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【zzzpeaker/テコの原理】グルパリ君という才能と「テコの原理」というバンド

応援しているバンドがある。「テコの原理」というバンドだ。
行けるタイミングでライブがあれば、足を運ぶようにしている。

グルパリ君(現・zzzpeaker君)はバンド「テコの原理」のボーカルであり、個人で活動するSSWでもある。
この記事を読む人の中にも、彼が都内の各所の路上でギターを持ち、ひとりで歌っている姿を見たことがある人は居るかもしれない。
私自身、残業後に渋谷を夜9時過ぎに歩いていたところ、閉店後の銀行の前で彼がひとり、誰に向けるとでもなく歌っている姿を見かけたのが、彼を知ったきっかけだった。

路上で歌っている人に対して、基本的に私は目を合わせず、通り過ぎることにしているのだが、彼の風体と断片的な声(渋谷の駅前の喧騒で、正直曲のレベルまでは認識できなかった)にひっかかりを覚えて、貼り付けてあった看板代わりの紙に書いてあった「グルパリ」という名前を写真に撮って帰ったのが、きっかけだ。
例えばあの日、私が悩んでいたり、疲れていたり、腹を立てていたり、別のことで頭がいっぱいだったりすると、彼の才能を通り過ぎてしまっていただろうと思う。

その数か月後、ふとその時のことを思い出し、写真に撮った「グルパリ」という名前を頼りにTwitterのアカウント(現在は削除済み)を見つけて、直近のライブに足を運んでみた。

グルパリ君の個展と併せて開催されていたそのライブは、室内の壁いっぱいと、天井から垂らされた布や紐など彼の作品があふれるギャラリーの一角で行われた。
その時の、空間の歪み具合がとても印象的だった。

グルパリ君は、音楽に限らずいろんなものを作る。
歌詞に限らない言葉も書くし、絵も描くし、染色やブリーチ、印刷を駆使して服も作る。
個展で展示されている作品、そこに書かれた言葉、ライティングの影響もあるだろう。閉鎖的なギャラリーの床の、作品の物陰になるようなそこここに客は座り、中央で歌う声とギターの音に耳を傾けていると、曲によって空間がねじれていくのを見ているような気持ちになった。

グルパリ君の一人でやる音楽を一つ紹介するとしたら、MVも含めて「季節も天気も忘れさせてくれるところ」を選ぶ。
季節も天気も忘れさせてくれるところ

あの個展の空間の中で見た、彼の作品の中で体験する空間のねじれと、どこまでもまっすぐに刺さる祈りのような純度が思い出されるいいMVだと思う。

「季節も天気も忘れさせてくれるところ」に行ってしまったのかもしれない『ロックンロール』という名前のいなくなった動物を探す、という歌なんだけど、このMVを見るたびに苦しくなる。
死んでしまった実家の犬や、もう会うことのできない猫たちのことを、思い出す。
死んでしまった存在を「季節も天気も忘れさせてくれるところ」に行ったというのは、なんてきれいな解釈なんだろう。ロックンロールという名前なのがまた好い。音楽自体のことを指しているようでもあるし、彼自身の音楽志向とも思える歌詞とも思えるし、「ただの名前ですよ」と言われてしまうと「そうなのか」とも思える懐深さがある。

「愛なんていらねえよ オールシーズン 吐いたセリフの後 誰かを傷つけて」
「同じ気持ちなら恥ずかしい 違う気持ちでも恥ずかしい」
「誰かをずっと待っていたよ 僕はずっと傷つけたかった」
「窮屈だな この世界はほら 酸素が奥まで入ってこないよ」(ランタナ)

「ずっと考えてたんだ きっと分かり合えるって」(my shadow was light)

「もう一回 僕を信じてよ 自分中心で全然構わない」
「I’m with me 誰もが皆 自分のことは手離せない」(I'm with me)

彼の個人の音楽は、世界の濃度が濃く、純文学の匂いがする。
グルパリ個人のライブに足を運ぶと、彼を取り巻くように座り、息をのんでその動向を見守るファンの姿を見ることができる。
揺れる照明。差し込む影。空間の中のそんなものまで味方につけて、グルパリ君が歌う歌はやはり空間の中を濃密にねじれさせていく。彼の存在自体が文学で、生き様がハードコアを体現していると言っても間違いではないと思う。

