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承06 「共感」と「アート思考」で路線バスを救いたい

◆サマリー

今回は、前回に輪をかけて、長くなってしまいました。そこで、今回も、冒頭にサマリーを置きたいと思います。ご興味をもたれたら、読んでいただければと思います。
今回は、路線バス運転手不足の問題について、低い報酬、劣悪な労働環境など、外発的な動機付けばかりが、原因として挙げられていますが、内発的動機付けにスポットを当てることで、この問題を緩和、解消することはできないかと考えてみました。
その結果として、以下の内容を提起させていただきました。
・バス運転手という職業が嫌になる原因ばかり探しても、片手落ち。積極的に、運転手になる、魅力を考えなければならない。
・ネットワークとキャリアパスを築くことで、新たな魅力を生み出す。
・バス運転手にも、予備役、臨時、パート様々な働き方もあっていいと思う。そして、それにより、手の空いている人が、足りないところを補い合う社会ができる。

◆今、路線バスが苦しんでいる

路線バスの廃業、路線廃止が、問題となっています。その原因は何でしょうか?
そして、それは、「共感」で、解決することはできないでしょうか?今回は、それを考えてみたいと思います。
ネットやテレビのニュースの情報によると、地方の過疎地区だけでなく、比較的、利用者の多い都会のバス路線にも、廃止、減便の危機が迫っていると言います。その一つの表れが、大阪郊外の金剛バスの廃業です。
一般に、路線バスの廃止、減便の原因には、事業収支が合わないことと、運転手不足が挙げられます。
高齢化、過疎化の進んだ地区では、利用者が減り、事業収支が合わないという路線も多いようです。
しかし、大阪の金剛バスのように、朝晩はほぼ満員という、利用者が、決して少なくない路線でも、廃止される路線が出ています。その大きな原因は、後者の運転手不足にあるようです。
その運転手不足は、少子高齢化で、働き手が減り、成り手が減っているのに加え、報酬水準も、大まかに言って、他の業界と比較して低く、しかも、運転手不足が原因で、不規則、長時間勤務など、さらに過酷な労働環境になるという悪循環にあるようです。さらに、2024年には、働き方改革関連法が施行され、残業時間が制限されると、運転手不足が、一層深刻化するといわれています。かといって、不足する運転手を補うために、その報酬を大幅に上げるとするならば、今度は、事業収支が危うくなります。

◆なぜ、運転手不足が起こるのか?

運転手不足の主な原因は、上述したように、報酬低さと劣悪な勤務条件と言われていますが、本当にそれだけでしょうか?私は、まず、そこを疑いました。
というのは、報酬の低さと劣悪な勤務条件は、ともに、「衛生要因」(*1)、自己決定理論(*2)でいうならば、「外発的動機付け」であり、それらは、運転手が退職する、あるいは、就職するのを敬遠する原因にはなっても、運転手を希望する理由、魅力にはならないと考えられるからです。
もちろん、運転手が、大量に辞めていけば、当然運転手不足は起こります。そして、実際に、運転手の退職に悩んでいる事業者もあります。
しかし、運転手を増やすためには、バス運転手という職業を、積極的に希望する人を増やすことが重要で、そのためには、「動機づけ要因」あるいは「内発的動機付け」(自律性、有能性、関係性)が必要になると思うのですが、そもそも、それを備えているのか?考えられているのか?という問題があると思うからです。
以上の考えに基づいて、ここからは、バス運転手として働く、「内発的動機付け」(=モチベーション)が高まれば、運転手不足は、解消、緩和されるのではないかとの仮説を基に考えていきたいと思います。

*1「衛生要因」
仕事に「満足」をもたらす要因を「動機付け要因」、仕事に「不満足」をもたらす要因を「衛生要因」とする理論
https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-11912.html
*2「自己決定理論」
他人に指摘されて行動する(非自己決定)ところから、自発的に行動する(自己決定)に至るまでの道筋を表した理論
https://coaching-guide.jp/column/jikoketteiriron/

