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外国人投資家に言われて刺さったことば3選 ~オーナーとの対話で資本主義の原点に還ろう~

「資本主義をアップデートするアドベントカレンダー」16日目です。これに先立ち、Xで募った記事テーマの投票で、資本コストやESG投資を抑えてもっとも多くの票を獲得したのは「外国人投資家に言われて刺さったことば3選」でした。
実はこれが1位になるとは予想していなかったのですが、皆さんのご要望にお応えして書いてみます。

外国人投資家とは

まず外国人投資家とは、どんな人たちでしょうか。日本取引所グループによると、日本株の株主のうち外国人が占める割合は約3割です(東証プライム、2023年3月末)。一方で、市場の売買高の約6割を占める非常に重要な投資主体です(東証プライム、2022年4月~12月)。

ただし、ひとくくりに「外国人投資家」とするべきではありません。
私が駆け出しのIR(インベスター・リレーションズ)担当者の頃、米国のIR関連の記事で、「投資家 (investor) にはオーナー (owner)とトレーダー (trader)の2種類がいる」というのを読みました。私の解釈では、オーナーは投資先企業の経営や事業に関心を持つ、まさにownershipのある投資家のことで、トレーダーとは投機的で株価に関心を持つ投資家のことです。

外国人投資家は、日本の投資家に比べてトレーダーもオーナーも非常に幅が広いです。極端に短期で売買するトレーダーもいますし、投資哲学を持ち巨大資産を長期で運用するオーナーもいます。
本題の「言われて刺さったことば」は、これこそ「真のオーナー」であろうと感じられる外国人投資家との対話から選びたいと思います。元の英文の細かいところはうろ覚えなので、キーワードのみ英語で、あとは日本語の説明でご容赦ください。

1.“People” 米系資産運用会社

「日本企業の資本効率の低さを突き詰めると、人と組織の問題に行きつく」
大手資産運用会社の中には保有する日本株の大半がTOPIXなどのインデックス運用である会社も多いです。その場合、インデックスの構成比に従って機械的に売ったり買ったりするので、もし投資先企業のガバナンスが悪かったりROEなど資本効率が低かったりなど不満があっても、自らの意志で売ることができません。株を保有したまま、企業に改善するよう求めることになります。この対話を「エンゲージメント」と呼びます。
 このことばは、多くの日本企業にエンゲージメントを何年も続けてきた人の言葉です。People (人)が変わらなければ会社は変われないと。人的資本経営が今年大きく話題になりましたが、日本の経営者もようやく目覚め始めたように思います。

2.“Invest in the “why” “米ベンチャーキャピタリスト

「起業家のWhy(なぜこの事業を行うのか)に投資する」
 シリコンバレーのVCで長いキャリアを持つベンチャーキャピタリストが、ある起業家向けプログラムで語ったことです。WhyとHowとWhatを同心円状にホワイトボードに書いて、Whyがとても大事だ、と語りました。投資家向けピッチでHow(どうやるのか)とWhat(何をやるのか)ばかり語っても、Why(なぜやるのか)がしっかりしていない起業家には投資しないと言っていました。なぜなら大きく環境が変わった時に、HowとWhatは変わらざると得ないが、Whyがある起業家は、生き延びられると。
 Whyとは、企業理念や、パーパス、ミッション・ビジョンのようなものです。創業が事業を推進する原点となるような、社会の課題を解決したい、もっと人々を幸せにしたい、という想いのことです。困難な状況に陥った時の「胆力」の源になるのです。
 スタートアップではなく、大企業でもその重要性は認められています。上場株に投資する投資家でも、国内外を問わずオーナーたる人たちは、パーパスやミッション・ビジョンを非常に重視しています。

3.“Uniqueness” 英資産運用会社

株を保有する理由を訊かれて、“(It's) Unique.” とだけ答えたオーナーがいました。
パーパスがいかに崇高で、解決する社会課題つまり潜在市場が大きかったとしても、ビジネスモデルが陳腐であったら儲かりません。やはり他社と優位な差がなければ、収益を上げ、株主の期待に応えることはできません。
 WhyだけでなくHowもWhatも一連の流れで唯一無二、つまりユニークで真似をしづらいビジネスモデルを構築すれば、持続可能な事業となるはずです。
 この英国にある資産運用会社は、成長ステージにある企業の株を、10年以上保有し、時価総額が何倍にもなるまで根気強く持ち続けることで有名です。日本だけでなく米国・中国の有名IT企業への長期投資で成功しています。四半期の業績のブレはほとんど気にかけない一方で、経営者の長期的な展望にはじっくり耳を傾け、時にはガバナンスなど経営改善の要求をしっかりと行う、まさに「オーナー」といえる人たちでした。そのような人たちが投資において重視する点が "Uniqueness" であることは、知っておいて損はないのではないでしょうか。

 以上、3選でした。選に漏れたものでは「Capital allocation」や「Commitment」がありますが、この話はまた今度。

資本主義の原点

なお、誤解のないように申し添えると、トレーダーも市場の公正な価格形成には不可欠な存在で、企業が軽視すべき存在ではありません。IRもそういった方たちに向けて公平に行う必要があります。また同じ投資家の中にもトレーダー的要素もオーナー的要素もあるでしょう。ですが、あえて申し上げると、企業の経営者が、将来のあるべき姿を共有し、対話の相手に選ぶべき投資家は、オーナーです。
オーナーとトレーダーとの差は、資金提供者の資金の質や、投資哲学の差であると思われます。

日本にも素晴らしい投資哲学を持つ運用会社で、オーナーになっていただきたい会社がいくつもありますが、それらに比べると、海外には懐の深さ(運用期間)も大きさ(資産金額)も桁違いの会社がいくつもあります。
そういった投資家との目的のある深い対話は、資本主義の原点を見るようなもので、IRの世界に身を置いてよかったと今でも思っているものです。
「アップデート」を一回りしたら、原点に戻った、そう思っています。

ーENDー

IR(インベスター・リレーションズ)の経験などに基づいたテーマで記事を書いています。幅広い層のビジネスパーソンにも読んでもらえたら嬉しく思います!