童話「嫌われ者競争」
「坊主、どっちが人間に嫌われてるか、競争しようか?」
こう言われたのがクネとの最初の出会いだった。いつものようにオイラがゴミをあさっていたときだ。突然だったのでオイラは戸惑った。それに、オイラと全然ちがう姿をしていたことも驚きだった。なにしろ、細長くて手も足もなくて、それなのにクネクネと前に進んできたから不気味だった。あとで母ちゃんに聞いたらヘビという種族らしかった。
あのときオイラは返事もしないですぐに飛び立ったけど、あとから考えて反省した。声をかけてもらったのに無視したことになるからだ。オイラは母ちゃんから「優しい相手には優しく接するのがカラスの本分だ」と厳しくしつけられていた。そのいいつけを守らなかったことになる。
オイラたちが「人間から嫌われている」のは知っている。その理由もわかっている。オイラたちが「カァカァ」としか鳴かないからじゃない。だって、オイラたちの鳴き声を真似している子供を見かけるけど、子供は嫌いなものの真似はしない。
嫌われている理由は「ゴミをあさる」からだ。こう言うと輪をかけて嫌われるかもしれないけど、ヘヘ …実は、嫌われるのを承知でやってんだ…。人間は優しくないし…。
そんなオイラに嫌われもの競争を挑んできたあいつ、クネ…。クネクネ歩くからクネだ。
数日後、空を飛んでいたらクネを見かけた。そのときは首をもたげてイヌとにらみ合っていた。上品そうで大きくてヤセ型のスタイルのいいイヌだった。少し離れたところから飼い主らしき人たちがにらみ合いを見つめていた。オイラは上空を旋回しながら思ったね。
人間は、ヘビを悪モンだと決めつけている。
そりゃそうだ。外見からだけでもグロテスクなヘビといかにも賢そうで人間に従順そうなイヌ。誰が見てもヘビが悪モンでイヌがいいモンだ。
しばらくにらみ合っていたけど、クネが頭の向きを変えてゆっくりとどこかに消えて行った。そのあとのイヌが飼い主に見せた誇らしげで自慢げな表情がおかしかった。でも、オイラは知ってるんだ。本気でクネが戦ったらあのイヌなんてひとひねりだ。
それからしばらく過ぎたある日、ゴミをあさっていたら、またクネが声をかけてきた。
「おい、坊主。嫌われもの競争をしようか」
こう話すとき、クネはいつも笑みを浮かべている。オイラはなんて答えていいかわからなかったから、この前見た犬とにらみ合っていたときのことを話した。
クネは舌をチョロロと出し、すました顔をして笑った。
「ああ、あれか。ちょっとからかっただけだ」
クネの笑顔は近くで見ると、不気味さが倍増する。でも、話し声は外見とは裏腹に真面目そうで優しさが伝わってきた。話しぶりもぶっきらぼうだけど、温かみがあった。
ある日、オイラたちの仲間が人間に捕まりそうになった。人間が仕掛けた網に羽根をからませたのだ。オイラたちは助けようとしたけど、人間が近づいてきて間に合いそうもなかった。
そのときだ。
クネが人間の注意を引くように、人間に向かってクネクネと進んで行った。当然、人間はクネに気を取られ、その隙にオイラの仲間は網から逃れることができた。
翌日、仲間から噂を聞いた。クネが人間に捕えられたらしい。オイラは教わった場所に向かった。檻のような箱に閉じ込められたクネがいた。
「ごめんね。オイラたちのせいで」
クネは遠くを見つめながら舌をチョロロと出しただけでなにも答えなかった。でも、少し間をおいてから言った。
「坊主、嫌われもの競争をしようか」
クネはとぐろを巻きながら笑顔を見せた
「坊主、大人になったら幸せになるんだぞ」
「でも、オイラたち嫌われものだし」
「坊主、オレとおまえの一番の違いがわかるか?」
オイラが考え込んでいるとクネが続けた。
「おまえはゴミをあさってるから、嫌われてるよな。でも、オレは外見だけで嫌われてるんだ。…だから、オレの勝ちぃ」
クネはオイラを励ますかのように勝ち誇った。もちろん、オイラも「嫌われもの競争」で負けてもちっとも悔しくはない。
クネが、オイラたちがゴミをあさっている理由を聞いてきた。
オイラは母ちゃんから教わった理由を話した。
「人間が食べ物を粗末にして、自然や地球に対して傲慢になっているから」
クネはオイラの話を聞き終わると、舌をチョロロと出した。
「坊主、世の中から一番嫌われてるのは…、…人間だな」。
おわり。ありがとうございました。
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