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参考文献:社会人基礎力の測定(学生向け)

「社会人基礎力の測定」(経済産業省が2006年に提唱した概念)は、授業でグループワークを取り入れている教員にとり、興味がある内容です。グループワーク開始前と開始後で、学生の能力がどのように変化し成長したか、確認したくなります。しかしながら、教員自ら測定尺度を作ることは、大変骨の折れる仕事です。妥当性、信頼性の面から考えても、ある程度しっかり作られている尺度を利用する方が良いと考えています。

既に作成された尺度(西道 2011)がありましたので、ご紹介します。

出典:西道 実(2011)社会人基礎力の測定に関する尺度構成の試み.プール学院大学研究紀要 第51号 pp.217~228

論文のままでは使用しづらいため、論文から読み取れる、実際に使用するための「質問項目」「回答選択肢レイアウト」「評価方法」を抽出しました。

■質問項目

(1)前に踏み出す力

・ 提案するだけでなく、自ら目の前の対象を動かす力
・ 指示を待つのではなく、自らやるべきことを見つけて積極的に取り組む力
・ 目標を達成するために周りの人に呼びかけて、周囲の人を動かす力
・ 人を巻き込んで提案する力
・ 立場や意見の異なる人に働きかけて、動かす力
・ 自分の果たすべき役割と責任を自覚し、積極的に取り組む力
・ 失敗をおそれず、行動に移す力
・ 自分の個性や趣味・関心にもとづいて、目の前の課題に取り組む力

(2)考え抜く力

・ 課題を解決する複数のプロセスを明確にし、最善のプランを立案する力
・ あらゆる可能性を再検討することで、解決方法を再発見する力
・ 既存の発想にとらわれず、解決方法を工夫して考える力
・ 未知の分野にまで思考を広げることで、新しい解決方法を導き出す力
・ 正解不正解が曖昧な問題の解決策を見いだす力
・ 目標を達成するために解決すべき問題を見つける力
・ 目標を達成するための手順や方法について優先順位を決定する力
・ 得られた情報を、多面的・多角的に整理する力
・ 将来設計に基づいて、今取り組むべき学習や活動を理解して準備する力
・ 見過ごされがちな問題を発見する力
・ 自分に必要な情報や資料を的確に探し出す力

(3)伝える力

・ 自分の言いたいことを、わかりやすく、効果的に伝える力
・ 限られた時間の中で、情報や主張を、わかりやすく聞き手に伝える力
・ 自分の考えをわかりやすく整理して、相手に理解してもらえるように伝える力
・ 自分の話に信頼感をもってもらえるように話せる力
・ 仲間うちにしか伝わらないような言葉で話したりせず、誰もが理解できるように話す力
・ 情報を伝えるために、必要な創意工夫を加える力
・ 相手の立場に配慮しながら、自分の主張を伝える力
・ 調べたことを伝える際に、効果的な手段やメディアを用いる力
・ 相手にとって良くないことでも、自分の意見を誠実に伝える力

(4)チームで働く力

・ お互いの個性や能力を理解し、それが発揮できるような関係を築く力
・ グループの中で、自分がどんな役割を担えばよいのかを理解する力
・ 状況に応じて、自らの発言や行動を適切に律する力
・ 他者と共有する「空気」を読んで、自分の行動を修正できる力
・ 相手の言動を観察し、意見や主張を正確に聞き取る力
・ 話しやすい雰囲気をつくって、相手の意見を引き出す力
・ 固定概念にとらわれないで、相手の立場や意見を理解する力
・ 周りの人たちの仕事から、働く意義や大切さを理解する力
・ 周囲の人々や物事との関係を理解するために積極的に働きかける力
・ 学んだことや体験したことを、職業や生活とつなげて考える力
・ 既存のやり方やマニュアルにとらわれない考えを受け入れる力
・ 自分が分からないことを聞き流さずに、相手に質問して確認する力

※用語を統一したい所が何箇所かありますが、この文章を元に実験をされていますので、そのままにしています。しかし、脱字の1箇所、前に踏み出す力の1項目は修正しています。

■回答選択肢レイアウト

西道(2011)が述べる回答選択肢は4件法で、「とてもある」4点、「まったくない」1点と書かれています。2や3に対する選択肢名がありません。
脇田(2012)が述べるp139「Figure 10 選択肢 Ver.D」のレイアウト(これは5件法ですが4件法にして)を使用してみてはいかがでしょうか。

出典:脇田 貴文(2012)Likert法における回答選択枝のレイアウトが選択枝間の心理的距離に与える影響.関西大学社会学部紀要 43(2), 135-144
例:(まったくない) 1    2    3    4 (とてもある)

簡易に作成すると、このような感じだと思います。

■評価方法

学生に、各質問項目に対し、1〜4で答えていただきます。
それぞれの力の点数を集計し、西道(2011)が述べるp226「表8 下位尺度得点の分布」がありますので、参考値(大学新入生)と比較することができます。

■感想

教員が学生の社会人基礎能力を簡易に測定するには、とても有用だと思います。
しかし、これは自己評価のみの尺度です。
この尺度だけで判断せず、「活動記録」や「他者評価」など様々な要素から総合的な判断をしていただきたいと思っています。

また、この質問項目は、意識の高い学生には良いですが、測定を嫌がる学生もいるのではないかと意見を聞いています。学校・学生により測定は難しいかもしれません。本来の目的とは異なりますが、これらの質問項目は、社会人基礎力の能力を、より具体的に説明しています。教員がこの項目を見ることで、測定はできなくても、学生への具体的なアドバイスに使用することができるのではないかと考えています。

(公開日:2019年3月13日)
2019年3月16日...[変更]テキスト

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