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【LUNA SEA】セルフカヴァ―アルバム『MOTHER』全曲レビュー⑥AURORA⑦IN FUTURE⑧FAKE

◆AURORA

AURORAは、LUNA SEAのファンではない人に、恐らく最も「LUNA SEAらしくない曲」と言われるだろうな、と思う。
一般に認知されているLUNA SEAは、多分にROSIERであり、TRUE BLUEであり、DESIREであるだろう。その他シングルもそれぞれにロックバンドとしての華やかさのあるものが連なっている。

ノイズの入る導入から、「汚れのない愛があれば」という仮定で、一時に曲が始まる。
一瞬で優しく柔らかい音世界に包まれる瞬間は、水の中に潜ったときのようだと思う。

近付きたい 近付けない キミよ 夢を見てる?
汚れのない愛があれば

僕の罪が 過去が許されれば
真っ白なキミに 近づきたい

原曲よりも柔らかく優しさを増したRYUICHIのボーカルが中央に在る。
それを取り巻く音たちは、柔らかく歌の背景を包んでいく。
暖かな鼓動を思わせる強すぎないドラム。
言葉の背景で脈打つような暖かさのあるベース。
吹き抜ける新鮮な空気のようなギターの歪み。
重ねられるギターのカッティング。
丁寧な音の重なりが、音の見せる幻の視界の奥行きを深く深く描いていく。

近付きたい 近付けない 何も知らないキミ
汚れのない愛はあるの? きらめいて

サビはおそらく「Oh-oh-oh-oh-oh」とされる部分になるのだろう。
それだけでもこの曲が型破りであることがわかる。

やりきれない思いは何処から来るのだろう
近付けはしないんだ 傷つけたくない
心をえぐるような痛みは何処から来るのだろう
夢で終わってもいい キミの為なら

サビ終わりの突然の転調に、歌を取り巻いていた空気の色が劇的に変わる。
ドラマチックなドラミングに重ねられるノイジーなギター。
それがまた幻のようにかき消えて、再び元の柔らかく優しさに満ちた情景に戻る。

個人的なイメージでこの曲は淡い桃色のスモークが歌を包んでいるように思えるのだが、甘い情景で夢を見続けているというよりは、その時々で現実に引き戻される不穏な冷たさが差し挟まれるという感触がある。

今キミが微笑んでいる 僕は夢を見てる?
汚れのないオーロラの様 きらめいた

最後の象徴的なフレーズは、これまでより一層、クリアトーンの高音のギターがちらちらと舞う光のようにメロディーの上を浮遊する。
恋愛の歌というよりも、一貫した祈りの歌、だと思う。
汚せない大切な存在への忠誠を誓うような。冷ややかな現実が差し挟まれつつも、その祈りは揺らがず終曲を迎える。

大人になって気付いたけれど、この曲の「キミへの愛」は恋愛というよりも、親から子への愛情なのかもしれないなと思う。

◆IN FUTURE

鼓動の音から左右に走る音波のような音。
静かに高まっていく温度。
象徴的な鮮やかなギターリフが視界を遮る。
「irritated night」の叫びを合図に始まる怒涛のバンドサウンド。
この新録版MOTHERを聴いたとき、一連の導入が格好良すぎて鳥肌が立ち、呆気にとられた。
ギター二人が激しくかき鳴らす音がぼやけず独立して、それぞれの音像で一枚の絵が描かれていく。

コノ胸ノ高鳴リガ覚メテシマワヌ様ニ
真夜中ノ幻ニ埋モレタ声ガ張リ裂ケルマデ
Rude Boy

ボーカルのすぐ裏で強く響くベース。
ノイズに徹するギター。間奏になって、もはやギターではないような音を響かせる。

振リ向クコトハ二度トデキナイ 冷メキッテシマウ
燃エ尽キルノカ IN FUTURE
死ニ絶エルノカ IN FUTURE

終ワラナイ夢ヲ見ルコノ夜ニ包マレテ
終末ニSERENADE 新シイ月ノ下デ

終わらない~ に重ねられたコーラスはJだろうか。
息を吐く隙もないままの勢いのままのサビ、そして迎えるギターソロ。
耳に神経が集中して体がこわばっていくのが分かる。
ギターソロが繊細で強く華やかで、白く差し込む月の光みたいだ。
手品のように鮮やかなソロの収束からのギターリフ。
そしてシンバルからの導入で歌の導入。

加速スルDIGITALノアリフレタ夢ノ果テ
退屈ナ戯言サ コノ今ヲ焼キ尽クセ今スグ

震エルホドノスリルノ中デ
焼キ尽クセ全テヲ

燃エ尽キルノカ 死ニ絶エルノカ
バラバラノ心ヲ抱イテ

この曲が発表された当時、1994年は世紀末が近づきつつある時代だった。
本気でノストラダムスを信じていたわけではないけれど、もしかしたら本当にあと数年でこの世が終わるのかもしれないとみんながなんとなく心のどこかで思っていたような時代だった。
終末的なモチーフが流行して、将来のことを考えない刹那的で享楽的な生き方が支持されて、まじめに努力するのはバカと言われて、みんな少し冷笑的な時代だったと思う。
その時代に描かれた現代/近未来の聖書的な曲たち(ROSIERもCIVILIZEもそうだと思う)は、皮肉にも2023年に当時よりも2023年の現代にふさわしい曲として蘇生された。

現代は、当時のような冷笑的な冷たい絶望はなくなったものの、努力に重きが置かれるため各々の一層の現実を突きつけられ、余裕から来る甘えが許されないドライな時代になっていると思う。それは予言の通り「加速するDIGITALのありふれた夢の果て」であるのかもしれないとも思う。

この曲には主観が含まれていない。LUNA SEAの描く黙示録なのかもしれない。

アウトロ直前の

燃エ尽キルノカ 死ニ絶エルノカ バラバラナ心ヲ抱イテ

の箇所の、重ねられるコーラスの絶叫に耳を傾けてほしい。

◆FAKE

重ねられる音がトリッキーで多様で華やか!
なのに一つの曲のまとまりに収束しているのは通底するベースが背骨となっているからこそだろう。

キミだけは惑わされないで 自分見つめて
キミだけは大切なこと 抱きしめていて

嘘も真実もない その目で確かめて 今

太陽はキミを ビルを この街を
噓  真実を染めていく 同じ色に
太陽はキミを ビルを この街を
嘘 真実の全てを見下ろしている

この曲に至ってはギターソロというよりも、ベースソロかもしれない。

愛するということも 自由ということも
真実ということも 噓ということも
嘘も真実もない その目で確かめて
FAKE TOMORROW

太陽から今 逃げろ この街は
嘘 真実が染められ 分からないよ
太陽から今 逃げろ この街は
嘘 真実の全てを見抜かれている

内容を改めて見返すと、FAKEは一曲前のIN FUTUREに対する返歌にも見える。
黙示録的に描かれたIN FUTUREでは「焼キ尽クセ全テヲ」「燃エ尽キルノカ死ニ絶エルノカ」と歌われた情景に対し、FAKEでは「キミだけは惑わされないで」「その目で確かめて」と促される。太陽が嘘と真実の全てを見抜いているというのは、太陽を神に見立てた信仰で古来から人間が本能的に信じてきた教えではある。

終盤の歌に重ねられる象徴的なアルペジオとコーラス。
「見抜かれている」の言葉の直後の呆気ない収束。
大切なことだけを伝えて、潔く終わりを迎えるというように。

続きます


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