昭和のオッサン「テクノ・オプティミスト・マニフェスト」を書く
マーク・アンドリーセン(プログラマー/投資家)の書いた
「テクノ・オプティミスト・マニフェスト」
が波紋を呼んでいます。
マニフェストの内容を簡潔にまとめると
進歩を恐れて現在の世界を維持することを優先してはいけない
成長が全てを解決する。成長を促進させるのがテクノロジーだ。テクノロジーに楽観的になれ
テクノロジーを構築し、人類をより明るい未来へと導く、手段としての市場と資本主義を推進せよ
となります。
彼と彼の考えを賛同する人達は自分たちを
e/acc(Effective Accelerationism:効果的加速主義)
と標榜し
「全ての先端技術は世のためになるのだから、テクノロジーを規制せずに技術進歩を無制限に加速するべき」
と主張しています。
さて、みなさんは彼ら(e/acc)の主張をどう思いますか?
私は
シリコンバレー意識高い系こじらせカルト集団
と嫌悪感を抱きました。
私は
進化していくテクノロジーのおかげで、未来が現在よりもはるかに明る
くになる
と信じています。
だからこそ、エンジニアという仕事をしているわけですし、新しいテクノロジーも積極的に導入しています。
しかし、彼ら(e/acc)シリコンバレー連中の主張や手法は
ロシアのプーチン大統領や中国の習近平国家主席と方向性が違うだけであまり変わらない
ように私には思えます。
私は、市井の人が第一の目標にするべきことは
自分や家族など周囲の人を明るい未来に導くこと
だと考えています。
テクノロジーも資本主義も、そのための手段に過ぎません。
今を犠牲にすることで人類が進歩したところで、今を生きる我々にとって恩恵がないのであれば無価値です。
こういった考え方は
昭和の老害思考
と若い人には映るかもしれません。
現在メディアで人気を博している人達の顔ぶれを見ると、e/accの考え方は若者や意識高い系メディアを中心に絶賛され、今後日本に輸入されてそれなりの影響力を持つのではないでしょうか。
メディアでe/accの主張を絶賛する連中の顔ぶれも今から想像がつきます。
そうです。
今みなさんが頭に思い浮かべている連中です。
危険なので固有名刺を出すのは控えておきます。
話が逸れました。
個人の思想はどうあれ、私は個人が自分の「テクノ・オプティミスト・マニフェスト」を考えて自分の思考を整理し、内容を記述して手元に残しておくことは、とても良いことだと思いました。
というわけで、この投稿では私にとってのテクノオプティミズム
昭和のオッサンの「テクノ・オプティミスト・マニフェスト」
について記述したいと思います。
テクノロジーに対する評価
テクノロジーは素晴らしい恩恵を人間に与えてくれます。
なので
テクノロジーを遅らせることは、社会全体にとって非常に高いコスト
となります。
しかし残念なことに一部の業界では、テクノロジーの恩恵を軽視し、ディストピアやリスクの元凶とみなしています。
最近だと
生成AIは嘘をつく
暗号資産はテロリストの資金源になる
といったような意見です。
確かにこれらはテクノロジーが生み出した負の部分です。
しかし、テクノロジーは負の側面以上に、大きな正の価値を生み出していることも忘れてはいけません。
テクノロジーはこの1世紀の間だけでも、人類に大きな進歩をもたらしました。
これは、裕福な先進国、貧しい発展途上国も含め、全世界に当てはまります。
中には全体主義や戦争といった災厄を生み出し、これらを悪化させたのもテクノロジーのせいだと非難する人もいます。
実際、1910年代(第1次世界大戦)と1940年代(第2次世界大戦)の戦争では多くの死者を生み出しました。
これはテクノロジーが悲劇を増幅させた事例です。
しかし、このような恐ろしい災難でさえも、この100年間に起こった食糧、衛生、医療、インフラストラクチャーの絶え間ない進歩の偉大さには、圧倒されてしまうという事実があります。
このことは、進歩には犠牲が必要だというわけではありません。
テクノロジーの進歩自体を否定するべきではない
ということです。
テクノロジーの進歩は、私たち日常生活のQOL(Quality of life:生活の質)の向上にも反映されています。
例えば、インターネットの普及は、20年前には手に入れることができなかったような情報に、世界中のほとんどの人々が指先ひとつでアクセスできるようになりました。
私もこのテクノロジーの恩恵を受けた一人で、現在自宅でリモートで働いています。
新卒時代、通勤に往復2時間以上をかけていた時とは、QOLがまるで異なります。
また、自宅の物理的なスペースを占拠していたCD、本、ゲーム、DTM機材といった品も、今はパソコン内にデータとして保存されていて、物のない綺麗な部屋で日々を過ごせています。
このようなことを考えると
テクノロジーの進歩を減速させようという議論には賛同できません。
