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「ギルグリムビースト~獣たちよ、軍靴を鳴らせ~」+第2話(3,754文字)

■場面転換(海上都市実寿みず・ビル前・夕)

アサカがインプに向かい、太股から抜き放った拳銃を撃つ。
一発目、外れ。上空に飛んだインプを、しかし二発目の弾で撃ち落とす。

フレッド「ギネ、領域侵法シャンバラ涙の湖レイク・オブ・ティアーズ』発動!」

修道女の格好をしたギネの体が、淡い水色に光る。
飛びかかってきたインプの真下に湖が生まれ、伸びた蔦がその体を絡めとった。
直後、アーサーの大剣がインプを横薙ぎに切り伏せる。
黒い靄となって消えていくインプたち。
アサカとアーサー、それぞれ武器を片付け、再び主人の下へ。

操那みさな「ザコに領域侵法シャンバラまで使う必要を感じないが」
フレッド「いいじゃないか、別に。ボク自身の魔力を見せる絶好のチャンスだって、ね」
操那「魔力の無駄遣いだ」
フレッド「あのさあ、高校生なら少しは協調性をだね」
操那「行くぞ」

操那はアサカと共に颯爽と先へ進んでいく。天を仰いで溜息をつくフレッド。

フレッド「なんなんだよ、あいつはっ」

金髪を掻いて、フレッドは操那の後ろを追いかける。

■場面転換(海上都市実寿みず・廃墟・夕)

高層ビルが崩れている。瓦礫が道路に積み重なっており、歩道も巨人・イスバサデンの歩んだあとによってひび割れている。
白い軍服とベレー帽姿の救助隊が、瓦礫の下を確認したりしている。
それらの横を通り過ぎ、無表情の操那みさなとつまらなさそうな顔のフレッドは無事だった建物に入っていく。

■場面転換(建物内・夕)

マルシェとなっている内部。それぞれの店舗では菓子や飲み物、食べ物が散乱している。
その中を歩いていく五人。
建物内にひびはなく、地震後のよう。フレッドは近くにあった店舗から、林檎をとって囓る。

フレッド「コトブキ君。今回の敵はウェールズの伝承が相手だけど」
操那みさな「それがどうした」
フレッド「今までの伝承、神話の生き物はさ。全部異害人アウトローだって、世界保全ほぜん機構から見解が出たわけだろう」

操那、返事もせずに周囲を見渡す。
戸棚などの隙間を確認。

フレッド「君たちの……ああ、そうだ、ヤオヨロズ? の神様もそうなのかい?」
操那「知るか」
フレッド「興味がないって感じだね」

フレッドは食べかけの林檎をぽいっと投げ捨てる。
操那は菓子屋の一つに入り、戸棚の隙間にしゃがみ込む。

操那「神であれなんであれ、異害人アウトローなら殺すだけだ」
フレッド「これだから日本人って……信仰心がないってよく誤解されるんだよ」
操那「それも俺の知ったことじゃない」

操那の視線の先、銀色の粉が床にきらめいている。
操那、立ち上がりアサカの方を向く。

フレッド「なんかあったの?」
操那「アサカ。領域侵法シャンバラ、『魂の充満プレローマ』発動」

アサカが両手を組み合わせる。額に浮かぶのは一つの秘密文字――スクリプトゥラ。
刹那、アサカの体が漆黒に発光する。両手を広げれば、たちまちそこら中から黒百合が生え、建物内が花に覆われる。
フレッド、花が咲く天井などを見上げて目を見開く。

フレッド「うわ、何この領域侵法シャンバラ。どこまで続いてるわけ?」
操那「この建物全部だ」
フレッド「はぁぁあ? 三十階はありそうだったけど」
操那「煉獄への誘いカルタグラから逃れた、ここにいる異害人アウトローなら、これで索敵ができる」
フレッド「あ……そう……」

フレッドは引きつった笑みを浮かべ、立ち尽くす。
操那は微かに口角を釣り上げ、日本刀を抜刀した。

操那「どうやら上の階に固まっているようだな。ザコの臭いがする」
フレッド「一つ一つ叩くつもり?」
操那「怖いなら隠れていろ」
フレッド「あのさー」

操那の言葉に、フレッドは怒りの笑みを浮かべた。
近くにある窓の外を見たフレッド。
銀の霧に夕陽が眩しくきらめいている。

フレッド「そろそろ夜だ。夜間の戦闘は禁じられてるはずだけど?」
操那「まだ時間がある。ここのザコを殺すのに時間はかからない」

言って、操那は刀を構えて走り出す。
アサカも拳銃を手に、あとへ続く。

フレッド「この戦闘狂!」

苦々しい顔をしながらフレッドも操那と共に走る。アーサーとギネを従えて。
尋常ではないスピードで上の階へと駆け抜けていく五人。

■場面転換(建物内・オープンエア・夕)

カフェが全部を占める階層。
南国テイストな作りのオープンエア・カフェ内には、椅子などが散乱している。
アサカの魔力により、黒百合の花園と化している状態。
悪魔――インプ十数体と、青白い光の精霊――ウィル・オー・ウィスプが十数体、中央に固まっている。

