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日本企業のDXは何故うまくいかないのか? 変革受容性の極端な欠如

チェンジマネジメントの大家であるジョン・コッターは、企業は安定的・固定的なアウトプットを効率的に行うことを目的としたヒエラルキー組織と重畳的に、変革のためのネットワーク組織を持つべきだと言っています。社内コンサル組織や、伊藤忠の第8カンパニーのようなものを言っているのでしょうね。

コッターは、典型的なチェンジマネジメントの適用対象として「ERP導入」を挙げています。若い頃不思議だったのは、海外で作られたERP導入方法論のWBSを見るとチェンジマネジメントのタスクが必ず入っているのに、日本ではチェンジマネジメントは全く意識されていないということです。日本の会社員は従順なのでチェンジマネジメントなど意識しなくても大丈夫なのか?

事実は、逆なのです。海外ではERPを産業テンプレートなどとともにほとんどそのまま導入し、組織やプロセスをERPに合わせて導入している。なので、組織的な抵抗も大きくチェンジマネジメントが必要だが、日本では現行プロセスに合わせてAdd-onのプログラムを沢山作ってしまう。これでは、高くつくし、バージョンアップなどの時にAdd-onを作り直さなければならない。せっかくパッケージを使って開発費を節約しても、ライセンスの他にAdd-onの開発費が大きくかかってしまう。それがだめなことだとは、みんなわかっています。でも、それをやるしかない事情があるのです。

日本企業の組織の変革受容性が極めて低いのです。現場の声が大きく、プロセスや出力帳票を変えようとすると大きな不満が出る。顧客を失うとか、安全に影響するという話までして抵抗する。これが経営トップに上がると、「自分はITのことはわからないので」情報システム部門でなんとかしろと押し付ける。情報システム部門の実態はIT購買部門なので、チェンジマネジメントの能力などあるはずもなく、導入ベンダーになんとかしろと言う。ベンダーもチェンジマネジメントよりもAdd-on開発の方が儲かるので、喜んでAdd-on開発を引き受ける。この現象は、情報システムだけじゃないですけどね。道具の類は全てこの調子で、製造装置の制御盤や飛行機の操縦席まで納入業者にカスタマイズ開発させています。

そんな日本企業がDXに挑戦です。トランスフォーメーションなので、今までの現状に合わせていたら意味がない。でも、トップはそんな実態を意識すらしていないので、「DXをやれ!」とあいかわらずゆるい指示を出している。最初は教育とデータマネジメントプラットフォームの構築などでお茶を濁すのですが、その後本当にトランスフォーメーションできるのか?

企業側が変革受容性がないだけでなく、日本企業に迎合してきたコンサルタントたちも、チェンジマネジメントを真剣に行おうという気もないし、その能力もない。

GEは2011年にインダストリアル・インターネットというAPMやEAMのプラットフォーム戦略を大々的に発表しましたが、2019年にひっそりとそれを引っ込めてしまいました。戦略は素晴らしいけど、GEデジタルと既存事業部の確執のために戦略を実行できなかったのです。日本でも、GEのようなDXの失敗例が出てくると、少し意識が変わり、危機感が醸成されるかもしれません。でもその前に、このままでは、GEのようなチャレンジすら行われないように思います。

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