうですね。
　えー！？素手でっていうのは衛生的にも問題が大有りだし、そんなことさせて何の意味があるんだろう？なんでわざわざそんなことをさせるんだろうか？と思うんですけれども、実はこれは初歩的な心理操作で、まぁ一種のマインドコントロールのテクニックなんだと言えるんだそうですね。
　というのは、人間の心理としては、屈辱的なことをさせられると、この「屈辱的」というのがポイントでして、確かにやれと言われてやったこととはいえ、そんなことをやってしまったという葛藤が人の心には生まれるんですね。その葛藤を、自分の中で解消しなくてはならなくなるわけです。そこで、人間の心はそういう時に、「それを命じた人が素晴らしい人だったから従ったんだ(あるいは、これは素晴らしい精神修養なんだ)」ということにして、心理的葛藤を解消するように働くんだそうです。
　そこで、妙なことするように命じた人に対して、「いやこれはきっと深い素晴らしいお考えがあるんだ」と思って、恨みや怒りではなくて逆に忠誠心が生まれて、命じた人にとっては支配し易くなる、というからくりなんだそうですね。
　まぁ日本では「滅私奉公」という言葉もある通りに、自分を捨てて、ある意味で無になって、働く、ということが美徳とされる、そういう文化がありますね。

　ところで、今日私たちに語られました主イエスのみことばは(マタイ第16章24節)、

「だれでもわたしについて来たいと思うなら、自分を捨て、自分の十字架を負って、わたしに従って来なさい。

　という、みことばなわけですね。
　このみことばは、大変有名なことばです。他の福音書にも同じ主イエスのみことばが記されていますが、このみことば、愛唱聖句にしています、という方、あるいは大好きだ、という方、いらっしゃいますでしょうか？
　いらっしゃるかも知れません。その場合はですね、きっとこのみことばを、きちんと福音的に、聞き取り、また理解していらっしゃるんだと思います。
　でも、私は、実は、このみことばのところに来るたびに、何か嫌な気持ちになっていくんですよね。どういう気持ちかというと、思考停止していくような感覚ですね。心が萎えて行くような感覚です。思考力が落ちて行く感じです。
　
　というのは、私はこれまで、礼拝でも聖会や修養会でも、あるいは聞いていた礼拝説教のテープでも、この箇所が語られる時には、だいたいこういうメッセージを聞いてきたんですね。―こういうの聞いたことがある方と無い方とがあると思うんですけれど―こういったものです。
　「私たちは自己に死に、キリストに生きるんです。」とか、「私たちは自我が砕かれなければなりません」とか、そういった形ですね。
　そして、よくパウロの書いたガラテヤ人への手紙第2章の19節20節の「私はキリストとともに十字架につけられました。もはや私が生きているのではなく、キリストが私のうちに生きておられるのです。」(文語訳では「もはやわれ生くるにあらず、キリストわが内にありて生くるなり」。かっこいいですね。)あたりが引用されてですね、「自分のこうしたい、ああしたいという考えを捨てて、自分の意見を捨てて、信仰とは、どこまで聞き従えるか、ということですよ。」とか、「自我が砕かれた者は教会に文句を言ったりなんかするでしょうか？」とか、そう語られているのを聞いてですね、まぁかつて素直で純朴だった私は、「そうなのか」と思ってですね、教会には「われはしもべなりき何事も神の意志なり問わず従う」という言葉もあって、ああ滅私奉公みたいなものなんだな、と思ってですね、自分は無にならなくちゃ、無にならなくちゃ、とやると、だんだん思考力が鈍くなって行くんですよね。このみことばを聞くたびに元気がなくなっていくんですよね。メンタルもなんだかダメージを受けて行く。（まるで痛みを感じさせないナイフで少しずつ心とか生きる力とかを削られて行くような感じですね。）

　何かおかしい。ここで、去年くらいに、教会のカルト化問題を考える、という変わった題名でメッセージをここでしたことがありますけれども、その時に出した、一つの表ですね、マインドコントロールに関するチェックリストですね。

