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【LUNA SEA】セルフカヴァ―アルバム『STYLE』全曲レビュー⓪『STYLE』はどのようなアルバムだったのか

◆『MOTHER』全曲レビューはこちらから

◆『STYLE』はどのようなアルバムだったのか

各曲のレビューを書く前に、『STYLE』はどのようなアルバムだったのか、ということを確認しておきたい。
発売は1996年4月22日。
『MOTHER』が発表されたのは1994年10月26日なので、MOTHER発表の一年半後に発表されたということになる。
その一年半の間にLUNA SEAを取り巻く環境は、大きく変わった。
『MOTHER』発表時には全国的に有名になり横浜アリーナ公演まで行っていたものの、SLAVEと呼ばれる核となるファンが中心となる存在だったと思う。
対して一年半後の『STYLE』発表時点では、SLAVEと呼ばれるファン以外の一般層までがLUNA SEAを認知しており、東京ドーム公演も経験し、日本を代表するモンスターバンドの一つになっていたと言える。

作品として、『MOTHER』は前作の『EDEN』の流れを汲み、聖書的モチーフを引用しながら、黙示録のような曲を含む神話的な奥行きと、ROSIERに代表されるロックバンドとしての強さを示すロックナンバーを両立させたバランス作だったと言える。

対して『STYLE』には、柱の一つであった聖書的モチーフは一掃され、前作までの神話的な世界観をLUNA SEAに期待していたファンを当惑させたことを憶えている。音が重く、太くなり、ロックバンドとしての説得力を増しながら、「神話・寓話・世界観」ではなく「人間」にフォーカスを当てる『STYLE』は、重厚でそれまでのLUNA SEAを一気に塗り替える転換点となる作品だった。

思うに、『EDEN』『MOTHER』までの聖書的世界観は、彼らが「音楽でどんな世界観を描きたいか、見せたいか」に素直に表現制作を行ってきた作品ではないだろうか。
そしておそらく『STYLE』において彼らは「今、LUNA SEAは何を作るべきか」に真剣に向き合い、その結果として誰も想像できなかった重厚でソリッドな『STYLE』を制作するに至ったのだと思う。

東京ドーム公演を成功させる規模のバンドは、彼らの作品に多くの人が関わることは想像に難くない。多くの人が関わり、多くのファンに期待を受け、多くのお金が動き、彼らは「LUNA SEAをどのように続けていくか」という問題を彼ら自身の「やりたいこと」だけではなく、「やるべきこと」として向かい合う必要があったのではないかと思う。

結果、『MOTHER』の1曲目に置かれた象徴的な名曲『LOVELESS』に対して、『STYLE』の1曲目には対義語である『WITH LOVE』が配置された。
愛のない世界を憂いた『MOTHER』に対して、愛について近距離で歌う覚悟をしている『STYLE』とも言えるかもしれない。

正直な話をすると、私は『STYLE』がそれまでの神秘的な世界観でなかったことに驚き、ロックバンドとしてのLUNA SEAから距離を取った女子高生だった。SLAVEを自称できるほどまじめなファンだったという訳ではない。ただ、思春期に『EDEN』『MOTHER』を何百回も聴き、彼らの描く世界が好きだったというだけだ。
今考えてみると、『STYLE』で描かれた世界は、高校生の自分は何が描かれているのかということさえ、ちゃんと理解できていなかったようにも思う。
今回の『MOTHER』『STYLE』のセルフカヴァーアルバムリリースと、DUAL ARENA TOUR、それに先駆けた『LOVELESS』『G.』のMV公開などで、当時「あまり私の好みじゃなかった」と思っていた『STYLE』がいかに格好良く、凄みのある傑作だったのかということを、30年近い時間を経て今更に理解し、思い知ったというのが率直な感想である。

大人になって、今回のセルフカヴァー『STYLE』を聴き、DUAL ARENA TOURで初めて実物のLUNA SEAを見て、格好良すぎで腰を抜かした。

1996年、LUNA SEAは『STYLE』を発売した年の12月23日に「UN ENDING STYLE TOUR FINAL Christmas STADIUM~真冬の野外~in 横浜スタジアム」を行い、一年間の充電期間に入った。
『STYLE』発売直後の7月ごろから活動休止の話し合いが持たれていたということからも、『STYLE』がいかに苦しんで制作された作品だったのかということが伺い知れる。

今回のDUAL ARENA TOURで、実際に『STYLE』の楽曲が演奏されるところを初めて見ると、それぞれのメンバーが『MOTHER』よりも隙間を埋めるように、できる技術を持ち寄っていることが見て取れた。そのことも含めて一曲ずつレビューをしていこうと思う。

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