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高校時代の同級生T君の驚くべき才能

高校1年で同級生になったT君。
彼は私のすぐ前の席に座っていた。

英語の授業中。
T君は先生の話をまったく聞いていない。
それどころか、一心不乱にシャーペンを動かしている。

時折、勢いよく「シャ、シャ、シャ」という音が聞こえる。
たぶん、何かを描いている。
書いているのではなく、描いている。

ひとしきり動いた後に、満足気に「ふぅ」と一息ついた。
そして紙を裏返した。
間をおかず、次の紙を取り出し、また動き始める。

一体何を描いているのだろうか。
気になる……

先ほどと同様に、しばらくして「ふぅ」と言う。
描き終えたのか?

また同じように紙を裏返す。
そして次の紙を取り出す。

授業時間はもうすぐ終わる。
3回目のサイクルの終盤か。
まだ描いている途中のはず。

気になる……

そしてチャイムが鳴る。
先生が授業の終わりを告げる。
挨拶に立ち上がる時、彼の机上をのぞく。

ほんのわずかに見えた!
なにやらロボットのようなもの。

彼はすぐに誰にも見られないよう、描いた紙を裏返した。
惜しい!全体像は見えなかった。

次は数学の授業。
開始とほぼ同時に、また同じ作業を始めるT君。
誰もノートをとっていない時間帯も、手を休めない。

先生から見れば、熱心な生徒に見えるかもしれない。
ただ、私だけは知っている。
彼が授業をちっとも聞いていないことを。

数学の授業では、4回同じ作業を繰り返した。
(1枚描き終えて「ふぅ」)×4。
英語の授業の時よりペースが上がっているようだ。
1枚多い。

やがて数学の授業も終わった。

もう我慢できない。
そして話しかけた。

「何描いてるの?」

T君はちょっと照れ臭そうに微笑んだ。
そして紙を裏返して見せてくれた。

そこに描かれた絵を見て、思わず!
「お~~~!!」と声を上げてしまった。

目に入ったのは、ザク、グフ、ドム、ガンダムなどなど。
見知ったモビルスーツ!
精巧なタッチ!
見事に描きあげられたモビルスーツ達の姿があった。

T君は脳内の映像だけを頼りに、モビルスーツを描いたのだ。
にわかには信じられなかった。
しかし、その様子を真後ろで見ていたからわかる。
何も参照してなかった。
イメージと記憶だけを頼りにしていたはずだ。

ならば!と。
昼休みに、リアルタイムでその様子を見せてもらった。

「ザクレロ描いてみて」
結構ムリ目を狙ってみた。
ザクレロは、かなりマイナー。
しかもモビルアーマー。

彼は少し悩んだように、しばし考えていた。
2~3分、石のように固まっていた。

やがてシャーペンを持つ。
そして勢いよく描き始める。
一度動き出すと、止まらない。
全体をザっと。
少しずつ細部に手を入れる。
見る見るうちに完成に近づいていく。

約10分後。

目の前にあるのは、記憶の中のザクレロと一致する鉛筆画。

超マイナー、かつ、数カットしか登場しないザクレロ。
それを10分という短時間で描き切ったのだ。
記憶だけを頼りに。

こういう特殊能力との出会いは、そうあることではない。
脳内の映像イメージを実際に描ける人。

私にはまったくない能力。
小学生の頃、少し漫画家に憧れた時期のあった私。
心底うらやましいと感じたことを覚えている。

T君は今頃何をしているのだろうか。

#ガンダム #ザクレロ #モビルスーツ #モビルアーマー
#画家 #才能 #思い出 #映像記憶

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