操那みさな「ふっ」

操那は構わず突撃。
椅子を踏み、あるいは机ごと次々とインプや精霊を斬り伏せていく。
アサカも舞うように、回転しながら二丁拳銃で操那のサポート。

フレッド「あーもう、しつこいなあ!」

フレッドへと飛びかかり、漆黒の魔力弾を投げ付けようとするインプに対し、アーサーが飛び出す。
ギネは水色の半透明な盾を繰り出し、フレッドを守る。
アーサーの背後に回った精霊をフレッドがショットガンで打ち落とす。

操那「これで……最後か」

残ったインプを斬った操那は、刀を収めることなくアサカと背中合わせの格好をとった。
アサカ、ごくごく小さな声で。

アサカ「一体、強いのがいそう」
操那「わかってる」

遠くにいるフレッドが銃を下ろし、肩をすくめる。

フレッド「これで全部? ……っと!」

微かに泣き声が響き、それはどんどんと大きくなっていく。
後ろに大きく飛んで操那と合流するフレッドたち。
黒百合の花弁が舞い散る。すすり泣く声。
ぽう、っと薄紫の人影が、ふらふらと遠くから現れる。

操那「グリモワール。ターゲット解析」

グリモワール『分析中……ターゲット、確認。泣き女バンシーと特徴が一致』

ピアスに仕込んだインカムから答えを聞き、刀を再び構える操那。

フレッド「バンシーか! 精神攻撃に注意だよっ」

フレッドが言った直後に紫の人影が形露わとなる。
赤毛の団子髪に褐色肌、緑の目を持つ女。
ウェディングドレスにも似た純白のドレスをまとっている。

バンシー「……様」

うつむきながらすすり泣くバンシー。
周囲の空間が揺らぎはじめており、その波紋と魔力、風を感じた操那とフレッドは顔を引き締める。
バンシーが顔を上げた。涙で濡れているおもて。

バンシー「タイルング、様ッ!」

絶叫が反響する。椅子や机、周囲にあった小物などが破壊されていく。

フレッド「行けっ!」

ビリビリと揺れる空気の中、無表情を保つアーサーとギネがバンシーへと躍りかかる。

バンシー「ギィィィィィィイイッ!!」

強力な超音波により、壁に叩きつけられる二体。その場に磔になる。

フレッド「アーサー、ギネ!」

振り向いたフレッドの横を操那とアサカが駆ける。
アサカが銃を撃つ。一発目、超音波によって弾かれる。二発目も同じく。

操那「おぉぉっ!」

隙を突いて操那、跳躍。
突きの形で日本刀を繰り出すが――バンシーが咄嗟に、太股にくくりつけていたナイフをかすめ取り、突きを逸らす。

操那「ナイフだと!?」

驚愕した操那を襲うナイフ。
しかしアサカの放った銃弾がバンシーの腕を貫通する。
うっ、と腕を押さえ、後退するバンシー。

バンシー「タイルング様……どこですか、タイルング、様……」

着地した操那が再び襲いかかろうとした直後、バンシーはテラスから海へ落ちていく。
再び光の人影となり、バンシーが銀の靄へと消える。

操那「逃したか」

それを確認し、刀を収める操那。
僅かに視認できる海が、黄昏に染まっている。細波は大きい。

操那(次は殺す。確実に)

海を睨む操那を、アサカは儚げに微笑みながら見た。

アサカ(あのバンシー、誰かと会いたがっている……)

周囲を見渡す操那に、フレッドは肩をすくめて。

フレッド「いや、残念だったね、倒せなくて」
操那「黙れ役立たず」
フレッド「殴っていいかな!?」

喚くフレッドたちから視線を逸らし、アサカは呟く。

アサカ「……人間を殺すことと、どう違うの」
プエルの声(忘れちゃだめだよ)

脳内に響く声に、アサカは一人はっとして。

プエルの声(あの日、君たちの魂は一つになった。元に戻るには契約を守ってもらわないと)
アサカ(あなたは何者、と聞いても教えてくれるわけがないでしょうね)
プエルの声(善意の第三者さ)
アサカ(完璧な善意なんてあるはずがないわ)
プエルの声(そうだねえ。でも、君が操那に秘密にしていることを、こっちは話しちゃいないんだけど)
アサカ(それは……)
プエルの声(なあに、心配しないでよ。異害人アウトローを倒してくれるなら、ちゃんと約束は果たしてあげる)

アサカは、微笑みを浮かべたままで操那を見る。

操那「夜になるか。これ以上は相手の力が増す。一度撤退だな」
フレッド「へー。君ってそういうこと、ちゃんと考えられるタイプなんだ」
操那「アサカ、一度帰るぞ」
フレッド「まーた無視するし」

操那がオープンテラスから身を乗り出し、下へと跳躍する。
フレッド、アーサーとギネも同じく。

アサカ「……全てを知っても私を許さないでね、操那」

呟いたアサカも、下の階にできた黒百合の花畑へと落ちていく。
その面々を、物陰から怖々と覗く青年の姿。

【第2話 完】

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