Vol.11 沖縄リゾートウェディングへの憧れ

沖縄に移住を決め、インターネット経由で沖縄の情報を集めた。今ほどインターネットが盛んではない時代。物価も土地勘も今一分からない。

1人で家を借りる前に先ずは情報収集だと、
「ルームシェアジャパン」を検索した。
ルームシェアジャパンは、日本全国のルームメイト募集掲示板。

ルームシェアのメリットは、家賃や初期費用が抑えられ家電を買い揃える負担も減る。そしてなにより、人との共同生活を通じて得られる楽しさが最大のメリットだと思う。

ルームシェアの良さは東京で既に体感しているので知らない人と住むのに抵抗はなかった。

現地の人と住めば、土地の物価、文化、マナーを知ることができるかもしれないと期待を胸に掲示板を覗く。

その中で住み込みで働けるBARの募集を見つける。

沖縄のBAR...
ルームシェアもできる上に現地の方が集まるので色々情報収集できる。

でも怪しいBARだったらどうしよう...

ホームページを見たらそんな不安はすぐに吹っ飛ぶ。お店のスタッフとお客さんがいい笑顔で写っていた。あたたかい雰囲気でなんとも楽しそうな写真が載っていたから安心できた。

応募をして審査があって通った。
荷造りをして出発。

BARがある北谷町・砂辺を目指す。

私が住む砂辺は、BAR、カフェ、サーフショップが多く密集していてダイビングスポットとしても有名だった。「お洒落れな街」という言葉がよく似合っていた。

南国らしい真っ赤なハイビスカスと、
ショッキングピンクのブーゲンビリアが、あちらこちらに咲いていた。ドラゴンフルーツや大きなバナナも見つけた。

私が住むマンションから徒歩２分もしない場所に砂辺・宮城海岸があった。夜景が綺麗で波の音が心地よい。

「沖縄...来ちゃった、私ここで暮らすんだ」と、独り言が漏れる。

マンションに着く前にBARの場所を確認しに
お店の前まで行く。時刻は夜の７時。まだ開店していなかった。

外からガラス戸越しに店内を覗く。掃除が行き届いた店内にコロナビールの瓶が並んでいる。サンゴ礁や貝がディスプレイされていた。

間もなくしてBARのオーナーと合流し、ルームメイトを紹介してもらう。

沖縄県出身で英会話講師の女性、福岡県出身のダイビングショップを運営する男性、東京都出身明太子屋で働く男性、４人と猫２匹で一緒に住むことになった。

猫はダイバーの彼の飼っていた猫だった。優しくて動物が好きで、野良猫を連れて帰ってきちゃうらしい。

「ねぇ、ここに永いこと住んでいたら猫だらけになる？」「大丈夫だよ、そんなに飼えない」と彼は笑う。

ここで出逢ったルームメイトは今も大切な友人だ。

BARのオーナーの彼は人を惹きつける喋り方をする秋田県出身、秋田県大会のチャンピョンサーファーだった。立ち振る舞いが堂々としていて自分の意思や生き方に自信を持っている人。

部屋の利用についてとBARで働く上での注意事項や説明を受けた後に、

「英語は話せる？うちのお客さんアメリカ人が多いからよろしくね！」
って言われて予想外でびっくりする。
その場の流れで部屋に荷物を置いて初日から働くことになった。

住んで働いてみて知る。沖縄の基地の割合は約58.7％、本土では米軍基地の整理・縮小 が沖縄県よりも進んだ結果、国土面積の約0.6％しかない沖縄県に、 全国の米軍専用施設面積の約70.6％が集中している。その為、予想以上にアメリカ人だらけだった。

スーパーやコンビニに行っても当たり前のように軍服を着た人たちで溢れていた。日中は住宅街のベランダからアメリカの柔軟剤、ダウニーの強い匂いがした。

沖縄は日本語の通じる外国だった。

「What's up！」
「long time no see」
「What did you do today?」

英語のレパートリーの少ないわたしは、だいたいどれかで会話を始めた。

エアホース（空軍）マリン（海軍）の人達で賑わうBARは、お洒落なカクテルよりもポップコーンとビールがよく売れた。シェイカーなんて時々しか振らないので、バーテンダーともソムリエとも肩書きはつかない程度の働きだ。