　これは、ウイリアム・ウッド牧師の考えたものです。ウィリアム・ウッド牧師は、特にエホバの証人の問題に取り組んで来られた先生ですが、働きを進める中で、どうもプロテスタントの教会の中にも、一部、カルトとは言い切れないものの、ブラックではなくて、グレーな形で、カルト化することもあるのではないか、ということで、チェックリストを作られました。25項目あります。これは1つ2つあてはまったからと言って、即カルトということではありません。でも5つ、6つ、となっていくと、うっすらグレーが混ざり始めるかな、というところですね。

　1の、たとえ内容に同意できなくても、指導者の指示や意見に従うことは当然とされている。
　2の、指導者の許可を得てからでなくては、行動できない。
　5の、自分の思考力、判断力、決断力が低下しているように思う。
　6の、自分で考えることは「悪いこと」とされている。まさにこれですよね。自我が砕かれよ、って。

　つまりこの、イエス様のみことばが、マインドコントロールのチェックリストにひっかかるような形で語られているならば、それは何かボタンをかけ間違っているわけですね。なぜなら、礼拝説教・礼拝メッセージとは、福音の宣言だからです。福音(ふくいん)とはグッドニュース、良い知らせですね。皆さんに対する神からの良きしらせ。福音のことばというものは、聞くたびに、人を生き生きとさせ、もっと聞きたい、もっと聞きたいと思わせるものだからです。

　ただ、とは言え、「自我が砕かれよ」というメッセージを聞いて、生き生きする、元気になるケースはあると思うんです。その場合は、たばこでもお酒でもなんでもいいんですけれど、イエス様信じて、自己に死にキリストに生きる、ということを実践して、悪習慣をこれもこれもやめることができました！「自我に死ぬことができました」と、言う時ですね、その時、自我に死にました、という自我がその場合生きているんですね。
　ですからきよめ派、の中で、深く考える牧師先生はですね、そこをきちんととらえていらっしゃって、おっしゃるんですね。「自我を砕こうとすると、その砕こうとする自我が残る」こうおっしゃるんです。それは人間の性質なんですね。そして頑張って我慢して自我を殺していると、頑張って我慢していない人に対して人間というのは腹を立てるものなんです。「私はこんなに頑張って主に仕えているのに、あの人は、まるでだらしない」とかいうふうにですね、―口に出すか心の中で思うかは別にして―別の律法主義になってしまうんですね。そもそもイエス様時代のパリサイ人やサドカイ人たちって、頑張って自我が砕かれていた人ですからね。(イエス様に対して「食いしん坊の大酒のみめ」って言いました。)(福音ではなくて律法だけで人は生き生きすることはあるが、それは古い人・肉の思いが生きているということである。)

　そういうわけで、私たちは、福音として、このみことばを、聞きなおすことが大切なんです。
　このイエス様の「自分を捨て」ということばだけを取り出して滅私奉公的な考えを読み込んでしまうのではなくて、この前後の文脈もきちんととらえておく必要があります。

　このみことばに記されている一連のできごとの発端は、あの先週の、ペテロがイエス様に対して、「あなたこそ生ける神の御子キリストです・メシアです。」と素晴らしい信仰告白をした。それを大変イエス様がお喜びになった。そして「このことをあなたに知らせたのは人間ではなくて、天の父なる神なのだ」と、あなたの洞察力ではないんだよ、とおっしゃったわけですね。しかし、これは、ことばとしては100点満点の答えを、ペテロはした。いや、神にさせていただいた。しかし、その意味するところは、まるで分かっていなかったわけですね。
　というのは、イエス様から、ペテロが、長老祭司長律法学者たちから苦しめられて殺されて三日目によみがえらされるということを聞くとですね、イエス様を道のわきへ、手を引っ張ってお連れして、「ちょっとちょっとイエス様、そんなこと言っちゃいけません。」って言っていさめ始めた、ということですね。いさめる、って、目上だからということでそう訳されているんでしょうけれども、要するに叱った、っていうことなんですよね。これはちょっとイエス様ご乱心なさった、と、ペテロさんなりに思ってですね、親分の間違いを指摘して、暴走を止めなければならない、と思ったんでしょう。「さっき私が、あなたはイスラエルを救ってくださるメシアやって言ったばっかりやないですか。そんな死ぬなんて弱気なことゆうたら、みんなの士気にもかかわります。私らぁが、あなたを支えますき」と言ったわけですよね。

