『北風と太陽』 知られざる結末
◾️『北風と太陽』知られざる結末
太陽は、北風との〝力比べ〟に勝利した。
北風は、力任せに強風を吹き荒らし
旅人の上着を強引に剥ぎ取ろうとした。
だが、旅人は抵抗した。
強風に全力で抗い、決して脱がなかった。
その様子を見て
太陽は、あるアイデアをひらめいた。
〝強烈な日差しを浴びれば、自ら脱ぐのでは〟
太陽の狙いは…的中した。
旅人は暑さに耐え切れず
いともあっさり、上着を脱いだ。
太陽は、勝利の余韻に浸った。
〝俺って天才じゃね?〟自分に陶酔した。
太陽は、北風がさも凹んでるだろうと
憐れみの視線を向けた…
ところが、北風は凹むどころか
太陽に対し、逆提案を挑んできた。
「太陽よ。二回戦だ。
次は旅人に上着を〝着させる〟勝負だ」
「えぇぇ…き〝着させる〟勝負!?」
太陽は絶句した…
上着を〝脱がせる〟ことはできても
逆に〝着させる〟ことはできない。
このお題は、太陽の手には負えない。
北風は、何もできない太陽を横目に
たやすく〝ビュゥゥッ〟と一吹きした。
「さ、さ、さぶぅぅっ!」
旅人は、いともあっさり、上着を羽織った。
北風は〝逆転勝利〟に歓喜した。
凹む太陽。己の無力さに落胆する。
そこへ太陽の盟友〝雨雲〟がやってきた。
雨雲は一連のやり取りを遠くから見ていた。
雨雲は太陽に慰めの言葉をかけると
意気揚々と、北風にリベンジを挑む。
「北風よ。私と〝傘を開かせる〟勝負だ」
「か、か…傘…?」
北風は絶句した…
〝上着を着させる〟ことはできても
〝傘を開かせる〟ことはできない。
このお題は、北風の手には負えない。
雨雲は、何もできない北風を横目に
たやすく〝ザァァッ〟と、ひと雨降らせた。
「ヤバっ…降ってきた…!」
旅人は、いともあっさり、傘を広げた。
雨雲は見事、太陽の仇を取った。
凹む北風。己の無力さに落胆する。
太陽は、雨雲のリベンジに感謝し
かつての自信を取り戻した。
すると、太陽は雨雲に持ちかける。
「雨雲よ。ありがとう。よかったら、俺と
〝帽子を被らせる〟勝負をしないか?」
「ぼ…ぼ、ぼうし…?」
雨雲は絶句した…
〝傘〟は操れても
〝帽子〟は、どうにもできない。
このお題は、雨雲の手には負えない。
太陽は、何もできない雨雲を横目に
旅人へ再び強烈な日差しを照らした。
旅人は、差していた傘を投げ捨てた。
ところが、帽子を…被らなかった…
彼は天を仰ぎ、大声で叫んだ。
「あのさぁ、いい加減にしてくんない!?
その〝力比べ〟…意味ないっしょ!」
北風、太陽、雨雲はギョッと目を合わせた。
旅人は呆れ顔で続ける。
「そもそもアンタら〝能力〟が違うし。
生かせるかは〝お題〟次第っしょ…」
バツが悪そうに、北風が弁明する。
「だ、だから誰が一番かを決めようと…」
旅人は吐き捨てる。
「〝一番〟とか、その古い考えやめない?
前提や環境が変われば、優劣も変わる。
それがまさに〝個性〟ってもんでしょ」
太陽が訊き返す。「こ、こ…コセイ…??」
旅人は語気を強めた。
「〝個性〟は、ソイツ独自の才能や性格。
優劣じゃない。差異…つまり〝違い〟
そもそも競うもんじゃないのよ…
だから人と比べるなんて、ムーイーミー!」
躊躇した…が、雨雲が問う。
「わ、我らは、どうしたらいいのか…?」
旅人は一転、笑顔で答えた。
「何も。そのままで十分。
アンタらの個性、サイコーだし!
これからも旅を楽しませてくれよ!!」
そう残して彼は歩み始めた。
北風が慌てて止めようとする。
「お、お待ち下さい。旅人よ。
あ、あなたは一体、何者なのか…?」
振り返った旅人の目には、なぜか涙…
「偉そうに言って…ゴメンねぇ…
俺は〝自分探し〟の旅をずっと続けてる…
もう何十年も…〝個性〟が見つからなくて…」
意外すぎる旅人の告白…
北風、太陽、雨雲は
彼を静かに見送るしかなかった…
【 了 】
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