※タワーレコードの紹介ページがあったので貼っておきます。


※全国流通でCDが出ています。

グルパリ君個人の活動のハードコアさに対して、彼がボーカルを務めるバンド「テコの原理」は、幾分印象が柔らかい。

バンド構成としては、ボーカルのグルパリ君、ベースの教祖さん、を中心とした4人である。ドラムの人は時々変わる。ギターの人も時々変わる。
歌うというか。歌詞を読むというか。これは音楽の形を借りた祈祷に近いんじゃないかと思う。

演奏はする。曲もある。
ただ、曲というベースメントの上に、砂上の楼閣としての即興演劇のような一度限りのものが現出する。
「ライブってそういうことでしょ?」と思う人も居るだろう。
平たく言えば、そういうことなんだけど。
ライブがライブである必要は、「その時、その場でしか見られないもの・演奏・空間」だと思うので、言ってしまえば、テコの原理はライブで見る理由の強いバンド、ということになる。

さっき演劇と書いたが、別に寸劇を見せられるわけではない。
ボーカルのグルパリ君は歌詞に沿って歌う。
歌うというか。
歌う、でいいのか。
ハッキリと発声されて、意味を伴う言葉が歌として、耳に届く。
優しさに満ちた言葉が、ふいに届くと驚いてしまう。

「何もない振りするなよ 本当の君の気持ちを知っているわけじゃないけど」
「無理して笑わなくたっていいのに」「おやすみなさい」(おやすみなさい)
「季節の変わりめ、体こわさないでね」(春夏秋冬)

「時代が時代だ なんて言うなよ」
「走れ走れウォークマン 歌えウォークマン」
「鳴らせここで 響かせろ今を」(ウォークマン)

「光ってる街の色 渋谷に於ける夜景」
「そんな花模様だった」(花模様)

花模様は、初めて海外の街を歩いた時の気持ちを思い出す。
友人に会いに行ったベトナム・ホーチミンは、気温が37度で私はすぐに熱中症になった。
ゆっくり走るバイクが、信号のない道を埋め尽くすほどに走る。空気の匂いが日本と違う。路上で座ってくつろいでいる人たち。見たことのない植物。屋台。
ホーチミンでは3日くらい過ごした。夜中に海外旅行者が溜まる安宿街のホテルを出て、ライブハウスのような音量で音楽をかけている飲み屋の通りを歩いて、友人に連れられて路地裏のフレッシュジュースの店に行った。
あふれるようなネオンと音と色。
「光ってる街の色」だ、と思った。

同じく、夜中にホテルの外へ出て、景色を見ながら煙草を喫っていた時の「日常から離れた遠くにいる」という実感は、「ロンググッドバイ」という曲に重ねたけれど、残念ながらYouTubeになかった。
これらの曲は、テコの原理のライブ会場で手売りで売っているCDの中に含まれている。私はそれらの曲をiPhoneに入れていた。
(CDはこちらで参照可能)

「東京で何も成し遂げられなくても ずっとここにいるんだろ 平気な顔してんだろ」
「実家に帰れ 実家に帰れ 実家に帰れ って母親と妹とペットに言われた」(実家)

地方出身者にぜひ聴いてほしい歌がこれです。
急所を刺されたみたいなつらさがあります。純文学だと思う。

グルパリ君の曲も歌もそうだし、イラストやデザインも素晴らしいと思うので、もっと遠くの人に届くといいなと思います。
そして創作に集中して、グルパリ君が充実して過ごせるといいと思います。

LINEスタンプも最高なので見てください。40個あるけど抜粋で。
個人的には「やらねえとやられる」「最高」を多用してます。

キャプチャ

欲を言えば、作る服がパルコにショップとして入ってほしい。


スペースシャワーとかでMV流すといいと思うよ本当。

とりあえずは、サブスクに曲を入れて欲しい。

カラオケにも入ってほしい。実家歌いたい。

どこかマネージメント付いてあげてほしい。

面白かったのでこれも貼っておきます。何してるんだ。



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