◆バス運転手の希望者を増やすために

バス運転手という職業に対する「モチベーション」を高めるために、自己決定理論に従えば、「自律性」(仕事を自分の意志でコントロールできる状態)、「有能性」(自分に能力が十分にあって、誰よりも優れていると感じられる状態)、「関係性」(周囲の人から自分に関心を持たれていると実感できる状態)を高めていく必要があるということになりますが、あわせて、「モチベーション」から一歩高めて、バス運転手をすることが、「幸せ=ウェルビーイング」に繋がるという観点からも考えていきたいと思います。
そこで、以前にも、何度も書いています、「幸せ」の4要因「自己実現」、「関係性」、「挑戦」、「個性」との関連についても、触れていきたいと思います。

◆自律性について

公共交通機関であるバスの運転は、多くの人の命を預かる行為であり、安全的要請から、運転手が、自分流のやり方で勤務を進める裁量は、ほとんどないと考えた方がいいと思います。それでも、バスの運転手になるということには、自分の主体的な意志が反映され得る部分です。つまり、自ら進んでやるのか、それとも、仕方なくやるのか?
そこには、まず、バスの運転手という職業に求めるものが、大きく影響を与えるものと思います。すなわち、それは、「自己実現」に他ならないと思います。バスの運転手となることで、バスを運転することで、「自己実現」に達することができるのかということです。
例えば、純粋に、バスが好き、バスの運転が好きという人には、バスを運転することが、「自己実現」につながることでしょう。その場合、バスが運転できる環境が重要で、その上で、いくら、好きなバスを運転できても、生活ができなければ、健康を害してしまえば続けられないので、衛生要因が、許容範囲内に抑えられることが必要となります。
例えば、バスの運転手に生活の糧のみを求める人には、十分な動機づけとなるような、他と比べて、かなりレベルの高い報酬が必要となるかもしれません。
例えば、シェフになるために、下働きをするように、政治家になるために、秘書をするように、バスの運転手という職業を通して、自分がやりたいこと(「自己実現」)に近づくことができるのであれば、それも、モチベーションにつながることでしょう。これについては、後ほど、少々詳しく述べたいと思います。

◆有能性について

バスの使命を考えれば、安全で、正確であることが、最重要だと思いますので、どこのバス事業会社でも、社内で、それらについて、無事故や無遅刻、無欠勤などの表彰はあるだろうと思います。しかし、沿線、自治体レベル、利用者を巻き込んだ形のものは、聞いたことがありません。閉じた世界で評価されるのも、うれしいとは思いますが、より開かれた、より多くの人から評価されれば、よりうれしく感じ、結果として、やる気が増すことになるでしょうし、さらに、評価してくれた人たちのために頑張ろうという気にもなるように思います。もしかしたら、運転手個人の記録、表彰を、もっと広範囲、公的なものにすることが、運転手さんのプライドをくすぐるかもしれません。
また、利用者から評価されることが、もっとも重要なことだと思いますので、利用者の感謝が、運転手さんに伝わるシステムを導入することが、運転手さんの評価、有能感につながるのかもしれません。

◆関係性について

バスが遅れた時に、罵倒のようなクレームを受けて、運転手が、精神的にまいってしまい、やめてしまうという話も聞きます。
もし、運転手が、自分にとって親しい人、友人などだったら、そんなことするでしょうか?そうでなくても、もし、少しでも、運転手の気持ちを考えることができるのなら、それが正しいことだと考えるでしょうか?
運転手も人間です。罵倒されれば、「この野郎!」と思うでしょうし、逆に、渋滞で、イライラしている時などに、ねぎらいの言葉をもらえば、その人のために、もっと役に立とうと思うのではないでしょうか?そういった関係を、運転手、利用者、事業会社の間で作れれば、いいのではないかと思います。
そして、そういった関係ができ、発展していけば、利用者や事業会社が、それぞれの運転手に寄り添い、そのやりたいこと、夢の実現に協力することになることがあるかもしれません。何しろ、利用者は、何千人、何万人といるわけですから。
そして、もし、そういった関係性が作れるとするならば、多くの運転手のモチベーションは、程度差こそあれ、上がるのだろうと思います。

