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おすすめの教科書(物理学)

僕自身が読んで、おすすめできる物理学の教科書を紹介します。分野としては物性物理量子情報まわりのものとなります。

まずどんな人・場面におすすめなのか。

  • 学部3〜4年生で基礎的な物理や数学を理解している人

  • 物性物理、特に量子論を使った内容を勉強したい人

  • 自主ゼミなどで輪読する本を探している

こういう人におすすめの教科書たちです。


1. Nielsen and Chuang "Quantum Computation and Quantum Information"

量子情報の本といえばこれ」っていうくらい定番の教科書です。「ニールセンチャン」「QCQI」「Mike and Ike」などと略されるようです。

内容としては大きく2つ、題名の通り量子計算量子情報が含まれています。量子計算の方では具体的なアルゴリズムや量子コンピュータについて扱います。量子情報の方はより抽象的な概念(エンタングルメント測度やエラー訂正)を扱います。

ページ数が多くて読むのが大変そうに見えますが、地の文が多かったり、丁寧に書かれているのでそこまで苦しくはないと思います。自主ゼミなどで集まって読めば半年くらいで終わるでしょう。

実は最近、物性物理で伝統的に研究されてきた量子多体系の量子情報的な側面を明らかにするという研究の動向もありますので、この教科書は何も「量子コンピュータを作りたい!」みたいに思っている人以外でも読む価値はあるのかなと思います。

2. Di Francesco et al. "Conformal Field Theory"

こちらは共形場理論についての教科書です。ページ数が900くらいあります。一冊をまるまる通読するという目的ではあまりおすすめできません(僕も全部は読めてないです)。ただ、共形場理論の導入は非常に丁寧かつ詳しく書かれており、意外と初学者にはおすすめの本となります。

共形場理論は物性物理では臨界現象の記述に用いることができる強力な理論です。他にも弦理論など、素粒子・原子核・宇宙の分野でも標準的な言語となっているような理論です。物理学を志すなら知っておいてまったく損はしない理論だと思います。

この本の内容は、最初の6章(200ページ)までに共形場理論の基礎を説明します。場の量子論や統計物理学を多少知っていれば比較的スムーズに読むことができます。7、8章はミニマルモデルと呼ばれる、共形場理論の中でも特別な理論についての説明です。例えばイジングモデルの臨界現象はミニマルモデルを用いて完璧に記述することが可能だったりします。9から12章までは物性物理でも必要になるいろいろな共形場理論の性質などについて解説がなされます。ここまで読んで僕は十分だ〜と思ってしまいました。さらに続いて、共形場理論の代数的な構造や素粒子への応用を視野に入れた内容が出てきます。

丁寧に豊富な内容を解説していることから、この教科書が共形場理論の定番の教科書として、多くの論文や他の教科書で引用されています。一度読んでみてはどうでしょうか。

3. Fradkin "Field Theories of Condensed Matter Physics"

これまたページ数が800もある大著です。場の量子論を用いた物性物理を説明しています。正直、丁寧には書かれていないし教科書というよりはレビュー論文の性格があるように思えますが、題材の豊富さからおすすめとなっています。

構成は単純で、前半7章は1次元系を題材に、8章から16章は2次元系、17章は量子情報に関連したテーマを扱います。1次元系で面白いのはやはり臨界現象で、横磁場イジングモデルやXXZモデルの解析を場の量子論や共形場理論を用いて行うのは楽しいです。この教科書では共形場理論の解説はほとんどないので、上で紹介したFrancescoの教科書をかじっておくとより楽しめると思います。2次元系はゲージ場が出てきたり、トポロジーを用いた場の量子論などが現れて、これまた豊富な話題があって楽しめます。

この教科書の第2版は比較的最近出版されたもので、新しい内容も含むので研究のレベルでも役にたつことはありそうです。

まとめ

以上3冊が僕が4年生の時に読んで有用だったなと思う教科書たちです。僕は場の量子論も好きだし、統計物理も好きでどんな分野に進みたいか決められませんでした。しかし、物理のいろんな領域にまたがってる研究分野や手法もあるので、ここで挙げた教科書を読めばそのような分野についても知ることができるのではないかと思います。

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