すべての分野が相互につながっていることを考えると、特定分野の減速でさえ抵抗があります。
一方、テクノロジーの進歩にはメリットだけでなくデメリットもあることをしっかりと認識しておく必要があります。
デメリットについてもしっかり認識し、対策を考えた上でテクノロジーを進めていく必要がある
と私は思っています。
では、次はテクノロジーのデメリットについて考えてみます。
テクノロジーのデメリット
ここ最近のテクノロジーによって引き起こされた大きな問題は
環境問題
が挙げられます。
先進国が生活の豊かさを求めてテクノロジーの進歩に邁進した結果
過去100年間、あらゆるものが良くなってきたという傾向の大きな例外が環境問題
です。
最悪の気候変動シナリオでは、世界の最貧国のGDPが25%も低下する可能性があるという報告もあります。
しかし、テクノロジーはこの環境問題も解決しつつあります。
19世紀後半に問題になった光化学スモッグは激減し、都市の空気はきれいになっています。
ある程度年齢を重ねた方は、昔よく流れていた光化学スモッグ注意報を最近聞かなくなったことに気づいているでしょう。
また、世界の多くの地域で森林面積が増加していて、酸性雨の危機も改善しつつあります。
オゾン層も数十年にわたって回復を続けています。
今の若い人達はオゾン層問題など知りもしないでしょう。
このように
私達の文明の技術のバージョンvが問題を引き起こしても、バージョンv+1がそれを解決する
ということはよくあることです。
ただし、これは自動的に起こるものではなく、人間の意図的な努力が必要になります。
オゾン層が回復しているのは、モントリオール議定書のような国際協定を通じて、私たち人類が回復させたからです。
大気汚染が改善しているのも、私たちが改善させたからです。
気候変動を解決することの重要性に対するここ数十年にわたる認識が、技術者達をこの問題に取り組む気にさせ、企業や政府が研究に資金を提供する気にさせたからです。
そして、これらの問題を解決したのは、政府、科学者、慈善家、企業、あらゆる視点を考慮した言論や文化を通じて生まれた行動です。
つまり、テクノロジーだけで問題を解決したわけではありません。
e/acc推進派たちは、テクノロジーが引き起こした環境問題についての失敗を無視するべきではありません。
AIがもたらす未来
最後は、テクノロジーの未来について考えてみます。
今後社会に大きなインパクトを与えるテクノロジーがAIであることは、誰の目にも明らかでしょう。
AIは他の技術とは根本的に異なります。
AIは
急速に知能を高めつつある新しいタイプのテクノロジー
であると言えます。
産業革命により機械が人間を体力で凌駕したように、AI革命では機械が人間の知力を凌駕するでしょう。
いずれは
AGI(人工汎用知能)からASI(人工超知能)へと進化し、あらゆる分野で人間よりはるかに賢いAIが登場します。
ASIが登場すれば、人間では理解できないことを、AIが考えて実行してくれるようになります。
これは人間以外の動物が人間の思考の真似をできないのと同じで、人間もAIが何をやっているのかわからなくなるということです。
その世界は2060年にも訪れると予測されており、その後人間という種がどうなっていくかは、誰にも想像がつきません。
発明家カーツワイルは、人間が完全に人工的な存在になる時がくると信じています。
AI革命は、人間とAIの融合によって終わりを迎える
と彼は言っています。
これはAI界隈では結構有名な話です。
e/accの賛同者達は
全ての先端技術は世のためになるのだから、テクノロジーを規制せずに技術進歩を無制限に加速するべき
といっていますが
人間とAIが融合する
という世界が、果たして世のためになると考えているのでしょうか。
聞けばきっと
「その通り」
という返答が返ってくるのでしょうが、私にはそう思えません。
GhatGPTすら使いこなせていない人がほとんどの現状で、このような超高度のテクノロジーが世のためになるとは考えにくいです。
まとめ
今回は
テクノ・オプティミスト・マニフェスト
を書いてみました。
私が最初マーク・アンドリーセンのテクノ・オプティミスト・マニフェストを読んだ時は、ちょっと引きましたが、あたらめて自分でテクノロジーのことを考えると、自分自身もテクノロジーに大きな恩恵を受けていると思い知らされました。
一方で
テクノロジーが世界大戦や環境という問題に対して与えた影響の大きさを考えると、e/accの主張に100%賛同することはできない
と思いました。
もし、あなたがe/accのことに対して思うことがあるなら
私のように
自分のテクノ・オプティミスト・マニフェストを書いてみることをオススメします。
自分の考えを整理するきっかけになるはずです。
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