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世の中のいろいろな問題を哲学・倫理学をもとに考えたいと思っています。よろしくお願いします! Twitter: https://twitter.com/maru_tetsugaku

最近の記事

〈機会の平等〉とは何か?

 AさんとBさんが次のように会話しているとしましょう。 A「〈機会の平等〉は重要だね」 B「僕もそう思う」 A「だから、経済格差を縮めて〈機会の平等〉を目指さないといけないね」 B「いや、格差を縮めなくても、もう〈機会の平等〉は達成されているよ」 A「どうして?」 B「だって、入試や就職で、性別や人種で不利になったりしないでしょ」 A「そんなことないと思うけど、仮にそうだとしても〈機会の平等〉が達成されていることにはならないよ。人生は生まれた環境で大きく左右されるんだから」

    • 善悪は感情の表現にすぎない?――情緒主義入門

       みなさんは「善悪や正義についての発言は、個々人の感情や気持ちを表したものにすぎない」というような意見を聞いたことはないでしょうか。倫理学において「倫理判断は感情の表現にすぎない」という考えは「情緒主義」(情動主義)と呼ばれます。はたして、情緒主義は妥当でしょうか。  この記事では、Ⅰにて、エイヤーの情緒主義を概観し、Ⅱにて、その問題点を確認します。 ※ 参考文献は記事の最後に示し、本文では著者名・刊行年・ページのみを括弧に入れて表記します。 Ⅰ.情緒主義の概要 情緒主

      • 「人権は普遍的だ」というのは誤り?――とても短い覚え書き

         Aさんが次のように主張したとします。 【Aさんの主張】「日本では表現の自由は保障されているが、中国では表現の自由は保障されていない。よって、『人権は普遍的である』というのは誤りである」  ここでは、実際に、日本では表現の自由が保障されているのか、また、中国では表現の自由が保障されていないのかという点についてはおいておきます。  さて、Aさんの主張には問題点があります。それは「人権の普遍性」と言われるときのこの言葉の意味を誤解している点です。法学者の深田三徳は次のように

        • 民主主義は多数決?

           「民主主義は多数決だ」と言われることがあります。たしかに選挙でも議会でも多数決が用いられています。さらに、小学校や中学校でも多数決は物事の決め方としておなじみの方法ですね。  しかし「民主主義は多数決だ」と言い切れるでしょうか。物事を多数決で決めさえすれば、その決定は「民主的」といえるでしょうか。そうではありません。民主主義は多数決だといえるためには、いくつかの条件が満たされる必要があります。今回の記事ではそのことについて考えます。 Ⅰ.決定参加者の包括性 多数決原理と

        〈機会の平等〉とは何か?

          「表現の自由」の保障は表現に対する抗議にも及ぶ

           ある人々がテレビ・映画・本・広告などの特定の表現に対して「差別的だ」として抗議することがあります。そして、そのような抗議は、それに反対する人々から「表現の自由の侵害」とみなされることもあります。  しかし、表現に対する抗議は「表現の自由の侵害」ではありません。なぜなら、表現に対する抗議にも、表現の自由の保障は及ぶからです。「そんなことは当たり前じゃないか」と思う方も多いでしょう。私もそう思います。  今回は、この「当たり前」のことに、あえて「なぜ」と問うてみようと思いま

          「表現の自由」の保障は表現に対する抗議にも及ぶ

          正義は社会によって異なる?――倫理的相対主義入門

           「正義は国によって違う」とか「善悪は文化によって違う」と言われることがあります。このような「倫理は普遍的ではなく相対的なものである」という考え方は、倫理学では、「倫理的相対主義」(道徳的相対主義)と呼ばれます。  しばしば、倫理的相対主義は3つに分類されます(伊藤 2006、児玉 2018 p. 188、Baghramian and Carter 2022)。この記事では、その分類に従って、3つの倫理的相対主義の概要とそれぞれに対する反論を見ていきます。 ※ 参考文献は

          正義は社会によって異なる?――倫理的相対主義入門

          広告において許されない表現とは?――虚偽表現・ステレオタイプ表現・性的表現を例に

           しばしば、広告の表現が物議をかもすことがある。近年、広告がいわゆる「炎上」の火種になることは珍しくない。それ以前も、誇大広告や子どもを対象とする広告などの問題が消費者から提起されてきた(疋田/亀井/小宮山 1999 p. 66)。  はたして、広告においてどんな表現は許されないだろうか。そして、なぜその表現は許されないのだろうか。この記事ではそのようなことを考えてみたい。  この記事は次のように進む。Ⅰでは、広告において許されない表現や規制される表現についてまとめる。Ⅱ

          広告において許されない表現とは?――虚偽表現・ステレオタイプ表現・性的表現を例に

          なぜ経済格差は問題なのか?

