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社会人のための学び直し数学【高校数学三角関数編その1】

1.弧度法

 三角関数を定義する前に,角度について考えましょう。三角関数は角度を独立変数とする関数なので角度の変化がどのようになるかが,まず問題になります。
 角度と言えば小学校のときから学習している,直角を 90° とする度数法が思い浮かぶかと思います。ただ,直角の様な見るからにきっちりとした角度が何故 90° という中途半端な数なのだろうか?と不思議に思ったことがあるかもしれません。古代バビロニアの 60 進法が起源であると言われますが,数学の変数として考えるのであればもっと数学的な裏付けのあるものが合理的でしょう。そこで,弧度法による角度の表現が考えられました。

 円を描き,半径をぐるっと回すと,初めの半径と回し終えたところの半径との間に角度ができます。この角度を中心角といいます。また,半径を回してできる円周の一部をこの円のといいます。(扇形の曲線部分が弧であるともいえます。)

図1

そして,中心角と弧の長さは比例しているという重要な事実があります。すなわち,中心角が 2 倍,3 倍,・・・となると,
弧の長さも 2 倍,3 倍・・・となるのです。
よって,中心角の変化を弧の長さの変化で表現することが可能となります。

 弧度法は上記の考えから半径が 1 の円(単位円といいます)の弧の長さで角度を表現するものです。よって,1 回転した度数法の 360° は弧度法で単位円の円周にあたる $${2π}$$ です。($${π}$$ は円周率です。)

【注】度数法の角度は 360° のように数字の右上に「°」を書いて「度」という単位を表しますが,弧度法の角度の単位である「rad(ラジアン)」は普通,単位を省略し,例えば 360° にあたる角度を単に $${2π}$$ と書きます。

 こう決めると,その他の角度の弧度法での表現は簡単です。
90° は 360° の $${\cfrac{1}{4}}$$ なので,$${2π}$$ の $${\cfrac{1}{4}}$$ の $${\cfrac{π}{2}}$$ となり,

60° は 360° の $${\cfrac{1}{6}}$$ なので,$${2π}$$ の $${\cfrac{1}{6}}$$ の $${\cfrac{π}{3}}$$ です。

一般に度数法の $${a°}$$ は弧度法で $${2π×\cfrac{a}{360}}$$ と表すことができます。

 さて,このように角度を表現すると,弧度法の角度は $${2π}$$ で終わりになるのではないか?という疑問が生じるかもしれません。しかし,1 回転を超えても弧の長さを,例えば 2 回転すれば $${4π}$$ というように,いくらでも大きく考えることができます。一般に $${n}$$ を正の整数として $${n}$$ 回転したときの弧度法の角度は $${n×2π}$$ すなわち $${2nπ}$$ です。

 それでは,下の図で角度 $${θ}$$ は弧度法の角度でどのように考えたらよいでしょう。

図2

△OAX は正三角形なので,その内角の 60° にあたるのが $${θ}$$ である。すなわち $${θ=\cfrac{π}{3}}$$ のように思えます。
しかし,1 回転を超える角度を考えてもいいわけですから $${\cfrac{π}{3}}$$ より大きな角度になる可能性があります。
 整理して考えましょう。まず,半径 OA を固定します。これを始線(始線は正確には半直線 OA です)といいます。そして点 A を出発点として点 X を単位円の円周上で反時計回りに回転させて図2のような位置にあるとします。(半径 OX を動径といいます。)ただ,回転の様子を見ていなくて,その結果だけを見たとすると,点 X が初めて到達してこの位置にある場合,1 回転してこの位置にある場合,あるいは 4 回転してこの位置にある場合も考えられます。そこで,この角度を,$${n}$$ を $${0}$$ または正の整数として

$$
θ=\cfrac{π}{3}+2nπ
$$

と表現するのです。もし,点 X が回転して初めてこの位置にあるのであれば $${n=0}$$ として $${θ=\cfrac{π}{3}}$$ となるし,
1 回転してこの位置にあるのであれば $${n=1}$$ として $${θ=\cfrac{π}{3}+2π}$$
すなわち $${θ=\cfrac{7}{3}π}$$ となるし,
4 回転してこの位置にあるのであれば $${n=4}$$ として $${θ=\cfrac{π}{3}+8π}$$
すなわち $${θ=\cfrac{25}{3}π}$$ となります。