◆では、今、何をすべきか?…バス運転手という職業を超えて

ここまでは、論理思考で考えてきました。そして、ここからは、私の個性、強みが表れる部分、アート思考を投入していきたいと思います。
まず、結論から言うと、バスの運転手を、もはや、単なる職業ではなく、地域の重要な役割を担う一員という枠組みで捉えましょう、と提案したいと思います。そして、社会、エリアに、そうなるべく仕組みを作っていくことで、この問題を解決、緩和できないかと考えています。
このことについて、少し具体的に書いていきたいと思います。

◆路線バスの運転手とは?

まず、路線バスの運転手をすることの、いい点について、私なりに、考えてみたいとと思います。
最初に思い浮かぶのは、当たり前ですが、運転がうまいということ。
ついで、同じエリアを毎日のように運行しているので、そのエリアについて知る機会、さらには、毎日、お客さんを乗せているので、その乗客、そのエリアの人々のことを知る機会があることが考えられます。
では、これらの、いい点を生かしていくことは考えられないでしょうか?それが、私の、今回の提案のキモになります。

◆まずは、感謝の通じる関係の構築から

バスの運転が好きでしている運転手で、あまり人とは関わり合いたくないという人もいるかもしれませんが、それでも、例えば、渋滞の時に、「大変ですね、ご苦労様です」と乗客から言われたらどうでしょうか?嫌な気はしないと思いますし、もう少し、頑張ろうかという気になれるのではないかと想像します。
そして、その積み重ねが、関係を作っていくのではないかと思います。問題は、それをどう作るか?ですが、そこで生きてくるのが、「共感」だと思うのです。
お互い、まずは、自分のことをさておいて、相手のことを考える習慣をつけることで、相手への理解、共感が醸成され、少なくとも、ひどいクレーム、罵倒はなくなるでしょう。それだけでも、今より、働きやすくなるだろうと思いますし、共感が深まれば、さらに、相手が喜ぶことは何かを考え、行動するようになるのではないかと思います、いや、そうあってほしいと思います。
そこで、まず、しなくてはならないのが、誰もが、「共感」を発動する仕組みを作ることです。
最初は、直接の声掛けを意識することでも、感謝カードでも、運転手さんに感謝を表すアプリでもいい、小さな「感謝」を通した交流の仕組みから輪を作り、バス運転手と利用者とが、顔の見える形へと、深め、広げていけたら、素晴らしいなと思います。
そのためには、仕組みを普及させるための発信力が必要になりますので、事業会社の積極的な参加が必要になると思います。
もしかしたら、バス車内で、業務案内や広告とともに、運転手のプロモーションビデオを流したりするのも、ありかもしれないですね。

◆運転手の先のキャリアパスを

ここから、バス運転手を通して得た、エリアの乗客との関係、目で見たエリア情報などを生かすことを考えていきます。
バス運転手をして得たものを生かして、自分のやりたいことを見つけ、それを実現することができたら、それは、まさに、「幸せ」の4要因のうちの「自己実現」を満たすものになるでしょう。そこに、利用客、エリアの人々の協力があれば、「関係性」も満たされます。加えて、きっと、その人なりの「個性」が生かされ、「挑戦」がなされ、「幸せ」の要因を満たすものでもあると思います。
例えば、そのエリアの状況や人に詳しければ、月並みですが、その知見、経験を、政治、都市計画などの分野に活かせるかもしれないですし、ビジネスにおいても、エリアニーズの理解に生かせば、営業や企画的な業務で力を発揮できるかもしれません。
また、発信力を備えられたら、コアとなって、スポーツのクラブチーム、バンドなどを結成することができるかもしれません。
そして、そういった交流から、バス運転手の次のキャリアパスが生まれ、発展するよう、地域社会だけでなく、大学など教育研究機関と連携して、プログラム化されるなどするといいと思います。
私ならば、自分のやりたいことや夢の実現につながるだろうという確信があれば、バスの運転手をやってみようと考えるだろうと思います。バス運転手から、ロックミュージシャンというキャリアパスも、あったら、面白いと思います。
もちろん、同時に、純粋にバスの運転が好きな人に対しても、できるだけ、「衛生要因」を整え、働きやすい職場を作っていくことで、その働きに応えていかなくてはならないと思います。
しかし、少なくとも、今後は、そうでない人にも、運転手をやっていただかなくては成り立たない世の中になっていくだろうと思います。