           この記事の目的は「なぜ経済格差は重要な問題なのか?」を政治哲学などの知見をもとに整理することである。これは「なぜ経済格差を是正すべきなのか?」という問いでもある。この記事では、経済格差が問題となる4つの理由を提示したい。  本題の前に3つの注意点を述べる。第1に、この記事で問題にするのは過度の経済格差である。第2に、この記事の目的は経済格差の実態・原因・対策を考えることではない。第3に、この記事は国内の経済格差を扱い、グローバルな経済格差については扱わない。 ※ 参考文

          なぜ経済格差は問題なのか?

          男女平等の「平等」とは?――〈男女を平等な存在として扱うこと〉と〈男女を等しく扱うこと〉

           この記事の目的は男女平等を「平等」の概念に着目して考えることである。この記事は次のように進む。ⅠとⅡでは、平等をめぐるドゥオーキンの議論の一部を参照する。Ⅲでは、それをふまえて男女平等を考える。Ⅳでは、管理職の人数の男女格差とポジティヴ・アクションをとりあげる。 ※ 参考文献は記事の最後に示し、本文では著者名・刊行年・ページのみを括弧に入れて表記する。 Ⅰ.〈人々を平等な存在として扱うこと〉と〈人々を等しく扱うこと〉の区別 「平等」は政治哲学や法哲学における中心的な問題

          男女平等の「平等」とは?――〈男女を平等な存在として扱うこと〉と〈男女を等しく扱うこと〉

          権利は義務を伴う?

           「権利は義務を伴う」と言われることがある。これは正しいのだろうか。そもそも「権利は義務を伴う」という言葉は何を意味するのだろうか。この記事では、そうした視点から権利と義務を問いなおしたい。 ※ 参考文献は記事の最後に示し、本文では著者名・刊行年・ページのみを括弧に入れて表記する。 Ⅰ.「権利は義務を伴う」とは まずは、次の例に即して考えよう[注1]。 【例1】AはBに1万円を貸し、BはAに1万円の返済を約束した。このとき、AはBに1万円の返済を求める権利を有し、BはA

          権利は義務を伴う?

          政治に口を出すべき7の理由――政治学の知見から

           政治に関わることを敬遠する人は少なくない。2019年7月の参議院議員選挙の投票率は50%を下回り、48.80%だった(総務省)。この投票率は決して高いとはいえないだろう。  さらに、政治の話をすることがタブー視されることもある。社会心理学者の横山智哉は「日本では、意見の違いが明白になることを恐れ、政治的な会話を避けている面があるのだろう」という(朝日新聞 2019)。  しかし、私たちは政治に口を出すことをためらう必要はない。むしろ、どんどん口を出したほうがよい。この記

          政治に口を出すべき7の理由――政治学の知見から

          感情は民主主義の社会でどんな役割を果たすのか?

           私たちは政治や社会に対して何らかの感情をもったり、それを表明したりすることがあります。例えば「保育園落ちた日本死ね!!!」という匿名の記事は注目を集めて国会でも取り上げられました(笹川 2016)。記事の一部を引用しましょう。 何なんだよ日本。 一億総活躍社会じゃねーのかよ。 昨日見事に保育園落ちたわ。 どうすんだよ私活躍出来ねーじゃねーか。 (「保育園落ちた日本死ね!!!」より)  この記事では、子育てに対する国の姿勢を激しい口調で非難しています。投稿者は、記事を書い

          感情は民主主義の社会でどんな役割を果たすのか?

          反転可能性テストとは何か?

           この記事では「反転可能性テスト」を解説する。反転可能性テストを提唱し、詳細に論じたのは法哲学者の井上達夫である(井上 1999 第7章、井上 2003 第1章・第9章、井上 2008 場外補講、井上 2015 第一部)。よって、井上の議論を――私の独自の表現も用いながら――解説する。 ※ 参考文献は記事の最後に示し、本文では著者名・刊行年・ページのみを括弧に入れて表記する。 Ⅰ.反転可能性テストの趣旨 反転可能性テストとは次のことである[注1]。 【反転可能性テスト】

          反転可能性テストとは何か?

          そもそもダブスタって何?――哲学・倫理学から考えるダブル・スタンダード

           ネット上で「ダブスタ」という言葉を見かける。誰かの言動に対して「ダブスタだ!」と言い立てる言説は多い。しかしながら、私見では「ダブスタ」という言葉を乱暴に使う言説も少なくない。そこで、この記事では「そもそもダブル・スタンダードとはどのようなことか」を問いなおす。  この記事は次のように進む。Ⅰではダブル・スタンダードの概要を示す。Ⅱでは正義に関する哲学・倫理学の知見の一部をまとめる。Ⅲではダブル・スタンダードの要点とある言動などがダブル・スタンダードに当たるかどうかを判断

          そもそもダブスタって何?――哲学・倫理学から考えるダブル・スタンダード