　これは当時のペテロにとっては無理もないことで、ユダヤ人は皆、メシア、救い主と言ったら、政治的に、ローマ帝国の支配から解放して、ユダヤ独立王国を打ち立ててくれるそういう政治的なメシア・救い主、というそういうふうに思い込んでいたわけですね。
　一番弟子のペテロも例外ではなくそう考えていたわけで、ユダヤ人一般の考え方の枠内でしか考えることはできないわけですね。新約聖書はまだ無いわけで、私たちのようにこの先起こることを読んで知っているわけではないのですから。私たちも当時のユダヤ人として生きていたら、そういう政治的なメシアだととらえていたと思いますよ。三日目の復活なんて聞いても、そのことは音声として耳には入ってはいるけど、聞いていなかったに等しいと思いますね。
　
　そこでペテロは、イエス様にこじゃんと叱られてしまうんです。「下がれ、サタン」って。ペテロはこのイエス様の激しさにびっくりしたと思います。頭真っ白になったと思います。「ええ！？ただ私は、イエス様のことを思うてそう言うたのに。」そう思ったと思います。
　ペテロは善意だったと思います。もうペテロはイエス様のこと大好き。だから大好きな先生が、そんな目に遭うなんて耐えられない。イエス様に対するペテロなりの人間的な愛があったと思います。けれど、そこで出たことばが、悪魔サタンのことばと同じだったんです。
　
　イエス様は、ここで、おそらく過去にあった一つのシーンが脳裏に浮かんでいらっしゃるんです。それはどのシーンでしょうか？皆さんは思い当たるでしょうか？

　それは、同じマタイの福音書なら、第４章の荒野の誘惑のところなんですね。イエス様が40日40夜の断食の後で、悪魔サタンがやってきてイエス様を3回誘惑しました。

　1つ目の誘惑はなんだったでしょうか？石をパンに変えてごらんなさい、というものですね。
　それで自分の空腹を満たしてごらんなさい、ということであったでしょうが、おそらくサタンにはこういう含みもあると思うんですね。
　「イエスよ、あなたのメシアとしての素晴らしい奇跡のわざで、石をパンに変えて、それで飢えているユダヤの民を、満腹させてやりなさい。そうすればあなたの人気はうなぎのぼりですよ。そして民を飢えさせない、優しい王として治め、ユダヤの民を長らく幸せにしてやったらどうですか？」ということですよね。

　2つ目の誘惑は、イエス様をエルサレム神殿の頂に立たせて、「さあ飛び降りてごらんなさい。聖書にもあるでしょ。天使たちが支えてくれるって書いてますよ。やっぱり民衆のハートをがっちりつかむには、そういうハデなパフォーマンスが一番ですよ。そうしたらあなたの人気はうなぎのぼり、町々村々を回るよりずっとコスパもタイパもいいじゃないですか。手っ取り早く王になれますよ」ということですね。

　3つ目の誘惑は、全世界の繁栄をイエス様に見せて、「じゃあちょっと一回だけ、そんなそんな何度もとは言いませんから、一回だけ私に頭下げるだけでいいんです。そうしたら、この全世界をあなたは手に入れることができます。さしあげますって。そうして、イエスよ、あなたの素晴らしい知恵で、良い政治を行なって、弱者を助け、長らく平和にお治めください。栄光のメシア、王様、万歳。」って。こう言うわけですよね。