◆そして、狙うは、若い層

2021年度に厚生労働省が公表した賃金構造基本統計調査によると、バス運転手の平均給料(年収)は約403.9万円でした。
調査設計が異なるので、単純比較はできませんが、令和3年度に行われた国税庁の調査によると、日本の平均年収は443万円です。また、2022年に実施された「国民生活基礎調査」の結果によると、年収の平均値が545万7000円、中央値が423万円、最頻値は200〜299万円となっています。
これを見ると、あくまでも、統計上ではありますが、バス運転手の年収は、大きな原因とされているように、確かに、平均より低いことがわかります。
ただし、「令和2年分民間給与実態統計調査」によりますと、年収の中央値を、正規雇用と非正規雇用で比較した時に、正規雇用が456万円、非正規雇用が162万円と大きな開き(格差)があり、さらに、労働力調査(基本集計)2022年(令和4年)平均によると、役員を除く雇用者に占める非正規の職員・従業員の割合は36.9%に上るとされています。
その一方で、平均より低いとされる報酬についても、若い層に関しては、すべての事業会社ではないにしても、他業界に比べ、比較的いいとも言われています。非正規従業員ならば、なおさらです。
とするならば、相対的に年収が不利とならないこの層に、その期間だけでも、働いてもらえることはできないでしょうか?
若い人からすると、よほどバスが好きでないかぎり、バスの運転手で一生過ごすのは、しんどいと考える人も多いでしょう。しかし、何か自分がしたいことのための修行と考えればできるのではないでしょうか。さらに、別の、自分たちが望むキャリアパスが、バスの運転手の先に見えるとするならば、なおさらです。
その場合でも、退職後も予備役や臨時運転手、パートタイム運転手として、地域に貢献してもらえれば、新たな関係の構築、エクストラな収入を得る機会を創ることもできるだろうと思います。そうなると、ちょっと大げさかもしれませんが、みんながバスの運転で、社会に貢献できる街ができそうですね。

◆まとめ

・バス運転手という職業が嫌な原因ばかり探しても、片手落ち。積極的に、運転手になる、魅力を考えなければならない。
・ネットワークとキャリアパスを築くことで、新たな魅力を生み出すことができる。
・バス運転手にも、予備役、臨時、パート様々な働き方もあっていいと思う。そして、それにより、手の空いている人が、足りないところを補い合う社会ができる。

◆最後に

このアイディアが、現実的には、可能なのかわかりません。もしかすると、運転手さんや事業会社から見ると、失礼なほどに、無理のあるものかもしれません。ただ、何かの役に立ってくれれば、と思っています。
我々は、今、これまでの常識を打ち破り、古い(もしかすると、古き良き)日本を変えなくてはならないところにいると感じています。
その常識のひとつが、年功序列や、終身雇用であり、お金を払っているから、立場が強いとか、「お客様は神様」的な思考であり、そういった類のものなのだと感じています。
この常識を打ち破るには、誰もが、心に少し余裕を持って、自分のことだけでなく、社会全体、他人のことも考えられるようになり、「共感」ができた時に、成し遂げられるものなのかなと思います。
そして、今回述べてきたことは、バスの運転手に限らず、教師も、保育士も、介護士も、人手不足で、過酷な労働環境が問題視されている業界では、同じことが言えるのではなかろうかと思っています。

今後も、引き続き、そういった問題を考えていきたいと思います。
お忙しい中、長文をお読みいただき、ありがとうございました。

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