 ここまでの内容から角度 $${θ}$$ は正の実数全体として定義できるわけですが,独立変数として考えるには不十分です。$${θ=0}$$ は上の例でいえば点 X を点 A の位置から動かさないときの角度と考えることはできますが,$${θ}$$ には負の実数も与えることができなければなりません。
このことは,動径 OX を反時計回りに回転させたことと関係しています。すなわち動径 OX を反時計回りの逆,時計回りに回転させてできる角度を負の角度とするのです。数直線で 0 より右に進むと正の数,左に進むと負の数となるのと同様に,回転には反時計回り(左回り)と時計回り(右回り)の 2 種類しかないので,一方を正とすればもう一方は負と定義できるというわけです。
すると先の

$$
θ=\cfrac{π}{3}+2nπ
$$

の $${n}$$ は,$${0}$$ または正の整数に限定せず,単に整数として改めて

$$
θ=\cfrac{π}{3}+2nπ
$$

と表現できます。この表現を一般角といいます。点 X が $${θ=\cfrac{π}{3}}$$ の位置から反時計回りに 1 回転,2 回転,・・・と回転することが $${n=1,2,・・・}$$ と表現され,時計回りに 1 回転,2 回転,・・・と回転することが $${n=-1,-2,・・・}$$ と表現されるのです。

 これで,独立変数としての角度 $${θ}$$ が定義できたわけですが,特に注目してほしいのは,どんな大きい正の角度 $${θ}$$ も,どんな小さい角度 $${θ}$$ も,$${α}$$ を $${0≦α<2π}$$,そして $${n}$$ を整数として $${θ=α+2nπ}$$ と表現できることです。このことは三角関数の周期性に関わってきますので確認しておいてください。

  次に弧度法の角度を図形に応用してみましょう。
全ての円は単位円を拡大または縮小してつくることができます。ある図形を拡大または縮小してできる図形は,もとの図形と互いに相似であるといいますが,全ての円は互いに相似な図形です。ここで,半径が $${r}$$ の円を考えて,中心角を $${θ}$$,弧の長さを $${l}$$ とします。ただし,$${0≦θ<2π}$$ です。

相似な2つの円

この半径 $${r}$$ の円は単位円を $${r}$$ 倍に拡大したものになっています。単位円の弧の長さが弧度法の角度 $${θ}$$ となっているので,$${l}$$ は $${θ}$$ の $${r}$$ 倍になっていて $${l=rθ}$$ が成り立ちます。変形すると

$$
θ=\cfrac{l}{r}
$$

ですが,これを弧度法の定義として考えることもできます。実際,$${r=1}$$ のとき $${θ=l}$$ です。

 扇形の面積はどうでしょうか。中学数学で苦労する人が多い,扇形の面積が,弧度法を使うと簡単に求められます。半径 $${r}$$ で中心角が $${θ}$$ の扇形の面積 $${S}$$ を考えます。扇形の面積は中心角 $${θ}$$ に比例します。ピザを切り分けるときをイメージしてみてください。
よって,

$$
\cfrac{S}{πr^2}=\cfrac{θ}{2π}
$$

なので,$${S=\cfrac{1}{2}r^2θ}$$ です。$${θ=\cfrac{l}{r}}$$ を代入すれば

$$
S=\cfrac{1}{2}rl
$$

と書くこともできます。$${S=\cfrac{1}{2}rl}$$ は,底辺が $${r}$$,高さが $${l}$$ の三角形の面積と同じと考えれば覚えやすいでしょう。事実,$${l}$$ が非常に小さければその考え方は妥当です。

練習問題 半径が $${4}$$,中心角が $${\cfrac{π}{4}}$$ の弧の長さ $${l}$$,および面積 $${S}$$ を求めよ。

【答】$${l=π}$$,$${S=2π}$$

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