　どうでしょうか？サタンは悪いこと言っていませんよね。「へへへ、バレやしねえよ、悪いことやっちまえよ」とは言っていませんよね。全部、いいこと言っているように思います。善意で協力さえしてくれようとしているかのようです。しかし、それは、実はこの第16章のペテロと同じく、栄光のメシアとして、地上の王様として、治めてください、ということであり、そしてここで究極的に大事なことは、十字架を回避させようとすること、です。
　ここで、イエス様が、殺され、3日目によみがらなければならない、これは受け身形で書かれていますので、よみがえらされなければならない、なんですが、ねばならない、というのは、英語でいうところのマスト、に当たることばで書かれていますが、単なるマストでもなくて、神の意志によって、ねばならない、という、そういうことばで書かれているんです。つまり、みんなが言うからしなければならない、とか、規則だからしなければならない、とかいうのではなくて、永遠の神のご計画によって、それはなされなければならないのだ。そう力強くイエス様はおっしゃったんですね。
　ですからペテロが道でわきへお連れしたのも象徴的に思えますね。神が永遠の昔から定めておられた人類の救いのご計画から、わきへ逸らそうとしたんです。苦難のメシアが十字架の死を通るということまっすぐな道から、脇へそらせて、十字架を回避させて、もっとカッコイイ、栄光のメシアになってほしい。そういう人間の思いが、イエス様に「あなたは神のことを思わないで、人のことを思っている」と言わしめたのでした。

　イエス様が「サタン」という激しいことばで叱責なさったのは、荒野のサタンと同じようなことを言ったペテロ本人に対してか、あるいはその背後で暗躍してペテロにそう言わしめたサタンに対してなのか、どっちなのか議論はありますけれども、いずれにせよ、サタンは、なんとしても十字架を回避させたいんです。人間を、人間自身の力で救おうとするという、罪―つまり神から「的外れ」―の支配のもとに、罪の奴隷として、絶対に置いておきたいのです。イエス様の十字架による「あがない」というものを、なんとしても阻止しようとするのです。
　こう考えますと、26節のイエス様のことばの意味が分かってきます。

26人は、たとえ全世界を手に入れても、自分のいのちを失ったら何の益があるでしょうか。そのいのちを買い戻すのに、人は何を差し出せばよいのでしょうか。

　先ほど私は、「あがない」という教会の専門用語を用いました。あがない、というのは、買い取る、という意味です。「いのちを買い戻す」。もともとあがないということばは古いことばで、奴隷を、代価を支払って買い取る、という意味なんですね。代金と言いませんで代価と言いました。お金に限らず何らかの代償ですね。イエス様が十字架の上で流してくださった尊い血潮という代価、犠牲、を払ってくださったので、私たちは罪の奴隷から解放されて、身も魂も、イエス様のものとされました。つまり、「人は何を差しだせばよいのでしょうか？」というイエス様のことばに対する答えは、人間には何も差しだせません。どんな善行でも、捧げものでも、我慢でも、修行でも、自分を救うことは到底できません。自我を砕こうとして、ある意味“成功”したとしても、砕かれた！という自我が残ります。どうしようもないです。主よ、お手上げです。と主に降参した時に、十字架へのまっすぐな道が開けます。そしてそこでこそ、主のみ声を聞くのです。「そのあなたの罪こそが、わたしの十字架によって、ゆるされたのだ！そしてあなたも、わたしと同じ、復活のいのち、新しいいのちを生きるのだ！」と。ここに、新しい、のびやかな、生き生きとした歩みが作られるのです。
　
　イエス様はここでペテロに「下がれ」とおっしゃいましたが、ここに「わたしの後ろに」ということばが入っているんです。マタイ第4章の荒野の誘惑でイエス様が「下がれサタン」とおっしゃった時には「わたしの後ろに」ということばが入っていません。
　つまりペテロよ、あなたはわたしの後ろにつきなさい。ペテロがイエス様の前に出て、でしゃばりすぎだと言うこともあるかもしれませんけれども、これは言ってみれば恵みのことばです。イエス様がペテロの、そして私たちの前に立っていて守っていてくださる。あなたはわたしの後ろにいなさい。そしてわたしについて来なさい。ちなみに、イエス様が、「自分の十字架を負って、わたしに従ってきなさい。」とおっしゃたこの「したがってきなさい」は「後(うしろ)からついて来なさい」とも訳せるんですね。ですから私たちの歩みは、前を歩いてくださるイエス様に守られながら、イエス様のうしろからイエス様のあとについていく歩みである。
　
　こういう歩みのことを、ある著名な説教者の方が、「主イエスの背を見つめて歩く歩み」だと言いました。こういうふうに言っています。

