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[TGS2022振りかえり] 韓国のゲーム、今年は通訳や翻訳で紹介されただけ?前編

 東京ゲームショウ(TGS)2022のオンライン企画の集計データが発表された。リンク先の記事にリリースが引用されているので、データはそちらを見ていただくとして、リリースには中国向けの配信についても書かれており、DouYu、bilibili、Douyin、HUYAといった中国の配信プラットフォームでの視聴数がいかに多かったかがわかる。その4つを合計すると9,974,537回で、これは総視聴回数26,892,428回の約37%を占める。YouTubeなどを含めるとさらに割合は大きい。数字で見ると、中国の規模のすごさを思い知らされる。

 一方、韓国語はどうかというと、そもそもTGSの公式サイトが日本語・英語・中国語対応のみだし、韓国語で楽しめるコンテンツはほとんどなかったようだ。公式番組を探してみたところ、3日目の9月17日(土)23:00~の枠、Project Moonによる『Limbus Company』のTGSスペシャル映像は音声が韓国語であり、韓国のファンらしきハングルのコメントであふれていた。公式Twitterアカウントの告知を見て集まったのだろう。このスペシャル映像は、韓国の開発者がプレゼンし、ナレーションも韓国語で、それらの日本語翻訳が字幕になっている。

 『Limbus Company』は『Lobotomy Corporation』『Library Of Ruina』に続くProject Moonの第3作であり、PCにも対応するようだが、キャラクターのガチャやシーズンパス、月額制パックといった課金要素のあるモバイルゲームで、韓国インディーゲームの中では最大級の規模だ。韓国の大手が公式番組を配信していない中で、セルフパブリッシングのインディーゲーム開発会社1社だけが気を吐いていたことになる。

 韓国のオンラインゲーム大手は、ネクソンが新作2作『The First Descendant』と『VEILED EXPERTS』をオンライン出展しただけだという。

 昔からある大手というのは、NCSOFT、NEXON(ネクソン)、Netmarble(ネットマーブル)の、いわゆる"3N"を指す。後発の企業としては、『PUBG』のKrafton、『ODIN:VALHALLA RISING』のKakao Games、『クッキーラン』シリーズのDevsisters、『黒い砂漠』のPearl Abyssなどがある。日本でサービス中のオンラインゲームはたくさんあるにも関わらず、これらの大手からの出展はなかったのが、動向として気になる。

 代わりに、キム・ヒョンテ氏が代表取締役を務めるSHIFT UPが開発した『勝利の女神:NIKKE』が目立っていた(事前登録受付中の段階)。サービスを提供するのはグローバルブランドのLevel Infinite。グローバルブランドをうたっているのだから、どこの国の企業かという説明は不要かもしれないが、中国のTencent Gamesのブランドである。注目したいのは、キム・ヒョンテ氏とディレクターのヒョンソク・ユー氏がTGSに合わせて来日し、日本のメディアのインタビューに対応していることだ(写真からすると、場所はTGS会場のLevel Infiniteブース?)。

 言うまでもなく、クリエイターと会って話が聞けるというのは貴重な機会で、このインタビューが実現したことは素晴らしいのだが、本記事では「韓国のゲーム、今年は通訳や翻訳で紹介されただけ?」と題して、韓国語でのゲーム紹介を通訳や翻訳を介して日本語にするだけではなく、日本語で一から考えた紹介がもっとあったほうがよかったという考えを述べたい。その視点で見ていくと、TGS2022への出展に足りなかったものが見えてくるような気がしている。

 去年のTGS2021はどうだったかというと、日本人の出演者を起用した豪華な公式番組が2つもあった。NCSoftの『リネージュW』がグローバル事前登録受付中の段階で、TGS公式番組「NCSOFT TGS2021 SPECIAL PROGRAM」(動画の公開期間は終了)では、ゲームキャスターの岸大河氏をMCに起用し、ゲストはお笑い芸人のマジカルラブリーの2人(野田ゲーの野田クリスタルと、相方の村上)。もう一人のゲストのちゅうにー氏は、リネージュM、リネージュ2Mの公式生放送にも出演している女性タレントで、ゲーム実況者。

 去年の『グランサガ』公式番組では、ファミ通にコラムも連載していた俳優の金子ノブアキ氏が公式アンバサダーとして動画に出演し、ゲームの主要キャストの声優陣とゲームをプレイする様子が披露された。こちらの動画は現在も視聴可能。
 こうした公式番組が韓国大手から出なかったというのが、今年のTGSの特徴ではないかと思う。

 では、『原神』などを手がけるHoYoverseのTGS公式番組のように、出演声優を招いてゲームやキャラについて語ってもらうトーク番組的なものが、韓国のゲームにあったかというと、TGS以外のタイミングでは行われていた。例えば前述の『勝利の女神:NIKKE』の事前登録生放送はTGS前の9月8日だった。

 7月には『ブルーアーカイブ』や『ガーディアンテイルズ』の生放送も行われていた。どちらもYostarが関わっているタイトルだが(Yostarは上海悠星網絡科技有限公司が母体)、ブルアカの開発はNEXON Games、ガデテルの開発/配信はKongStudiosであり、韓国の会社が開発している。
・2022年7月放送「夏のブルアカらいぶ!1.5周年記念すぺしゃる!」
・2022年7月放送「夏だ!海だ!ガデテルだ!SP」

 NIKKE、ブルアカ、ガデテルのキャラクターは女性ばかりで、美少女ゲームでもある。ストアの年齢欄を見ると12+と書いてあって、「こんなにエチエチでも12+なんですか!?」と思ってしまうが、モバイルゲームのストアの基準はそういうものらしい。しかし、肌の露出をどこまで見せるか/抑えるかという点で、多方面に配慮が必要となるだろう(国によって表現規制したバージョンで放送するのか、違いが見えてしまっていいのか)。よそのイベントに出展するよりは、自社のイベントで生放送をしたほうが自由だし、リスクを避けられるはずだ。それが理由かは定かではないが、ともかくこの3タイトルはTGS公式番組をしなかった。記事の冒頭に中国からの視聴が多いと書いたが、だからといってTGSで公式番組をやればいいというものではないらしい。

 それに加えて、ネクソンのオンライン出展を除いて、大手が軒並み出展をせず、韓国のゲームの紹介が、インタビューの通訳や、ゲーム紹介動画の翻訳だけになってしまったというのが、今年のTGSだった。日本人のMCがしゃべっている番組がない。
 『Limbus Company』のスペシャル映像にしても、あれはどちらかというと新規顧客ではなく、Project Moon作品のファンが集まってきて視聴している。新規のユーザーがなんとなく公式番組を見ていたら面白そうなゲームに出会ったというような、偶発的な出会いを起こすアプローチが足りなかったのではないだろうか。韓国のゲームの出展には。

 続いて後編はインディーゲームとレトロゲームに焦点を当てて、偶発的な出会いが起こるものになっていたかどうかを考えてみたい。


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