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純粋未修者の、純粋未修者による、純粋未修者のための、基本書(教科書)の選び方

「わたし、法曹になりたくて。ローに合格したのでこれから勉強するんですが、基本書って何を使えばいいんですか?」
ロー未修入試に合格した当時の私

そうだ!司法試験を受けよう!よし!ローに行こう!わーい合格した!
…が、仕事が忙しくなり、何もできないままロー入学を迎えた一年前の私へ。
司法試験の勉強方法について周囲に聞いては、おすすめ本を片端から購入し読んでいましたね。

一年後の私から、一年前のあなたへのアドバイスです。

なお、このノートに記載したのは、おすすめの基本書ではなくその選び方です。最近はいい本が次々出版されていますので、誰かのおすすめよりも良い本がたくさん出ている可能性があるからです。また、本の使い方は人によって大きく違います。読解力も、読むスピードも異なります。誰かのおすすめを鵜呑みにするとあまりいいことがありません。ご自身に合ったものを探すお手伝いとしてこのNoteを書かせていただきます。

司法試験のための基本書に手を出すな

純粋未修が読むべきは司法試験のための本ではありません。既修者になるための本です。つまり、法学部生向けの講義において教科書に指定されている本です。

あなたが既修者に簡単な基本書について尋ねると、多くの場合、『民法(全)』(潮見)や基本シリーズをお勧めされるでしょう。でも忘れてはいけません。それを「読みやすいよ!使えるよ!」と言うまでに、彼らは別の本を読んでいるのだということを。あなたはそれ以前の基本から身につける段階です。

もしあなたがローの生協に行くことができたら、学部の教科書の指定状況を確認するのも良いと思います。店員さんに聞くと教えてくれます。

ただし、初学者向けの優しい本ならなんでもいいわけではありません。

校正が硬い本を選ぼう

法学の本は他分野の本に比べて、日本語に難がある(誤字脱字、無駄な記述が多い、係り受けが曖昧で複数に取れるなど)本があまりにも多い印象があります。確かに法律分野は独特の語彙があるものですが、その問題を抜いたとしても酷すぎです(※外野の感想です)。

このように日本語が難解な本は通読に労力がかかりますし、適当に読んだ結果誤読して大変なことになります(なった)。

そこで、編集者による硬い校正が入っているものを勧めます。ここでいう「硬い」とは、他分野の読者に通じるようにする為の表現の推敲を妥協していない、ということ。法学セミナーや法学教室などの雑誌の連載から生まれた本や、NBSやストゥディアといった多分野にわたってシリーズ化された本にこの傾向が強いです。

できるだけ新しい本を選ぼう

本はできるだけ新しいものを選びましょう。
例えば山口厚『刑法』は日本語が硬く定評があり、長い間刑法の入門書として使われてきました。しかし、先生が最高裁判事になられて以降改版されていないため、その後今日までに整理された議論(例:正当防衛)が完全に抜け落ちています。現在の通説を知らないままでは、真逆の結論をとることにもなりかねません(きちんと理解すれば旧説から同じ結論を導き出すのはそう難しくないのですが)。

今、法改正ラッシュが始まっています。当然改正に対しての修正が入るのですが、先生方もお忙しいので、まずは専門家向けの本から対応することになります。初学者向けの本の修正は後回しです。そのため初学者本は法改正への対応が遅く、将来改正どころか現行法にすら対応できていないものも普通にあります。しかも、高評価を得て店頭に並んでいるのです。まえがき、あとがきや奥付にて、何年の改正まで対応しているかを必ず確認しましょう。

できればローの先生の本にしよう

候補が複数出て迷ったら、過去にご自身のローに所属されている、あるいは所属していた著者が書かれたものを選ぶのが良いと思います。読書が授業の予習に直結するからです。既に相談できる環境にあるならば、先生に直接聞いてみるのも良いかと思います。

もう少し詳しい話をすると、法律の解釈において、ざっくりと「東大系」か「京大系」とで派閥がわかれています。別にどっちが偉いとか正しいとか言うことはありません。ただ、ローとズレた予習をしないほうが楽というだけです。上位合格のために両方学ぶ人もいるくらいですから、ロー入学後に違和感を覚えたらサクッと本を変える検討をすればいいだけです。

目次とまえがきを読んで買おう

本によってスタンスが大きく違うので、必ず著者による前書きを読んで自分のニーズにあった本を買いましょう。
また、目次は必ず確認しましょう。そうでないと同じ分野の本を2冊買うことになりかねません(相続法が含まれている家族法と、相続法のテキストとを、それぞれ買ってしまった苦い思い出)。

店頭で本を選ぶときも、目次と前書きを比較したり、同じ項目についての記述を比較することが役に立ちます。

自分の好きな本に出会えるチャンスは広がっていると思います。ぜひ見つけてみてください。

その他気づいたこと

出版社の違い

日本評論社の編集は大変仕事が細かい印象があります。日本評論社の本で日本語が読みにくいと思ったことがありません。スタンダードで、どなたにも比較的合いやすいと思います。きっと基本シリーズの評判が良いのもここに起因すると思います。

有斐閣はこの業界では大変権威のある出版社で、法律学ならとりあえずこれを選べば間違いはないという安心感があります。学生が長く使い書き込みする際にストレスがないよう、紙質や製本に強いこだわりを求めることでも知られる出版社です。
日本評論社と比較して有斐閣は比較的著者の表現を尊重する印象がありますが、それでも最低条件として正しい日本語が採用されています。

他にも商事法務、弘文堂、新世社などの出版社がありますが、出版社の編集の立ち位置は比較的控えめで、著者のキャラクターが前面に出る印象です(特に弘文堂以右)。とことん合うかとことん合わないかの二択の印象。もちろんこれらの出版社の本の中にも良い本がたくさんあるのですが、比較的実力者向けです。店頭で軽く読んで先生方の独特な文体が合わないと思ったら、初心者のうちは定評があっても一旦避けたほうが良いと思います。

初学者本の違い

NBSは、図を用いた説明に逃げず、限界まで表現を削るスタンスで作られた初学者本です。そのため無機質で読みにくい印象もありますが、司法試験の答案との親和性から、実はこれずっと使えるのではと思うこの頃。慶應ローで教鞭をとった著者が多いですが、比較的中立な思想をとっており、どこのローにも相性は良いと思います。問題は中立すぎて答案を書くために自分の意見を追記していく必要があることです。

ストゥディアは300頁以内に学部レベルの講義を収めることを何よりも重視して執筆されたシリーズです(営業さん情報)。実際ほとんどの本が15章立てになっていることからも、学部の教科書としての利用を強く意識しているものと思われます。ページ数の代わりに何を犠牲にするかは著者のスタンスに委ねられています。刑訴では簡素な表現が、民訴では学説の対立が、会社法では網羅性が、民法では冊数と全巻揃うまでの時間が…そのため、科目によって表情も使い方も変わるように思います。犠牲になった部分は、他の有斐閣の本…アルマやSシリーズ、リーガルクエストで補えるでしょ、という自信なのだろうと思います。

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