「What did you do today?」（今日何してたの？）と聞くと、
「I was making a bomb」（爆弾をつくっていたよ）

「What happened to that hand？」（その手はどうしたの？）「Damaged in Iraq」イラクで損傷したんだ）と話す。

戦争の爪痕、基地問題が頭を掠りながら日常で英語を話す日々が始まった。

どこでもドルで支払いが出来るので、
お財布には日本円とアメリカドルが入っている。日常的にドル計算をする。

BARのオーナーが紹介してくれたからすぐに友達が増え、狙い通り必要な情報はすぐに集まった。一歩出歩けば必ず知り合いに会う。朝焼けや夕陽の中、友人とお喋りしながら海を眺めた。

砂辺という街の小さなコミュニティ。そんな環境だからこそ、人のことは絶対悪く言わない。プライバシーに関わることは口にしない。沖縄で大切にしている歴史、風習、文化には従うと決める。沖縄には古くから言い伝えられ、守られていることがあって、例えばあの島には行ってはいけないとか、どこにどんな神様がいるとか、セーファー御嶽、久高島など、観光地だが本来は県外の人が容易く手を合わせる場所じゃないと教えてもらったことは忠実に守った。沖縄で暮らす上でこれが私のマナーとルールだった。

それから数年間沖縄で暮らした。
クリスマスにはあちらこちらの窓から見える大きなクリスマスツリーを眺めるのが好きだった。時々住宅街から三味線の音が聞こえて和んだ。アメリカと沖縄の意外な調和を楽しみながら暮らした。

毎週末あるバーベキュー、ホームパーティー、ハロウィン、クリスマス、海遊び、夜はクラブ、あれ、遊んでばっかり。笑

BARで働きながらウェディングの仕事が入れば東京と沖縄を往復する生活を気に入っていた。

BARのオーナーによく早朝に起こされ、
「満潮だよ、サーフィン行くよ！」と
仲間と一緒に海に連れていってくれた。
あまりにも早朝だった。
「まだ用意ができていないよ」と言っても
「海で顔洗えー」って言われ素直にウェットスーツに着替えて海で顔を洗った。

足元はサンゴ礁、リーフブレイクで足が痛い。
足つぼだと思って気にせず前向きに入る。

底まで透き通る綺麗な海。
押し寄せる波に逆らい何度もパドリングをしてサーフポイントに辿り着く。波に体を後押しされ波乗りする快感を初めて知った。

雨の日の海も、サーフボードにうつ伏せになって寝っ転がり、水面に躍る雨を見るのが好きだった。台風の後のサーフィンはジェットコースターみたいで楽しかった。サーフィンの後、お気に入りのトルコ料理屋さんで食べる味の濃いカレーが身体中に染みて美味しかった。

日焼け止めなんて塗る間もなく海に連れだされていたので、現在３５歳になった私の頬にはポツポツと茶色いシミやそばかすが増えている。朝起きて鏡を眺める。頬にあたらしいそばかすを見つけては、お、これは、沖縄の時にお構いなく紫外線を浴びたのがでてきたなと、指先で撫でながら沖縄に想いを寄せる。頬のそばかす。それは、沖縄で暮らした証のようで愛おしくもなる。

BARのオーナーとふたりで話した日を思いだす。

「私には、夢があって沖縄でリゾートウェディング事業がやりたい。その為に沖縄に来たんだ」どんな事業をしていきたいか。誰にも話していなかった話を何時間もBARのオーナと話した。真剣に話しを聴いてくれた。

「そんなにやりたいことが明確なら力を貸すよ。お金だって貸せるし保証人にもなる。そうやって俺も助けられたから、今度は自分が人を助けたい」と言ってくれた。

胸が熱くなった。
何があってもきっとこの人は、味方でいてくれるし、私もこの人の味方でいたい。

たくさんの人と繋げてくれた彼に感謝している。沖縄での生活は、彼がいなかったら全く違ったものになっていただろう。

私たちは、BARのオーナーと、雇われ従業員という関係だったが、信頼しあった親友でもあった。沖縄の生活を広げてくれた恩師。この信頼関係によって大きなボタンのかけ違いが生じ、このあと私たちの友情はあっという間に壊れる。

次の話は、私の失敗談。

残念ながら
私は恩師に依頼された結婚式を失敗する。

〈プロフィール〉

▶︎浅野　はずみ
ウェディングプランナー／空間デザイナー

MARRIAGE PROJECT/マリッジプロジェクト代表取締役、運営者。アウトドアウェディングのディレクション、空間デザインを得意と
する。

衣装の指定や、限られた選択肢からの式場選び、硬直的な進行など、規制が多く自由に選択することができない、クオリティが不透明な、由来の型にはまったウエディング。そんなウエディングを根本的に見直し、本質的なウエディングとは何かを問う。お二人に最適な表現と、可能性を追求し提案する。日本のウエディング業界をより良いものへとする活動家。

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