「AI vs 弁理士」のイベントをしました。開発の裏側も。

2019年10月10日に渋谷東京カルチャーカルチャーで、「AI vs 弁理士」のイベントをしました。
当日は、130名を超える来場者の方にお越しいただき、とても賑わいました。


イベントを始めた経緯

2019年の年始のブログで、「AI vs 弁理士 」のイベントやりたいなあと書いたところ、クラウドサインの橘さんから「一緒にしませんか?」とお声掛けいただき、実際に動き出すことになりました。
この一声がなければ、このイベントを実際に実現することは難しかったと思いますので、本当に感謝です。

ルール作りを始める

今回の対決では、以下のような条件でルールを作りました。

・商標を知らない人にも楽しいイベントになるか
・正解、不正解には客観性があるか
・データが十分にあるか
・参加弁理士が知らない案件か

色々候補は上がりましたが、上記の条件を一番満たしている審査の結果(拒絶理由が通知されるか否か)の正答率で競うことに決めました。


観覧者も巻き込みたい

僕は個人的に、クイズは好きだし、みんなも好きなんじゃないかなと思いまして、観覧者参加型で一緒に対決を体験できる仕組みにしました。

結果、めちゃくちゃ盛り上がったのでよかったです。やっぱり一緒に体験すると楽しいですよね。


当日の結果と感想

画像1

対決結果
1st   Stage 画像商標対決 :弁理士 WIN
2nd Stage 類否判断対決 :弁理士 WIN
3rd  Stage 識別力対決  :AI WIN

1st Stage 画像商標対決:弁理士 WIN
画像商標対決は自信があったのですが、ちょっと苦手な画像が出題されてしまいました。似たような画像はいくつも見つかった一方、同一の出願人は除外するなど純粋な類否以外にも考慮することが多かったです。
ちなみに幾何学図形はものすごく得意なので、もしこのような画像が出題されれば勝てた可能性が高かったと思います。

2nd Stage 類否判断対決:弁理士 WIN
事前のテストでは60〜70%くらいの精度でしたので、運がよければ勝てるかなあという印象でした。4000程のデータしか使っていないため学習用データを増やせばまだまだ進化させられるなと思いました。

3rd  Stage 識別力対決AI WIN
正直とても自信がなかったです。当日会場入りした後も細かいチューニングをしていました。対決の時にAIの回答をリアルタイムに見てましたが、僕の弁理士の感覚ともほとんどズレなく回答してくれてました。

全体の印象
予想以上に、全体的に接戦でした。1勝できたのは嬉しかったです。

開発の裏側

1st Stage 画像商標システム
画像商標のシステムは、ニューラルネットワークを使った類似画像検索という手法を採用しています。さらに勝率を上げるためにゴリゴリ機能を追加しました。具体的には、検索結果の中からチェックした商標を基にさらに似た商標を見つけてくる機能や、類似群コードでの絞り込み機能です。結構いい感じに仕上がったと思います。

2nd Stage 類否判断システム
現在の商標の審査では称呼を最も重視しているため、称呼を重視したシステムを構築しました。これもニューラルネットワークによって作られています。審査基準や実際の審査結果を中心にシステムに学習させました。

3rd  Stage 識別力判断システム
識別力は本当に難しく、当初とっかかりさえ思いつきませんでした。
審査基準や審査結果を基にしていますが、それ以外にもウェブにある多くのデータを利用しています。最も難しかったのは「未知な言葉をどうする?」という課題ですが、なんとか頑張って克服しました。(詳細はナイショで)
ちなみに、これもニューラルネットワークです。ニューラルネットワークの万能さが凄いです。


感想
商標のAI開発は、AIを深く理解することと、商標実務を理解することの両方が必要になると改めて感じました。「審査基準ではこう書いてあるけど、最近の審査傾向だと必ずしも違うよね」など、開発時に実務の知識をドンドン入れました。
開発の過程で面白かったのは、AIだけでなく、僕自身も大量のデータに触れたので、実務家として若干レベルが上がったことです。短時間に数千件という審査結果を見ることは普通はないので、人間も大量のデータを見るとレベルアップします。

AI開発の大変なところ

今回、データを集めるのにとても苦労しました。AI開発が進むかどうかは、データにかかっています。
特に、特許庁の判断の根拠は容易に手に入れることはできず、人力で集めたところも一部あります。

今後、特許庁から全てのデータを開放されれば、さらにAI開発は進むでしょう。ここは是非ともお願いしたいところです。


AIは弁理士を代替するのか

結論ですが、「しない」と思います。

自分でAIを開発して感じるのは、AIの限界です。
AIは従来のシステムではできなかった複雑なタスクもこなすようになってきています。
しかし、「言葉の意味合いを理解する」「クライアント毎に個別事情を考慮してアドバイスする」などは、現在の技術ではほとんどできません。


AIは弁理士を助けるか?

「AIは弁理士を助けるか?」と言われれば、100万回くらいYES!と言えます。AIの限界と共に可能性も非常に感じます。

例えば、画像商標の検索は、ウィーン分類というタグのみで検索していたものを、AIの力を使い時間を短縮することができます。(今回は負けましたが・・)

30分かかっていたタスクを、5分で済ませることはできるようになってきています。

余った時間は、今までできなかったサポートをするなど、さらなる付加価値の向上に使うことができます。


弁理士の進化の形

道具は、常に人間を進化させてきました。それは、今後も同じだと思います。つまり、弁理士として進化する方法の一つは、道具を進化させることが考えられます。

もちろん、「判例を勉強する」なども必要になるのですが、どのような道具を使うかで効率が格段に変わります。また、その道具の変化も激しくなると予想されます。今後、Toreruとしては道具を作っていくという形でも、業界に少しでも貢献できればと考えています。

AIの可能性と限界を知るイベント

接戦であることで、AIの可能性も感じましたし、同時に適用できる範囲に限界も感じました。

このイベントを機に、「AIは弁理士に代替されるか否か」という議論ではなく、「どこにAIを使えば弁理士はもっと進化するか」という議論になれば、嬉しいなと思います。
弁理士が進化することで、クライアントにもっと貢献することができ、市場を広げることができるからです。

今後どうするか

第2回AI vs 弁理士を期待されているのですが、ゆるりと決めていきます。

次回があれば、今回のイベント以上に面白いものにできれば良いなぁと思います。


最後に

・共催いただいたイッツ・コミュニケーションズ株式会社様、弁護士ドットコム株式会社クラウドサイン事業部様、
・参加いただいた中村先生、瀬戸先生、岡村先生、
・協賛いただいた特許業務法人IPX様、株式会社イーパテント様
・問題作成いただいたIPTech特許業務法人様、
・当日お越し下さったみなさま
たくさんの方々のご協力によってイベントを無事終えることができました。本当にありがとうございました。

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