見出し画像

言葉定義の無理解は思考を曖昧にする(3)改善、改革、変革

表題目「言葉定義の無理解は思考を曖昧にする」の第3回目は、
 改善(improvement)と改革(innovation)、変革(transformation)
の違いについてです。
第1回目(目的、目標))(第2回目(アクシデント、インシデント

● 大まかな意味の違いから ●

ざっくりとした違いを言うと、

改善(improvement)
現状に立脚し、悪い所を良い方向に直していく。
規模の大きさ等によっては現在の状況を否定して作り変える場合(e.g.やり方、内容他)と、現状の進化版である場合の2通りがある。

・改革(innovation)
一般的には現状方式の大きな変更、スクラップ&ビルドになることが多い。
いずれにせよ、現状に立脚する(現状からスタートする)。

・変革(transformation)
改善、改革と異なり、発想の転換を行う。必ずしも現状から発想しない。
多くの場合は現状と全く異なる考え方を導入する。

順に見ていきます。

● 改善(improvement) ●

「かいぜん」と聞いて誰もが思い浮かぶのが、トヨタ自動車の「かいぜん(英語ではKAIZEN)」でしょう。
実は、同社の説明では、
   かいぜん、KAIZEN(continuous improvement)
        ≠ 改善(improvement)
としています。
2022年度英文統合レポートP32,P46)

前述のように、「改善(improvement)」は現状に立脚し、悪い所を直していく、という手法なので、「問題解決アプローチ(手法)」に近いです。
(「問題解決手法」については、元コンサルタントのつぶやき(2)
 正しい考え方、伝え方の心得<その2>
 を参照してください)

悪い点があったら見直していく。
例えば卑近な例でいうと、、、
電卓で何十行もあるような足し算をしていると(PC入力でも良いです)、どうしても入力漏れを起こしてしまう。そこで入力している行に定規を当てて、入力する都度下にずらして抜け漏れがないようにする、といった手法改善などです。
(経理部門では当たり前のようにやっていることですが)

日常の多くの活動が、問題解決手法(問題の切り分けと問題対応・対策)で対応できるように、これはこれで重要な手法です。

但し、上述のようにトヨタ自動車のKAIZENはここに留まらない、という意味だと思われます。単に、この問題解決手法を繰り返していく(continuous)のではなく、改善(improvement)を繰り返してある時点からは現状と異なる考え方に至るような改革(innovation)に近いと思われます。

● 改革(innovation) ●

改善と異なり改革は、現状をよりどころにして考え、現状の打破を伴うことが多いです。もし、この考え方通りに言葉が選ばれていれば、
 税制改革
 働き方改革
 農地改革
などにおいては、改革の結果、現状と異なる制度や考え方に辿り着きます。

哲学者の言葉を持ち出せば、ヘーゲルが弁証法であげた内容に該当するかと思います。
 現状(正:テーゼ)に対し全く異なる事(反:アンチテーゼ)を考える。
 その対立する2つを勘案して(止揚:アウフヘーベン)、
 ジンテーゼ(合)を編み出す。
 ジンテーゼを正(テーゼ)として、反(アンチテーゼ)を考えて、
 ジンテーゼ2を編み出す…

これも卑近な例を挙げれば、、、
メニューにカレーがある(テーゼ)。とんかつもある(アンチテーゼ)。
どっちも食べたい人がいる(対立)。
カツカレーを作ればよい(アウフヘーベンー>ジンテーゼ)。
こんな例だとヘーゲル先生が怒るでしょうが、イメージはこんな感じです。

トヨタ自動車が「かいぜん(KAIZEN)には終わりがない」と言うのはこういうことを意味していると私は思っています。

● 変革(transformation) ●

改善(improvement)では、「問題解決手法だ」と書きました。
変革(transformation)は、「課題解決手法」と考えるのが妥当です。
(「課題解決手法」についても、元コンサルタントのつぶやき(2)
 正しい考え方、伝え方の心得<その2>
 を参照してください)

現状A・B・C・D…と複雑な状況がある。
各々のアンチテーゼを考えてジンテーゼを考えても、トータルではまとまりが無くなる。
そこで、すべてを網羅的に解決するためには、何を課題と認識して解決に向けて進むべきかを考える。
これは現状事実から考えているものの、多くの場合は現状と全く異なる状況を考えることになる。
といった手法になります。

例を挙げると、、、
受取手形、支払手形の処理が大変でしょうがない(物理的な金券であるために管理の厳格さが必要になるし、取り立て依頼や割引などの事務処理が大変)。
なんで手形を止めちゃダメなのか? 受手は支払い条件の変更と振込処理の利便性を追求した方法に変えることを顧客と交渉できないか? 支手は割引されて資金繰りに回されているのであれば、受手と同様に支払い条件変更を顧客と交渉できないか?
等々の検討となります。

2000年に入るまで(またはそれ以降も)社内の事務工数削減のためにBPO(Business Process outsourcing)ということが盛んに提唱されました。

BPOは、外部に業務委託することで、
・固定費の削減
 (従業員の福利厚生等が発生しない。場合によっては労働単価も下がる)
・効率性の追求
・効率的なスキルやノウハウの伝授、導入
 (他社や先進企業のベストプラクティスを導入しうる)
・継続的改善活動
 (社内だとルーチンとして延々と続けてしまう手法を見直しうる)
などが狙いとされます。
前述までの考え方で言うと、
 BPO = 改善~一部改革の要素
と言ったところでしょうか?

これに対して2000年代以降は、BTOが登場しました。
これは言葉の通りT(transformation)を伴うので、最終的には業務の根本的な見直しが目的で、目標(ゴール)にはBPOでなしえないような大幅な工数削減、効率化などが置かれます。アウトソーサーのオファーメニューなどでは、
 BPS(Business Process Service)
といった言い方もされますが、変革を目的にする点では、BTOの方がより分かりやすいと思います。

しかし、問題解決アプローチに対して課題解決アプローチは難易度が高いのと同様に、BPOに対してBTO(BPS)は難易度が高いです。
BTOの導入に入る前に変革内容を考えてあったとしても(仮説解決アプローチを使い、解決仮説・検証・解決策まで練っていても)、実行してみると上手くいかない点は出てきます。

するとアウトソーシングで業務継続しながら、変革の方法、ステップなども検討する必要が出るために、当事者(委託者・受託者)が丸投げ・丸受け感覚で始めると、単なるBPOで終わることが多いです。

変革(transformation)は企業の進化には欠かせませんが、非常に困難なことだと理解すべきです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?