　信仰に生きることは、主イエスの背を見て歩むことだと申しました。この背中は鞭打たれた背、十字架を負うた背、その重みであざができた背であります。この背を見つめつつそのあとを追う人間は、この背の傷の持つ意味を無視することはできません。自分のいのちのために傷ついたこの方の恵みの歩みを無にせず、そのあとをついていくことだけが、私どもに与えられた生活なのであります。
　イエスはその背を私どもに向け、この背を見つめながら、この背の示すわたしの愛に生かされて生きるならば、あなたがたが自分で自分を捨てることもなく、また、自分の十字架をもはや悲壮な思いでになうこともなく、それは軽やかになるであろう、そこにしかあなたの生き場所はないのだから、そこに生きてごらんと言われるのであります。

　これは本当に味わい深いことばです。ですから、よく言われることかもしれませんが、たとえばあのマタイの第11章の、「すべて疲れた者、重荷を負っている者はわたしのもとにきなさい。休ませてあげよう。わたしから学びなさい。そうすれば魂に安らぎが来ます。わたしのくびきは負いやすく、わたしの荷は軽い」というイエス様のあのみことばなら喜んで聞きやすいけれども、このマタイ第16章のみことばは聞き従いにくいみことばである、などというのは誤解であることが分かります。両方ともただ一つの、軽やかな歩みを指し示して私たちを招いておられるんです。私たちは確かにそれぞれ自分の十字架を負います。それは、愛の重荷であるかもしれません。みんなそれぞれ大変なことを担っている。
　介護をしなくてはならない。子育てをしなくてはならない。職場での人間関係がある、などなど。あるいは社会の中で任せられているこの仕事をしなくてはならない。それもまた、その仕事を通して、その仕事の向こう側にいる人々を愛する重荷ですね。それはキリスト者になっていようがなかろうが、必ずある重荷です。しかし、主イエスの背を見つめながら歩む人の重荷の負い方は、やはり違うと思うんです。主イエス・キリストの十字架で絶対的にゆるされていて、生き生きとした新しいいのちをいただいる者は、同じ重荷でも、（無責任という意味ではありません。）ほんとうに軽やかに、担ってゆくのです。というよりも、もっと正確に言えば、そのような生活をすることを通して、前を進んでくださる主イエスの背の傷の意味を一生涯かけて考え続けて行く、というのが、ここで「負いなさい」と言われている、私たちの「自分の十字架」の意味なのでしょう。
　さあ、皆さんの進む先には、主イエスが先頭に立って歩んで下さっています。この方の背を見つめながら、共に歩ませていただこうではありませんか。

お祈りいたします。
恵みとあわれみに富みたもう、私たちの主イエス・キリストの父なる御神。
あなた様は、永遠の昔からのあなた様のご計画によって、御子主イエス・キリストをこの世界にお送りくださり、そして御子は木にかけられて殺され、三日目にあなたによってよみがえらせられるという、十字架と復活によるあがないのみわざを、心から感謝いたします。私たち人間は傲慢な神々であり、十字架抜きでものごとを進めようと致します。救いでさえも、また信仰の歩みでさえも、十字架抜きの決心や、節制でやりとげようと、そのようにして主イエスの前に出る者でしたが、主イエスは「わたしのうしろに、立つべきところに立ちなさい」と御声をかけてくださいました。このお方の背を見つめながら、歩むことを、おひとりひとりにさせてくださることを信じて、感謝して、主イエス・キリストの御名によってお祈りを致します。アーメン。